第157話 記録にあったこと

「もう大丈夫そう?」


「ワフン」


 ルピが大丈夫だよと言ってくれるので、精霊の加護を解除。

 MPが残り3割ぐらいだったのが、もりもり回復し始めて一安心。


「さて、暗いままだとアレだし、もう少し高い場所から明るく照らして……いててっ!」


 光の精霊石にと思ったところで、スウィーが俺の耳たぶを引っ張る。

 意外と痛いんだけど、痛覚設定ってどうなってるんだ……


「〜〜〜!」


「え、何?」


 なんだか「こっちこっち」って風なんだけど、何かあるのか?

 そのまま低く飛んでいって壁の下の方へと。


「〜〜〜!」


「え? なんだこれ……」


 四角い窪みのような何かが壁にあって謎。


『何か……開きそうな感じじゃないですか?』


「ああ、それか」


 しゃがみこんでよく見てみると、上にスライドかな?

 微妙な引っ掛かりに指をかけて上に。


「開いた。これは……魔晶石?」


『隠しアイテムとかでしょうか?』


「いや、なんか違うと思う……。ああ、マナを入れろってこと?」


「〜〜〜♪」


 腕を組んでうんうんと頷くスウィー。

 なんで知ってるんだって気がするんだけど、こう見えてフェアリーの女王だしなあ……


「MPはもう大丈夫そうだし、やってみるよ」


『はい』


 魔晶石にMPを移すのはベル部長に教わったし、さっき使ってた中サイズの魔晶石で実践済み。指を添えてMPを流し込むだけ。


「おおっ!?」


 2割ほどMPを入れたところで、部屋が急に明るくなる。


『すごいです!』


「これ、非常用だったのか……ってか、広いなここ!」


 照らし出された部屋は美杜の体育館が縦に2つ並んだ感じ。

 どうやら他にモンスターはいないようだけど、なんか奥の方の床に模様が描かれてる気がする。


『どういう場所なんでしょう?』


「なんだろ。物置っていうか、倉庫みたいな雰囲気だけど……」


 とスウィーがもう大丈夫という感じで、俺の指を魔晶石から剥がす。

 無理に満タンにしなくてもいいってことか。


「ワフ」


「うん、ちょっと見て回ろうか」


 光の精霊の明かりは一応つけたままにして部屋の奥へ。

 この地面に描かれてる紋様、魔法陣なんだろうけど、異様にデカイ……


「〜〜〜♪」


「ん?」


 スウィーが指差す先には、少し小さめの魔法陣。

 1m四方はある感じのこれって、


「転移魔法陣な気がする……」


『えっ!?』


 念のため鑑定。


【転移魔法陣】

『MPを注ぐことで乗っている人や物を、対となる転移魔法陣へと転移させる。

 ただし、魔法陣の上に障害物などがあるときは安全の問題があるため発動しない』


「これが山小屋の1階にある転移魔法陣と繋がってる?」


『それだとあの「記録」を書いた人がここにいたことになりますよね?』


「ここにそれっぽい人……」


 あのスケルトンジェネラルではないと思うし、だとすると、ただのスケルトンかゴーストのどれか?

 いやいや、それはちょっと扱いが可哀想すぎるだろうし……


「違うか。あの人って、元々は中央の研究所にいたとか書かれてたし」


『はい』


 となると、この部屋の意味ってなんなんだろ。

 ぱっと見は倉庫? でも、それなら保管してあった何かがあってもいいはずだし、そもそもこの大きな魔法陣は一体……


「この大きい魔法陣も転移魔法陣なのかな?」


『え?』


「鑑定できるかな……」


 一応、対象から一定距離に近づけば鑑定できるはずなんだけど、何せこの魔法陣、体育館一つ分あるもんな。

 これって真ん中まで行けばいいのか? 端っこで鑑定できれば……


「ワフッ!」


「えっ!」


 でかい魔法陣が光り始め、慌ててルピと後ろに下がる。

 スウィーは!? ってフードに飛び込んできた。


『ショウ君、エレベーターの方へ!』


「あ、うん。一応、確認してから……」


 じりじりとエレベーターの方へ後退りつつ、目は光る魔法陣に。絶対にこれ何か出てくるやつだよな。


 次第に光が強くなり、ほぼほぼ視界が真っ白になる。

 しゃがんで右手で目を隠しつつ、左手の円盾をルピの前に……


「おいおい……」


 光が収まった中に現れたのは銀色のドラゴン。

 この広い部屋にみっしりという感じの巨大な体躯。

 俺ぐらいは丸呑みできそうな顔があちこちを見回したのち、足元の俺たちに気づいたのか、鋭い目で睨まれる。


「おや?」


 っていうか、今、しゃべった?


「貴方がこの古代遺跡を稼働させたのですか?」


「えっと、この部屋の照明はつけましたけど……」


「なるほど。完全稼働ということではありませんでしたか」


 そういって首を捻り、顎に指……爪をあてて考え込むような仕草?

 意外と表情わかるものなんだな……


『ショウ君?』


「あ、大丈夫。言葉が通じるから」


 ノータイムでブレス吐かれてたら終わってたんだろうな、これ。

 どんなブレスなのか知らないけど……


「あっ! ちょ、スウィー!?」


 フードにいたスウィーが勝手に飛び出してドラゴンの方へ飛んで行ってしまう。


「〜〜〜!」


「これは失礼しました。私は銀竜アージェンタ。改めて、突然現れたことをお詫びさせていただきます」


 そういって頭を低く下げて目線を合わせてくる。

 怖いんだけどフレンドリーでびっくりする……


「あ、えっと、ショウです。多分、今、この島に住んでる唯一の人間です。こっちは相棒のルピ」


「ワフ」


 ちゃんとお座りして挨拶するルピ。賢い。


「〜〜〜♪」


「フェアリーのスウィーは友だちです」


 戻ってきたスウィーが左肩に偉そうに座る。

 ドラゴン相手にその態度取れるのがすごいよ……


「なるほど、この島の人間は貴方のみと。この部屋をどうやって稼働させたか聞いてもよろしいでしょうか?」


「はい。えっと……」


 まず、下りてきて、スケルトンやらゴーストやらと戦ったことを話し、その後、スウィーに教えてもらった非常用電源っぽいやつのことを。

 その魔晶石にマナを入れたら照明がついたので、この部屋がなんなのかを調べてたら……


「なるほどなるほど。この古代遺跡のことを、知っている限りで良いので、教えてもらえますか?」


「はい。あ、理由を聞かせてもらっていいですか? できればですけど……」


「そうですね。ただし、このことは他言無用でお願いしますよ」


 俺の場合、ゲーム内で誰かに伝えることは不可能なんだけど、リアルの方で伝えるのはどうなんだろう? そんなことを考えてると……


『ショウ君、部室への配信ももう止めてあります』


 ミオンの言葉を聞いて頷く。


「私たち竜族は、はるか昔に女神と交わした約定により、古代遺跡を管理しています。

 この古代遺跡は、かつて魔導施設の暴走により連絡が途絶えた遺跡の一つ。私たちとしても知っておかねばなりません」


 魔導施設の暴走、連絡が途絶えた……

 あの『記録』に書かれてたこと、そのまんまだったのか。

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