日曜日

第147話 扉の向こうに

『今日改めて、ですか?』


「らしいよ」


 昨日、アミエラ領の先にある古代遺跡に向かったセス美姫たちは、例の第二階層最奥の扉を開き、第三階層へと進めたらしい。

 けど、その先にいたのは見たことのないモンスターが多くて大苦戦。

 セスほどの大きさもあるキノコモンスター【ネルファンガス】や、芋虫モンスターの【マブルキャタピラー】なんかに手を焼いて、撤退する羽目になったそうだ。


『虫は嫌ですね……』


「俺も苦手……」


 しかも、結構というかかなり強かったらしい。

 ネルファンガスは毒の粉(胞子?)を振り撒くし、マブルキャタピラーは粘着性の糸を吐くんだとか……めんどくさそう。


魔銀ミスリルは見つかったんですか?』


「うん。ただ、ナイフ一本作れるかってぐらいだってさ……」


 見つけた採掘ポイントはほとんどが鉄。稀に銀。ごく稀に魔銀ミスリルだったとのこと。

 もっと深い階層に行かないとって話になったんだけど、めんどくさい敵への対策を考えないとって話に。

 それでも、魔銀ミスリルが掘れるって話で大騒ぎになってるそうで……島の魔銀ミスリル採掘ポイントのことは、しばらく隠したほうが良さそう。


『扉の先にそういうのがいないといいんですけど』


「まあ、いても不思議じゃないかな」


 階段を下り切ったところで、左手には例の『解錠コード』の扉。


 日曜のお昼。

 いざ、この扉の向こうへなんだけど、その前に聞く話じゃなかったよな。今さらなんだけど。


 ただ、しっかり準備はした。

 腰には剣鉈とヒールポーション。左手には円盾。

 複合鎧はレッドアーマーベアに付けられた傷も直した。

 そのレッドアーマーベアの革から作ったマントとブーツが壊れ性能だし、十分戦える装備のはず。


「ワフ」


「うん」


 何よりルピがいる。

 けど、心配なのは……


「〜〜〜♪」


 俺の左肩に座って足をぷらぷらさせてるスウィー。

 本当について来るのか何度も聞いたんだけど、胸をドンと手で叩いて「任せろ」というアピール。


「本当にやばくなったら、逃げてくれよ?」


「〜〜〜♪」


 サムズアップしやがったこいつ……

 ルピは最悪リスポーンするからいいんだけど、スウィーはどうなんだろ。

 前にオークがフェアリーをパクっとしそうになったのを思い出してしまい、慌てて頭を振る。

 これからってのに、悪い方に想像するのは良くないな。


『ショウ君?』


「大丈夫。じゃ、開けるか」


 扉に手を触れると、


【祝福を受けし者のアクセスを確認しました。解錠コードを入力してください】


「4725」


【解錠コードが合致しました。解錠しますか?】


 合ってて良かった。

 これで間違えてたらギャグだよな。


「はい」


 そう答えてから、両手でグッと扉を押し開け……ん?


「暗いな。明かりを」


 光の精霊にお願いし、明かりがすうっと扉の向こうを照らし出すと……


『きゃ!』


「マジかよ……」


 ガシャ……ガシャ……


 ゆっくりとした足取りでこちらへと近づいて来るのは、ボロを纏ったスケルトン。

 まさか、ここでアンデッドと戦うことになるとは思わなかった。


「しまったな。これ、魔法で押し切るしかないのか?」


 照らされて見える範囲だけでも、5体以上のスケルトンがいる。

 動きは遅いし弱そうなんだけど、剣鉈でダメージ入るのかっていう問題が。


「<石礫>!」


 本当なら火球を使いたいところだけど、地下通路内なので自重。

 散弾で飛んでいく石礫が、先頭にいたスケルトンの上半身を粉々にする。


「砕き切れば大丈夫っぽいけど……」


 起き上がってこないそれを追い越して、別のスケルトンが近寄ってくる。

 これって無限湧きとかじゃないよな?


