第149話 生まれ育った場所

「ワフ」


 ルピはやっぱりこのあたりに詳しいようで、俺にこっちと促してくる。

 もちろん、それを断る理由もないのでついていくんだけど、雑草が生い茂ってて歩きづらい。


『ショウ君、慎重に』


「うん。ごめん、ルピ。もうちょっとゆっくりで頼む」


 その声に振り向いたルピが、頷いてからゆっくり歩いてくれる。賢い。

 しばらく、この狭い展望台のような場所を進むと、道は左に緩く折れつつ下って行く。


「これ、元々は整備されてた気がする」


『なんだかそんな感じがしますね』


 割と綺麗な階段状で、土が固いせいか雑草もまばらになっている。

 90度曲がったところで階段は終わり、そこからは人一人通れるぐらいの山道に。

 やっぱり、さっき出た場所って展望台だったのか?


「荒れちゃってはいるけど、これも整備されてた山道っぽいな」


『昔は使われてたんでしょうか?』


「多分? あの『記録』を残した人とかが使ってたのかも」


 崖から落ちる危険は無くなったので、ルピの足取りも軽く、山道を北へと進んでいく。

 少し上ってから、下った先には……


「ワフッ!」


「お! ここが水源地か!」


 目の前に広がる岩の裂け目から綺麗な水が溢れ出て、小さなせせらぎとなって南東方向へと流れていく。


「これって、ひょっとして洞窟の隣にある川まで繋がってる?」


『あ、そうですね。ちょうどその方向だと思います』


 このせせらぎに、さらに雨水やら地下水が流れ込んで、あの川になってるのか。

 よくそんなとこまで再現してあるな……


「ワフ」


 ルピがその湧き水を美味しそうに飲み始めてて、ちょっと自分も飲んでみたい気がしてきたんだけど、


『ショウ君。魔晶石、持って来てますよね?』


「あ、うん」


 とりあえず、そっちが先かな。

 昨日のうちに、手持ちの魔石は全部魔晶石に変換済み。

 今日、この水源地にたどり着けるとは思ってなかったけど、そのための魔晶石は当然持ってきてる。

 中サイズのをバッテリーがわりにするのは忘れてたけど……


「水に浸すんだっけ?」


『はい』


 取り出した極小の魔晶石を……


「〜〜〜♪」


「あっ! ……いや、助かるけどさ」


 さて、水にと思ったら、スウィーがそれを掻っ攫って水源へと飛んでいく。

 樹の精霊石を作ってくれたんだし、信用していいんだろうけど、一言断ってから持っていって欲しいところ。


「浸せば終わりなのかな?」


『どうなんでしょう。私も見たわけではないので』


 スウィーの様子を見てると、良さそうな場所を探してるのかな。

 あちこちをふらふらと確認した後、小さな段差となった下に魔晶石を沈める。


「何かいい場所みたいなのがあるのかな……おお!?」


『綺麗です……』


 なんだかキラキラした水滴が飛び跳ね、そのまま魔晶石へと吸い込まれていく。

 そんな様子がしばらく続いた後、落ち着いた元の状態へと戻り、スウィーが魔晶石——多分もう精霊石——を持ち帰ってくれる。


「さんきゅ。これ、お礼な」


 インベにおやつとして入れてあった、とろとろ干しパプを半分にして渡す。

 スウィーがいてくれれば、おやつで精霊石全部揃いそうな気がしてきた……


『ショウ君、鑑定を』


「あ、うん」


【精霊石(極小):水】

『水の精霊が宿った魔晶石。

 精霊魔法:MPを消費して水の精霊を使役することが可能』


 おお、めちゃくちゃ嬉しい!

 なんか、恥ずかしいぐらいニヤニヤしちゃってる気がする。


「よしよし! ルピもスウィーもありがとな!」


「ワフ〜」


「〜〜〜♪」


 ワシワシされて嬉しそうなルピと、とろパプを頬張りつつサムズアップするスウィー。

 のんびりってわけじゃないけど、自分のやりたいことをやって楽しめてるよな。


『ショウ君、私もいますからね?』


「あ、うん。もちろん、ミオンも。お礼っていうか、またご飯作りに行くよ」


『はい!』


 ………

 ……

 …


「ふう。今って何時ぐらい?」


『えっと、3時すぎたぐらいです』


「さんきゅ」


 スウィーは甘味、ルピにはグレイディアのお肉をおやつにして小休憩中。

 湧き水はすごく冷たくて美味しいし、グリーンベリーを絞って入れると、レモン水のような爽やかさ。

 これは次のライブで広めよう。


「じゃ、もうちょっと散策しようか」


「ワフ」


 この辺はルピの庭だったっぽいから、おまかせがいいのかな。

 スウィーは食べたら眠くなったのか、フードの中から寝息、いや、いびきが聞こえてくる……


 沢の向こう側、北東へと続く山道をスタスタと進んでいくルピ。

 特に警戒はしてないようなので、この辺は安全地帯か、警戒するほどの相手はいないのか。


「場所的には、洞窟側の川の上流なんだよね?」


『だと思います。あそこから北に行けませんでしたが、今はその北側にいるんじゃないかと思います』


「だよな。なんかこう、ちゃんと地図を作った方がいい気がする」


 ただ、エレベーターでどれくらいワープしたか分からないのがなあ。


『ショウ君、地図のスキルってないんですか?』


「え? ああ、あるかも……」


 そうだった。

 地図も自分で測って作るしかないと思い込んでたけど、地図スキル? 製図スキル? そういうのありそうだよな。


「ワフ」


「おっと、ごめん。どうした?」


 振り向いて俺を呼んだルピ。

 そのまま山道を左に外れて、茂みの中へ踏み入る。


『どうしたんでしょう?』


「なんだろ。ルピの昔の寝床とかかな?」


 狼は基本的に屋根のある穴ぐらとか、岩の間とかに巣を構えるらしいけど、なにぶんここはIROっていうゲーム内。

 ともかく、ルピの後ろをついていくと、やがて岩場へと突き当たるんだけど、


「ここ、ルピが昔住んでたの?」


「ワフン」


 目の前には中腰になれば入れるくらいの洞窟の入り口。

 どっかで見たことがあるような……


『なんだか、ノームさんたちが掘った穴に似てませんか?』


「それか。見たことある気がしたんだよ」


 ミオンとそんなことを話してると、ルピがスタスタと中へ。

 慌てて追いかけて、


「あ、そうだった。明かりを」


 明かりを従えて中腰で進むことしばし。

 少し広いスペースに辿り着いて背筋を伸ばす。天井スレスレだから気をつけないとだな。


「ルピ?」


 一番奥の場所でお座りしているルピの様子がおかしい。

 どうしたんだろうと、その後ろから覗き込んだ先にあったのは、真っ白な狼の骨だった……

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