第150話 新しい家族の印

 ただただ、じっとそれを見つめ続けているルピ。


「ルピのお母さん?」


 狼って母親が家を守って、父親が狩りをするって聞いたことがある。特に子供が小さい間は。


『ルピちゃん……』


「ごめんな、ルピ。俺がもっと早くここに来れてれば……」


「クゥン」


 小さくそう答えて首を振る。

 亡くなったのは、俺と会う前ってことなのか……

 クローズドベータ、いや、そのもっと前からこの島って稼働してたのか?


「ワフ」


 ルピがすっと振り向いて凛々しい顔を見せる。お別れは済んだとでも言いたげな顔だ。


「お前、強いな」


「ワフ!」


 撫でてやると、当然とばかりに答えてくれる。可愛いし強い。

 それにしても、ルピの母親、この中にずっといたのは病気か何かだったんだろうか。それか怪我をして動けなかったとかそういう?

 あと、父親はどうしたんだろう? 狩りに出たまま戻らなかったって線なんだろうけど、あのアーマーベアにやられたのか?


『ショウ君、お墓を作ってあげてください』


「あ、そうだね。でも、この中はちょっと殺風景かな……」


 あの展望台っぽいところの方がいい気がする。ここは圧迫感すごいし。


「ルピ。お母さん、外に出してあげたいけどいいか?」


「ワフン」


 もちろんって答えてくれたルピなんだけど……


「ん? これって」


 母親の遺骨の一部を咥えて、俺の手のひらに乗せる。


【魔狼の牙】

『幻獣マナガルムの牙。強い魔力を持つ。

 細工:装飾品に加工可能』


「おいおい。これはルピが持ってるべきだろ」


「ワフ?」


 首にぶら下げているポーチにその牙を入れてやる。

 形見なんだし、あとで加工してルピに首飾りでも作ってあげるかな。とか思ってたら、


「ワフ」


 もう一つ牙を持ってきて、俺の手のひらに。

 いや、まあ、二つあるものだけどさ……


「俺が持ってていいの?」


「ワフン!」


「じゃ、お揃いにしようか。ネックレスでいいかな……」


 腕輪とかだと落として無くしそうで怖いし、俺もルピも首から下げてた方がお揃い感あるし。


『私もショウ君とルピちゃんとお揃いのが欲しいです』


「え?」


『今のルピちゃんの家族は私たちだから……私も欲しいです……』


「あ、うん。けど、どうやって? ミオン、IROはキャラ作っただけだよね?」


 スタート地点にこの島を選ぶには建国宣言をしないとだし、っていうか、そもそも牙は2つしかないし。


『IROで製作したアイテムはNFT非代替性トークンアートとして、アバターアイテムに変換できるそうです。運営さんに発行手数料を払う必要がありますけど』


「なるほど」


 生産メインのプレイヤーなんかだと、ゲームで作った服やら鎧やら、普段のアバターに持ってこれたら嬉しいよな。


『ダメですか?』


「ワフン」


「いや、ルピもOKみたいだしいいよ。でも、俺がそれを作ってからだよね?」


『はい!』


 簡単な首飾りにしようと思ってたけど、そういうことならちゃんと作らないとだよな。

 まあ、一般に売り出すつもりはないから、ミオンとルピが納得してくれればいいか。


「じゃ、それは作った時にまた。今は先にあの展望台を綺麗にしよう。ルピ、お母さん、いったん預かるな」


「ワフン」


 一つずつ、丁寧に拾い上げてインベに収納。


「よし、戻ろう」


『はい』


 ここから先はまた夜にでもくればいいかな?

 さっきの山道はまだ続いてたし、一応、どのあたりまで行けるか調べておきたい気持ちもある。ルピの父親についても気になるし……


「ん?」


 洞窟を出ようと思ったら、ルピが入り口で何かに警戒してる風。

 これは……気配感知にざわざわと引っかかる何か……


「何か待ち構えてるっぽいな」


『モンスターですか?』


「多分。強い相手って感じはしないけど、なんか癪に障る感じが嫌だな……」


 ルピが気にしてるのは樹の上か?