『いったん引きますか?』


「いや、せっかくだし、ちょっと剣鉈と円盾も使ってみたい」


 相手が弱いし、盾スキルを上げるチャンスな気がする。

 問題はどれぐらい叩き潰せばいいのかだけど……


「ルピ、フォロー頼むな」


「ワフ!」


 できるだけ、一対一の状況を作りたいのでルピには、残りの足止めをお願いする。あとはコツコツ潰していけばいいはず。

 剣鉈を鞘から抜いて構え、


「よし、やるか! ぐえっ!」


 意気込んだところで、スウィーにペンダントを引っ張られる。


『スウィーちゃん!?』


「ちょ、何するんだよ!」


「〜〜〜!」


「え、精霊石? あ、精霊に?」


 とはいえ、光の精霊と樹の精霊に力を借りてなんとかなるものなのかな。

 まあ、やってみるか……


「援護頼む」


 手を添えてそう伝えると、全身が、剣鉈と円盾も含めて、淡い緑の光に包まれる。

 これってバフだよな?

 今すぐメニューを開いてステータスを確認したいところだけど、もうすぐ近くまでスケルトンが近寄ってきてる。


「スウィーはフードへ入ってて!」


 そう伝え一歩踏み出して袈裟斬り!


 ガシャン!


「えっ!」


 思った以上に手応えなく、スケルトンの鎖骨を叩き切り、そのまま肋骨をスッパリと叩き割る。

 体の中央付近にあったどす黒い魔石がぽろっと転び落ち、そのまま色を失うと、スケルトンは完全にバラバラになって崩れ落ちた。


『ショウ君、すごいです!』


「マジかよ。精霊の加護が強いんだよな、これ……」


「ワフッ!」


「おっと、次!」


 これはもう完全に作業ゲーなのでは……


 ………

 ……

 …


「ふう、全部片付いたかな?」


 スケルトン、何体倒したんだろう。

 20から先はもう数えてないんだけど、結構な数倒した割にはキャラレベルは上がらず。

 一応、盾スキルが3になったけど……スケルトン自体がゴブリン並みに弱いのか?


『ショウ君、すごかったです!』


「ああ、うん。俺っていうか精霊がすごかったんじゃないかな?」


 そうだ! ステータスを確認……

 やっぱりというか、ネームの横に【精霊の加護(光・樹)】と書かれている。

 MPの消費は4割ぐらい? 攻撃や防御した時に消費があった気がするので、スケルトンに触れると減ってたって感じかな。


「ありがと。もう大丈夫」


 そう伝えると、淡い光がゆっくりと消え、MPがもりもりと回復し始める。

 このマントなかったらキツかったかもだな、これ……


「ワフ」


「ルピもありがとな」


 しゃがんでルピをモフりつつ、気配感知に気を回す……大丈夫そう。


『いきなりスケルトンはびっくりしました』


「ミオン、思わず素の声出てて可愛かったよ」


『ぅぅ……』


 まあ、俺もめっちゃビビったし、あれがゾンビだったら悲鳴あげてたな。

 いやでも、ゾンビだったら腐臭がするのかな? フルダイブで腐臭はキツそう……


「それにしても、なんでスケルトンなんだろな」


『どこかにお墓がある、とかでしょうか?』


「なるほど」


 骨になるくらいだから随分前。でも、あの記録を書いた人よりは後。

 もしくは、あの人が応援に向かった後に何か起きたか……


 バラバラになった骨、元がどうだった不明なボロ布、色を失った魔石があちこちに散らばっていて……あまり気分は良くない。

 一応、鑑定してみるか。


【スケルトンの骨】

『スケルトンの骨。核となる魔石を失い、真の死に至った。

 細工:素材として利用可能』


「いや、さすがにスケルトンの骨で細工はちょっと……」


 ボロ布はただのボロ布。魔石はまあ浄化すれば使えるかもだけど、今のところはランジボアの魔石とかあるしなあ……


「いいや、時間もったいないし、先へ進むか」


『はい』


「ワフ!」


「〜〜〜♪」

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