第158話 聞きたくない裏話

「……っていう感じです」


 銀色のドラゴン、アージェンタさん相手に今までの状況を説明する俺。

 聞き上手というか、途中で話を遮ってきたりはせず、それでいて要所要所で質問はしてくれるので話しやすかった。


「制御室への通路が遮断されたままですか……」


「崩落した場所から向こうの地図があれば、そこを迂回することも可能だと思うんですけど」


「地図は……竜の都へと戻ればあるかもしれませんね」


 竜の都。そんな場所あるんだ。


「アージェンタさんはそこから?」


「はい。そういえば、こちらのことを話していませんでしたね」


 そういって説明を始めてくれるアージェンタさん。

 竜の都はかつて古代文明が最も栄えた場所だったそうだが、魔導施設の暴走により廃墟化した跡地だそうだ。

 女神との約束というのは、竜族がその地を好きにして良い条件の代わりに、二度とそんなことが起こらないように、残された魔導施設を管理することらしい。


「定期的に竜の都を巡回していますが、機能停止していたはずの転移魔法陣が、再稼働しているのに気がつきまして」


「あ、俺が非常用のあれにマナを入れたからですか?」


「でしょう」


「なんだか、すいません」


「いえいえ。おかげでここを見つけることができました」


 そうにこやかに(?)返してくれるアージェンタさん。

 このサイズの転移魔法陣は起動するにもロック解除が必要で、俺が入れたMPでそのロック解除がされたらしい。

 まあ、これだけのサイズを転移させるってなれば、そういう安全装置? みたいなのも必要なんだろうな。


「ここってなんのための部屋なんでしょう?」


「大規模な物資転送を行なっていたのではないかと。何を運んでいたかについてはわかりませんが」


「なるほど。だからこんなに広いのか……」


 ここで何かを作って送ってた? それか逆かな?

 なんだっけ? 『マナリサイクルシステム』とか書いてあった記憶……


「この部屋とか上の通路にいたスケルトンとかゴーストって?」


「おそらくは魔導施設の暴走で逃げてきた人たちでしょう」


 転移魔法陣を使って逃げてきたけどって感じなのか。

 あの『解錠コード』が開けられれば助かったのかも……


「暴走って何があったんでしょう?」


「女神の話では、周囲のマナを集めて結晶化する施設を作っていたようです。ですが、その暴走は、この星のマナを枯渇寸前まで追い込みました」


 想像以上にひどい暴走だった……

 っていうか、そんなこと起きたら、ゲーム的にもMP枯渇してスタン。からの、自然回復なしで餓死ってパターン? 怖すぎる。


「古代文明ってそれで滅んだのか……」


「ですね。竜族のように種として強いものはともかく、人種は9割近くは亡くなったかと」


 それで魔法がロストテクノロジーになったんだろうなあ。

 前にセス美姫が王城だったりは、古代文明が残したものをそのまま使ってるって話をしてたけど、これでつながった感じかな。


『ショウ君。誰かがここにくる可能性について聞いてください』


 あ、そうだった。

 でかい転移魔法陣だけじゃなくて、普通サイズ(?)の転移魔法陣もあって、それを使われてこの島に来られても困る。……俺の島ってわけでもないけど。


「この転移魔法陣で、誰か他に人が来たりしますか?」


「いや、それはないでしょう。竜の都、例の魔導施設があった区画は竜族以外立ち入り禁止に。巨人族や翼人族といった庇護下の種族にも近寄らぬよう申しつけております」


 ん? え? 巨人族や翼人族?


「今大陸で有翼人や巨人の人たちが、王国や帝国の人と接触してるって……」


「おや。その話をどこで?」


「どこでって言われると難しいですね。ここじゃない世界って言えばいいのかな」


 ゲーム内のNPCってゲーム外のことどう認識してるんだろ?

 プレイヤーそのものは『祝福を受けた』って扱いだけど……


「なるほど、女神の住まう世界でですか。

 確かに人種が王国や帝国を名乗る国の北、白竜山脈にある古代遺跡も竜族の管轄下にありますね。

 つい最近、それらに魔物の氾濫の予兆がありましたので、各種族に人種を助けるよう指示は出しましたが」


「助ける?」


「お姫様ひいさまの申しつけですね。これに関しては気まぐれとしか言いようがありません」


 お姫様ひいさまって古風な言い方だなあ。

 いや、それはいいとして「助けるよう指示」って話がどこでねじ曲がってるんだ?

 巨人さんたちはその指示を愚直に守ってたっぽいけど、有翼人はなんであんな高慢な態度なんだろう……


『ショウ君?』


「えっと、これは聞いた話なんで、本当かどうかはちゃんと確認を取ってもらった方がいいと思うんですけど……」


 王国のアミエラ領。ベル部長やセス、レオナ様たちがいる開拓地に現れた有翼人のことを話す。

 多分、アージェンタさんが言ってる翼人族って、あの有翼人のことだよな。

 確かに助けてくれたんだろうけど、あの態度はちょっとどうかと思うし。


「なるほど……」


 そう言って目を閉じ、眉間をもむアージェンタさん。ドラゴンなのに動きがとても人間っぽい。


「俺が直接見たわけじゃないんで……」


「いえいえ、容易に想像がつきます。かの種族は優秀ではあるのですが、どうも気位きぐらいが高く、飛べぬものを下に見る癖がついておりまして……」


 魔導施設の暴走以来、元素魔法による転移はロストテクノロジーに。

 そうなると、空をかなりの速度で飛べる有翼人は一気に優位な存在となった。

 当初は生き残った人たちを繋ぐ存在だったのが、だんだんと……っていう感じらしい。


「彼らが人を見捨てたのではなく、人が彼らを見捨てたということに、気づいてくれれば良いのですが」


「はは……」


 ドラゴンなのになんだか大変そう。


「でも、巨人族の人たちは随分と謙虚な感じでしたけど」


「彼らには魔導施設を暴走させた種族という負い目があるのです」


「え?」


 なんでも、その暴走を引き起こした張本人っていうのが巨人族だったそうで。

 巨人族に生まれながらも、小柄なことで不遇な扱いを受けていた人物がいて、その人がわざと施設を暴走させたらしい。

 それが復讐だったのかどうかはわからない。その本人も死んでしまったから……


「彼らは人と関わることを恐れているのですよ。また同じ過ちを犯すのではないかと」


「なんだか切ない話ですね」


 ミオンの話だと、巨人さんたちは帝国の人たちを助けた後、そっけなく帰っちゃったそうだけど、それも昔を引きずってるってことなんだろうな。


『ショウ君。そろそろ時間が……』


「すいません。もう戻らないと」


「いえいえ、私もそろそろ戻ってお姫様ひいさまに報告しなくては。後日また、連絡させていただきます」


「あ、はい」


 いろいろとこの世界のバックグラウンドが聞けたし、この古代遺跡の情報ももらえるかも?

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