 円盾を手に隣まで行って目線を追うと、


「あぶっ!」


 ガンッ!


 拳ほどの大きさの石が飛んできて、慌てて円盾でそれを受け止める。


「〜〜〜!?」


 さすがにその音に起こされたのか、何事かと顔を出すスウィー。


「厄介な相手っぽいから、しばらくフードに隠れてて」


 いざというときに頭を守れるように、赤鎧熊の革でも一番硬いところを使ってるし、投石ぐらいなら全然平気なはず。

 スウィーがしっかり隠れたのを確認し、円盾の影から覗き見ると……【クリムゾンエイプ】という赤いネームプレート。


『強いんでしょうか?』


「うーん、勝てない相手じゃなさそうだけど、すごいめんどくさそうな気がする」


 それに、あの見えてる1匹だけっていう気がしない。気配感知もあそこだけって感じじゃないし。


「まいったな。どうする、ルピ? ダッシュして戻るか?」


 首を横に振ってノーの意思表示。

 そして、少しだけ前に出て……


「ウオォォォォ〜ン……」


 澄んだ遠吠えが響き渡り、気配感知の反応がざわつき始める。

 何が起こるのかと思い、いつでもルピを守れるように円盾を構えていたら、


「「オオ〜ン!」」


「「ウオ〜ン!」」


 ああ! ルピのアーツ<ハウリング>か!

 あちこちから遠吠えが聞こえ始め、それがどんどんと近づいてくる。


「オン!」


 飛び出したルピを追いかけて洞窟を出ると、錆色の狼たちが樹の根元で猿を吠え立てている。

 ルピがこっちを見て……俺があいつらを木から落とせってことだよな。

 石礫の魔法でも良さそうだけど、一発当てて落とすなら弓の出番だろう。


「当たってくれよ」


 インベから取り出した短弓を引き絞り、狙いをつけて放つ!


「ギィッ!!」


 左の脇腹に命中し、そのまま真っ逆さまに落ちる猿。

 そこに襲いかかる狼たち……


「ワフ!」


「ああ、次!」


 十数匹いるっぽいが、弓スキルの練習と八つ当たりの的になってもらおうか。


 ………

 ……

 …


【キャラクターレベルが上がりました!】

【弓スキルのレベルが上がりました!】


「ふう、終わりかな」


『やりましたね!』


「なんとかね。ほとんど、ルピと狼たちのおかげだよ」


 計17匹のクリムゾンエイプを射抜き、その全てが落下して狼たちの餌食に。


「オオン!」


 ルピが吠えると、狼たちが猿を引きずってルピの前までやってくる。えーっと、2の4の……8匹。2家族って感じに見えるな。

 ハウリングのアーツ、『同族を従える』とか書いてあった気がするし、間違ってないんだろうけど、ルピよりも大きい成犬……成狼がひれ伏してるのに違和感が。


【ドラブウルフ】

『山奥に住む錆色の毛を持つ狼。知能が高く家族で狩りをする』


 鑑定結果を見ても間違いなく狼なんだけど、それよりもネームプレートが緑になってる方に驚く。テイムしてる扱いなんだ……


『ルピちゃん、すごいですね!』


「うん、偉いぞ」


「ワフ〜」


 ドヤ顔のルピを撫でてやると、それを見たドラブウルフたちが尻尾をパタパタして……撫でられたいの?


「ワフ」


「ああ、手伝ってくれたお礼が必要だよな」


 まずはクリムゾンエイプを解体。

 肉、皮、骨、魔石(極小)とまずまずなんだけど、肉を食べようって気にはならないので、そのままドラブウルフたちに。


「ありがとな」


「バウ」


 1匹ずつ、肉を渡して頭を撫でてやるとすごく嬉しそうに尻尾を振る。大きくても可愛いなあ。

 でもって、俺って何のゲームしてたんだっけ?

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