第155話 バレてる? バレてない?

「こんにちは」


「ちわっす」


『こんにちは』


 心配してたベル部長が現れてホッとする。

 ヤタ先生に結構捕まってたし、赤点はないよな。


「……テストなら問題なく平均点以上取れたわよ」


「いや、何も言ってないんですけど」


「顔に書いてあったわ」


『ですよ』


 マジか……。てか、ミオンにもバレてたの?


「ちょっと遅かったから心配だったっていうか。それでホッとしたのが顔に出ただけで……」


「あのねえ。私だってクラスに友だちいるわよ? 連休前にやっとVRHMDが手に入って、IRO始めてたって子が多いから、ちょっと質問大会になっちゃってたのよ」


 なんかIROがめちゃくちゃ流行りだして、最新VRHMDはなかなか手に入らない状態だったらしい。

 VRHMDが売れれば、六条グループとして儲かるから、IRO自体はそんなに儲からなくても大丈夫とかそういうやつなのかな。

 あのクオリティー、どれだけ金の掛けてるんだよって感じだし。


『あの……、部長は魔女ベルなことを隠してるんですよね?』


「ええ、だから、VRHMDの基本的な使い方だけよ。最初のウェアアイディの登録や、身体計測からのアバター作成なんかをね」


「ああ、あれ面倒くさいっていうか、わかりづらいですよね」


 まあ、一度登録し終われば、どのVRHMDを使っても楽に認証できて便利なんだけど。


『部長が電脳部で詳しいからってことですか?』


「そうね。普段からアドバイスをしてるわよ」


 そりゃそうなんだろうけど、なんかもう普通に『魔女ベル』だってバレてるんじゃないの? それをみんな生暖かく見守ってくれてるような気がしなくもない……


「どうしたの?」


「あ、いえ。それはそれとして、昨日の話は大体聞いたんですが……」


「ああ、あれね……」


 そう答えて、ぐったりとゲーミングチェアに沈み込むベル部長。

 やっぱり、あの有翼人たちとの交渉はお疲れだった様子。


『次回はライブで交渉するんですか?』


「いえ、私は交渉の席から外れるつもりよ。正直、つまらない交渉ごとをライブしても楽しめないでしょ」


「確かにそういう物好きは少ないかと……」


 これがアンシア姫のライブだったりしたら盛り上がるんだろうけど。

 あそこの視聴者層ってそういう人たちの集まりだろうし。


『交渉はセスちゃんだけに任せるんですか?』


「まだ調整中よ。今日にもセスちゃんが子爵様に報告に行くから、その結果次第ね。私の代わりにはジンベエさんに入ってもらうつもりよ」


「あー、師匠は人生経験豊富そうでしたもんね」


「最初から頼めば良かったわ……」


 本人、あんまり前に出たがらない人らしいし、『白銀の館』っていう看板があるから、昨日はセスとベル部長が出たそうだ。

 ただまあ、次回の交渉はもっと具体的な話になるかもってことで、ジンベエ師匠やサブマスのユキさんが同席する方向で調整中とのこと。


「そっちはいいとして、ゲームドールズの人たちの話は聞きました?」


「ええ。何を考えてるのかわからないけど、今のところは様子見するしかないわね。こちらに不利益になるようなことをしてるわけでもないし」


 曰く、


『王国はいまいちだったので公国の新しい場所に行きます。ちょっと離れて活動してたメンバーもみんな集まって楽しもうと思います』


 だそうで。これって、ごく普通のプレイングだし、特に問題視されるようなこともないんだよな。ただ、建国即滅亡って前例のインパクトがすごいけど……


『気にしてもしょうがないです』


「そうね。有翼人との交渉でそれどころじゃない感じよ。それと……王国から出てくれてホッとしたわ」


「なんか、やらかしそうでしたよね」


「……あなたが言っても説得力ないと思わない?」


***


「なんか、学校で長い時間IROできるってのも不思議な感じ」


『そうですね。今日と明日は特別な感じがします』


 ベル部長と一通りの情報共有ののち、2時過ぎからIROへと。

 いつもの部活は5時半までだけど、今日は早めの4時半で終わりにしましょうということになった。

 残りの1時間は部室の掃除をするとのこと。


「ごちそうさま」


「ワフン!」


「〜〜〜♪」


 ルピだけでなく、スウィーやフェアリーたちも一緒にご飯。

 この間作った『とろとろ干しパプ』が随分と気に入ったようで……


『ショウ君。この前、言い忘れてたんですが、ステータス見せてもらっていいですか?』


「え、うん。いいけど、隠密スキルに何かあった?」


『いえ、そっちではないです』


 あれじゃなきゃ何なんだろ?

 ともかく、ステータスを開いて、


「スキル隠蔽は解除した方がいい?」


『いえ、そのままでいいですよ。ショウ君、島民の数が増えてます』


「え? ……は? 22人!?」


 いつ増えた? ってあれか!


「ドラブウルフの家族か!」


『ですね。あの子たち8人いましたから』


「ワフン」


 ルピが「私がやりました」みたいなドヤ顔してるので撫でてあげるしかない。

 10人突破で褒賞来たし、次は100人突破あたりかな?


「でもこれって、何を基準に島民なんだろうな。ドラブウルフたちって前からあそこに住んでたと思うんだけど」


『ルピちゃんの指揮下に入ったわけですし、そうなるとショウ君はさらにその上ですよね?』


「あ、うん、一応そうなるか……」


『島で唯一のプレイヤーのショウ君の庇護下に入ったから、ということじゃないでしょうか? フェアリーさんたちもショウ君が守ってあげてるわけですし』


 確かにルピのハウリングの効果に『同族を招集・指揮下におく』って書いてあった。

 ただ、それがずっと続くとは思ってなかったんだけど、今も続いてるってことか。


「懐いてくれてると島民なのかな。だとしたら、あのドラブウルフたちにもマメに会いに行かないとダメ?」


「ワフ」


「たまにぐらいで大丈夫?」


「ワフン」


 ルピの答えはそんな感じで、たまに様子見に行くぐらいでいいっぽい。

 まあ、この前はこっちが助けてもらったし、向こうが何かしら困ってるんなら助けてあげたいところ。


『今から見に行きますか?』


「んー、今日は先にあの下に向かう階段かな。あと、またスケルトン湧いてたりしないか確認したいんだよな」


『そうですね。あのスケルトンって……なぜあの場所にいたんでしょう?』


「それも謎なんだよな。多分だけど元は人だった感じだし、この島に昔住んでたとか? でも、あの記録を残した人は遭遇してないっぽいし……」


『ひょっとしたら、その人が駆けつけた事件と関係してるのかも……」


 あ、その線もあるのか。

 なんか、魔導装置が暴走してどうこうみたいな話だったし、その影響がこっちにまで?

 だとしたら、原因調査はしとかないとまずいよな……

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