金曜日

第141話 気まぐれ最上位

「ふう、終わった」


「どうだった?」


 前の席のナットが振り向いて聞いてくるが、高一最初の中間テストで大失敗はむずいと思う。


「普通だろ」


「ま、そうだよな」


 ナットも意外と真面目にテスト勉強してたらしい。

 まあ、どっちかというと、いいんちょにIROしてないか監視されてたっぽいが……


「これでやっと心置きなくIROできるな」


「それな。ってか、ルピとあんまり遊べないのが、あんなに辛いと思わなかった……」


 1日1時間だと、ルピにご飯あげて、あの盆地をなんとなく散歩。

 残りの時間は読書メインであっという間にタイムリミットっていう……


「はいー。みなさんお疲れ様でしたー」


 ヤタ……熊野先生が入ってきてホームルームが始まる。

 昨日と今日はお昼で終わり。そして、今日はもう後顧の憂なく遊べる。リアル部室にはまだ入れないけど。

 部活再開は週明けに返ってきたテストに赤点がなければという条件だけど……手応え的には問題ないはず。


 特に連絡事項もなく、部活はまだダメですよ的な話だけで終了。

 さて、帰って昼飯なんだけど、美姫は1日まるごとテストなはずだから俺一人なんだよな。適当に手抜きな昼にしてIROに……


「ショウ、帰りどっかで飯食って帰らね?」


「え、ああ、そっちの方が楽か。でも、お前、自転車で来てるんじゃないの?」


「今日は電車で帰って、月曜に電車で行ってチャリで帰れば良いしな。それより昼飯作るの面倒なんだよ」


 ああ、うん、まあな。

 こいつのことだから、カップラーメンか何かで済ませたんだろう。せめて野菜炒めでも作って乗せりゃいいものを。


「ん……」


「二人で何か悪だくみでも?」


「昼飯どっかで食おうぜって話してただけだっての」


 ナットといいんちょがやり合ってるが放置。

 まあ『学校帰りに買い食いはダメ』みたいな石器時代な校則もないので、別に怒られることでもないけど。


「ミオンはお昼どうする?」


「ぃっしょ……」


 じゃあまあ、ファミレスかファーストフードかな。久しぶりな気がして、ちょっとテンション上がる。

 そういや、ミオンってお嬢様だし、ファーストフードは初めてだったりとかしないよな?


***


「ちょっと行ってくるわね。出雲さんもお願い」


「ん」


 女子二人が席を立って、ドリンクバーの方へと向かう。

 なんだかんだと面倒見がいいよな、いいんちょ。


「例のノームの件ってあの後どうなった?」


「ああ、あれはうまく行ってるぜ。お互いのギルドの活動時間がずれてるのもちょうど良かった感じだな」


 火曜に聞いた話だとノームの里……っていうか洞穴だけど、あっという間にできた上で、その出口のあたりにキノコを作り始めたらしい。

 彼らの主食は野菜やらキノコがメインだそうで肉は食べず。でも、卵や乳製品は大丈夫だし、クッキーは大好物になったとのこと。


「ワールドクエストが終わった後は、モンスター出たりはしてないのか?」


「出てねえな。まあ、街からそこそこ離れた森とか山とか行けばいるし、注意はしてるけどな」


「そりゃそうか」


 帝国と公国の停戦が成立して、難民だった人たちの一部は帰ったらしい。

 それでも、王国に残った人たちもそれなりにいるんだとか。


「へえ、生まれ育った土地に帰らないって人もいるんだ」


「まあな。そういう人たちは小作人で苦労してたみたいだぜ……」


 そう言って渋い顔をするナット。

 年貢がアホみたいにキツい領主もいるらしく、内戦が始まったのを契機に逃げ出してきたって話……


「はい。柏原くんはコーラよね?」


「おう、サンキュ」


「ん……」


「ありがと」


 ナットはコーラ、俺はコーヒー、いいんちょは紅茶かな、ミオンはカフェラテ?

 見事にバラバラだな……


「で、何の話をしてたの?」


「ノームたちの話」


「あの後、うまく行ってるのよね?」


 いいんちょ、あの後、すぐに勉強するって落ちてたもんな。

 テスト期間中はあれ以降ログインしてなかったそうだし。


「ノームの里の外側に、木の柵もきっちり作ってたし大丈夫だろ。なんかクッキーとキノコ交換してたりするみたいだしな」


「キノコってチャガタケ? サブマロ?」


「チャガタケとかサブマロとか言われてもわかんねーよ。なんかマッシュルームみたいなやつで、それ入ったシチューはめっちゃうまかったけどな」


 と笑うナット。

 むむむ、マッシュルームみたいなのってことは違うんだろうな。

 スウィーやフェアリーたちに聞いてみるか……


「一応、月曜まではテスト期間だと思うんだけど?」


「いいんちょ、真面目すぎだって」


 俺もそう思うが何も言わない。なんでかっていうと、


「柏原くん。テスト前の水曜日、1時間以上ゲームしてたわよね?」


「え? いや、あれは気分転換に入ったら、ちょっと相談されてっていう……」


 こうなるからな。

 だから、ナット! 助けて欲しそうにこっちを見るな!


***


「ん〜! 久しぶりにがっつり体動かそうかな!」


『ルピちゃんとぐるっとお散歩してくるのはどうですか?』


「ワフッ!」


 時間は午後2時。5時ぐらいまで遊んでから夕飯の支度かな。


 テスト期間中の『ゲームは1日1時間』の間の本読みで、動物学、植物学のスキルが5になった。

 そのおかげなのか、鑑定スキルのレベルが7まで上昇。元になる知識が増えたことで上がったってことかな?


 調子に乗って、新しくアンコモンの鉱物学スキルを取得して、これも5まで上げた。残りSPが7とちょっと心許ない感じ……

 でも、土木スキルを効率よく上げるには必須だとも思うんだよな。


 あと上がったのは調薬スキル。パプの実のアンチパラライズポーションや、レクソンの葉の解毒剤なんかも作ってレベル上げ。

 なお、コプティと仙人笹のブレンドは失敗中……


 ぼちぼち『解錠コード』の扉を開けるつもりだし、そろそろレベルを上げてBPをキープしておきたいところだけど。


「〜〜〜♪」


「お、なんか久しぶり」


 スウィーがやって来て、俺の左肩へと。

 付いて来るのは別にいいんだけど、


「ノームが美味しいキノコを育ててくれるって話を聞いたんだけど、フェアリーってそういうのない?」


 そう聞いてみると、プイッと顔を背けた。


『ダメみたいですね』


「ま、種族違うからしょうがないか」


『ショウ君、スウィーちゃんを鑑定したことないんじゃないですか?』


「あ」


 そう言えば確かにちゃんと鑑定したことはないかな。

 鑑定って相手が嫌がったりしないかな? いや、別にステータスを覗いたりするわけじゃないから大丈夫だよな。っと……


【フェアリー(女王):スウィー:友好】

『妖精フェアリーの女王。

 気まぐれなフェアリーたちを束ねる女王だが、人一倍気まぐれでもある』


「『えっ?』」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る