月曜日

第154話 無茶な要求

「おは」


「おは。昨日、スキル上限突破したのお前だろ?」


「あー、だな」


 ナット曰く、公式フォーラムでは九分九厘俺ってことらしい。なんだかなあ……

 ただ、どのスキルを上限突破したのかは、意見が割れてるそうだ。

 調教、料理、素材加工あたりじゃないかって話らしいけど、どれも不正解なんだよな。

 気配遮断スキルが7あって、装備で+4されて11になって上限突破したことをナットに説明する。


「マジか。やっぱエリアボス素材ってすげえんだな」


「この間の襲撃の時に何かゲットしなかったのか?」


「おう。ウルクの牙はゲットしたぜ」


 牙か。あれ? セス美姫は角だったっけ?


「角と牙とは別だよな?」


「そりゃな。頭に二本あんのが角で、口から二本生えてんのが牙だ」


「何かしらアクセにしてもらった方がいいと思うぞ。ちょっと詳しくは話せんが、牙はペンダントとかがいいんじゃないか?」


「お、マジか? ちょっと知り合いに頼むわ!」


「素材加工スキルも重要かもだから気をつけろよ」


 なんなら、白銀の館にと思ったが、ナットがいるラシャード領だっけ? プレイヤーズギルド2つあるって話だしな。


「はいー、みなさんー、おはようございますー」


 熊野先生が現れて朝のホームルームが始まる。

 そういえば、俺とナットがダベってる間、ミオンといいんちょもなんか話してたけど、何話してたんだろ……


***


 いつものメンバーでの昼飯。

 そろそろ日差しがキツくなってきたし、屋上での昼飯も今月いっぱいぐらいかな。梅雨にも入るだろうし。


「で、二人はテストはどうだったの?」


「問題なし」


「おう、俺も」


 高校上がって一発目だったし、特に難しいこともなく。

 まあまあ、しょうもないミスはあったけど……


「じゃ、午後から補習ってこともないのね」


 今日明日と午前中はテスト返しと解説。

 午後は赤点だった連中は補習らしいけど、うちのクラスには誰もいないんじゃないかな。


「午後からは久々に部活だな!」


「連休前からになるから久しぶりよね」


 ああ、運動部の二人は連休中も部活なしだったから久々なのか。

 うちは家に帰って、飯食った後が本番みたいな部活だからなあ……

 ミオンがちょいちょいと袖を引っ張って、うん、あれね。


「昨日のIROは大荒れみたいだったけど、いいんちょ何か知ってる?」


「え? 美姫ちゃんから聞いてないの?」


「いや、美姫は昨日の晩はギリギリまでIROしてたみたいで、話す間も無く寝ちゃったし、朝は朝でボケてるしで……」


 午後からの部活でベル部長に聞くんだけど、一応、いいんちょの公平な目線からの意見も聞いときたい。


「私はそんなに深くは関わってないんだけど、ユキさんの話ではかなり無茶な要求をされたそうよ」


 なんとも困ったって顔で話してくれた内容は、確かに無茶苦茶な要求だった。

 まず、あの鉱床がある古代遺跡の所有権を彼らに渡すこと。

 あそこを利用する際に一定の料金を払い、かつ、掘り出した鉱石の半分は彼らに渡すこと。


「無茶苦茶だろ。美姫ちゃんキレてたんじゃないのか?」


「さすがに代理だったから我慢してたわよ。それよりも、ベルさんの方が……」


「うへ」


 なんだかんだ、ベル部長も……素直に感情が出るタイプだもんな。

 アンシア姫にボコられた時にマジ泣きしたらしいし……


「それ要求飲んだの?」


「いえ、あくまで代理という体にして『お話は受け取りました。持ち帰って上に報告します』で通したそうよ」


「すげえ! 大人の対応だな!」


 よくそんな対応で押し通せたなと思ったら、ジンベエ師匠からの入れ知恵だったそうだ。

 答えに困ることは全部それでかわすように言われてたらしい。


「でも、実際、あそこってアミエラ子爵の領地になるんだし、勝手に決められないよな」


「それがちょっと微妙なのよね」


「「え?」」


 微妙っていう意味がよくわからなくて、聞き返す俺とナット。

 いいんちょの話だと、彼らの主張はあの古代遺跡は北の山脈を持っている竜族にあり、我々はその使いだからということらしい。


「竜族ってドラゴンってことだよな?」


「あいつらが勝手に言ってるだけかもしれねーじゃん」


「それはそうなんだけど……」


 誰もその真偽がわからないから答えようがないって感じだそうで。

 やっぱり子爵様に聞くしかないって話になったそうだ。


「めんどくせー」


「だな」


「厄介なことになったら、俺らのいるラシャード領の開拓地へ来りゃいいんだよ」


 そう言って手をひらひらさせるナット。


「そんなわけにもいかないわよ。ギルドとして仕事を受けてるんだし」


 ホント、いいんちょは真面目だよな。

 ゲームなんだからって考えてる人の方もいそうな気はするけど、フルダイブでNPCも人間っぽいから、不義理するのもなかなかためらわれる気がする。


「結局、結論は持ち越し?」


「ええ、後日って話になったわね」


 とりあえずテスト期間が終わった後で良かったってとこかな?

 今回は俺の方から何か手伝うとかも出来なさそうだし、美姫を応援するぐらいしかないよなあ……


***


『ショウ君、明日公開する動画のチェックをお願いします』


「あ、うん。いつも任せっぱなしでごめん」


 俺は好きなようにプレイしてるだけで、いい感じの動画を作ってくれるミオン。

 最初は不思議だなとか、もともと趣味だったのかなとか思ってたけど、才能なんだろうなあ。

 内容としては、石造りの蔵と山小屋のリフォームの総集編。

 ライブでは完成したところを見せちゃったけど、その前とか、途中とかがちゃんと収録されてて面白い。

 あと、何気にマントの回復がすごいあたりはちゃんとスキップされてるし……


「うん、バッチリ。すごく良くできる」


『良かったです』


「なんか自分なんだけど、よくこんなの作ったよな。これで土間とか多機能石窯とか流行ったりしたら面白いんだけど……」


『流行るんじゃないでしょうか? 素材加工スキルも流行りましたし、ロープ作りは生産系の人はみなさん覚えたそうですよ?』


「うわ、マジか……」


 未開地の開拓っていう目的と、島でのサバイバルが合致してるからかな?

 まあ、あんまりそんなこと気にしてもしょうがないんだけど。


『それにしても部長が来ませんね?』


「だね。……まさか補習?」


『さすがにそれは先生が……』


 だよなあ。

 普段穏和なヤタ先生を怒らせたら……ちょっとゾッとするよな。

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