第146話 凶悪な一品

『なるほどです。それで、セス美姫ちゃんに魔銀ミスリル鉱床のこと、話したんですね』


「うん。ちょうど良かったし」


 土曜の夜。

 今日はライブがないので、のんびりと行きたいところだけど、明日はいよいよ例の『解錠コード』の扉を試すので、その準備をば。


「ワフ」


「ん、気をつけてな」


「〜〜〜♪」


 丁字路でルピ、スウィー、フェアリーたちと別れる。あっちは南西の森に遊びに行くっぽい。

 俺はというと、


「まずは鉱床の確認かな。明かりを」


 光の精霊に照らしてもらいつつ、採掘場の階段を降りる。

 まず見えてきた、手の届く範囲の採掘ポイントは復活している模様。

 で、


「うーん、魔銀ミスリルのポイントは復活してないな……」


『二度と採れないんでしょうか?』


「いや、ポイント自体は残ってるみたいだし、復活に数日、いやもっとかかるとかそういうパターンじゃないかな。

 だとすると、今の魔銀ミスリルインゴットで大事に使わないとだよな」


 鉄鉱石は足りてるので、今日のところは採掘はなし。

 階段を上り、光の精霊の明かりは消してもらう。


「まあ、剣鉈は魔銀ミスリルよりも鉄の方がいいかなって」


『やっぱり欠けたりするからでしょうか?』


「それもあるんだけど、剣鉈ってちょっと重いぐらいの方がいいからね」


 右手に見えた鍛冶場の扉を開け、奥に転がしてある鉄インゴットと魔銀ミスリルインゴットを一つずつ手に取る。


魔銀ミスリルって結構軽くって、なんかこう剣鉈の重みで断ち切るみたいなのには向いてないんだよな」


 魔銀ミスリルで鉄と同じ重さにしようとすると、倍ぐらいの大きさにしなきゃいけなくて、それはもう長剣なのではっていう。

 程よく重くてっていう加減が難しいんだけど、それ考えるとSTR上がるたびに調整? っていう問題が……


『盾もですか?』


「盾はやっぱり軽くて固くて、だから魔銀ミスリルを使いたいところだけど……」


『まずは試作からですね』


「うん」


 大きさやら形なんかもあるし、やっぱり盾スキルをある程度上げてからだよな。


 ………

 ……

 …


【鍛治スキルのレベルが上がりました!】


『おめでとうございます』


「ありがと。でも、なんか……剣鉈っていうよりこれは……」


 これも剣鉈の一種なのか?

 鍛冶のスキルアシストさんに従って、投げられる剣鉈って感じで作ってたら……ククリナイフ? グルカナイフだっけ? 少し内側に曲がったやつになってしまった。

 まあ、ともかく鑑定……


【高品質な剣鉈】

『片手持ちの剣鉈。高品質。攻撃力+41。

 短剣:片手持ち武器。伐採:ある程度の大きさまでの木を切ることが可能』


「やっぱり剣鉈なんだ。っていうか、攻撃力高!」


 何気に両手斧に近い攻撃力だよな。

 まあ、見た目的にも凶悪そうだけどさ……


『鞘を作らないと危なそうです……』


「だね。それはまあ小盾と一緒に作るよ」


 で、小盾と鞘の材料は、昨日のうちに確保して洞窟に転がしてある。

 部屋を出て、洞窟の端に積まれているそれ。50cmほどのちょっと歪んだ丸太を持って鍛冶場へと戻る。


『密林の方の木ですか? 歪んでて使いづらいって聞きましたけど』


「家の柱とか真っ直ぐな板にはしづらいけどね。でも、このパプの木は硬いよ」


『え? パプの木を切っちゃったんですか!?』


「うん。スウィーにちゃんと相談して、場所的にも良くないやつを間伐したから」


『かんばつ?』


 ミオンがピンと来てないっぽいけど、普通は来ないよなと。俺はまあじいちゃんに教わってたから知ってるだけだけど。

 木同士近い場所に生えてると、地中の栄養を取り合うし、片方が日陰になったりと良くないことが多い。

 それを避けるために、どっちかを間引くってだけの話。植林とかしてると普通らしいけど、その辺はよくわからない。

 今回は、日陰側の少し小さい方の木を切らせてもらった。なので、あんまり立派でもない感じ。


『ショウ君、物知りすぎです……』


「いや、多分、ギルドの園芸してる人とかも知ってると思うよ?」


 ディなんとかさん……

 名前覚えてるの、ジンベエ師匠と真白姉の友だちのシーズンさんだけだな。


『そのパプの木で、まずは小盾ですね』


「うん。前に、輪切りにすればすぐかなって思ってたけど、そんな簡単じゃなかったよ」


 作るにあたって、セス経由で師匠の小盾がどうなのか見せてもらった。

 しっかりと木の繊維を意識して配置し、かつ、鉄のフレームがそれをガッチリとホールドしてるっていう感じ。

 そもそも輪切りをそのまま使ったら、薪割りみたいにぱっかり割れるよっていうね。何考えてたんだか。


『ショウ君、作る前に盾のスキルを』


「あ、やべ。また忘れるとこだった。さんきゅ」


 盾スキルを1SPでポチッと取得。

 これで多少なりとも補正が入ってくれればだけど……どうかな?


 ………

 ……

 …


「できた……。大変だった……」


『すごいです! 想像してたのと全然違いますね!』


「スキルアシストさん大活躍なんだけど、やりすぎた……」


 木工のスキルレベルのおかげ?

 ここが弱いとか足りないとかそういうのに対応してると、いつの間にか大層な小盾? これもう小盾じゃなくない?


【良質な円盾】

『木材、鉄、ランジボアの革で作られた円盾。良品。防御力+28。

 盾:装備可能』


「小盾じゃなくて円盾になってた。まあ、サイズちょっとミスったもんなあ」


 直径を肘から先ぐらいのつもりでいたんだけど、ちょっと大きめにって考えつつ、さらに鉄の外枠もつけてってやってるうちに、二の腕から先ぐらいまでになってたし。


『すごく良さそうですけど、持てますか?』


「ん、ちょっと持ってみるか」


 ベルトに腕を通して……ずっしりは来るけど、まあまあ問題ないかな? ステータス、STR多めに上げといて良かった。

 裏に貼ったランジボアの皮のおかげで、ベルトをキツめでいい感じのフィット感。


「で、こっちは剣鉈を持つ。うん、バランス的にちょうどいいか」


 一応周りを確認してから、剣鉈を振り回してみる。

 ……グリップもう少しあったほうがいいな。木の柄だけだと、すっぽ抜けそうで怖い。グレイディアの革でも巻くか。


「うん、行ける! あとはグリップと鞘!」


『ちょうど後1時間ぐらいです』


「良かった。これで、明日はチャレンジできそう」


『ですね!』


 SPの残りも減ってきたし、そろそろまたレベルアップしたいところ。

 なんか、セスはもうキャラレベル15とかで俺よりも3つ上だし、ベル部長に至っては17らしいし。

 そろそろレオナ様とかレベルキャップの20になるんじゃないのかな?


 そういや、例の採掘場がある古代遺跡はどうだったんだろう。

 いきなり魔銀ミスリル鉱床が見つかるかもってことで、セスには話したけど、本当にそうだったら、ちょっとした騒ぎになってそうだよな……

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