第140話 小さく丸く収まりました

 夕飯を終えて食休みの間に、土木スキルをどうやって取ったかを説明。

 応用魔法学<地>をスキルレベル5まで上げるっていう、なかなか面倒臭い前提条件。


「応用魔法学<地>をとったとしても、土木スキルをベル部長が欲しがるかどうかは微妙だよな」


「土木スキルを取る必要性もないしのう。それより、兄上のその蔵書には他の物はなかったのか? <地>とくれば、あとは<水><火><風>と思うのだが」


「また後で確認し直すけど、<地>だけだったと思う」


 図鑑は植物と動物を読んで、他にも数種類あったはず。

 魔術書は基礎魔法学と応用魔法学<地>は読んだけど、他にはなかったかな?


「ふーむ、応用魔法学とやらの本は、古代遺跡でなければ手に入らんのかもしれんのう」


「え? 魔術士ギルドとかに置いてないの?」


「ベル殿に聞いてみねばわからんが、置いてあるなら既に気づいておろう」


「ああ、そりゃそっか」


 純魔ビルドなんだし、元素魔法関連の知識はできるだけ習得しようとしてるよな。

 それでも見つかってないってことは……


「兄上のように、なんらか古代遺跡の中で発見するものということかもしれん」


「それって最初に見つけた人が有利すぎないか?」


 俺が言うのかよって感じだが、この本の貸し出しだけで儲けるのも不可能じゃなくなるよな。

 参加費もらって、勉強会的なものをするとかもありだし、ひと財産築けるんじゃないかっていう気がする。


「まあそうだが、その手の情報は内輪で寡占するよりも、ほどほどに共有する方がよかろう。特に魔法という現実世界にないものは、より多くのプレイヤーで知恵を絞る方が発展も望めようというものよ」


「なるほど……」


「それに、そのようなことをすれば、他プレイヤーからの僻みもきつかろうて」


 そりゃ確かに嫌だな……

 少なくとも、俺はそれをスルーできるような面の皮の厚さは持ってないし。


「さて、では我はIROに行くとするかの。兄上はテスト勉強か?」


「ああ。いや、ちょっとその前に昨日の件なんだけど」


 ナットといいんちょに頼んだこと、ちゃんと伝えとかないと明日やばいし。俺が。


***


 テスト勉強はミオンとバーチャル部室で。

 部屋で一人でやってると、なんとなくライブでも見るかっていう誘惑に負けそうなので……


「休憩」


『はい』


 ベル部長は不在。

 IROやるとヤタ先生にバレるし、リアルで勉強してるはず?

 そのヤタ先生は、俺たちがここで勉強してるのを確認したら「ほどほどにー」ってログアウトしてしまった。

 信用されてるってことかな?


「お、来た」


 セス美姫から来たメッセを開いて、限定ライブへの招待を受けると、画面が俺の前に展開される。


「見える?」


『はい、大丈夫です』


「セス?」


『うむ、繋がったようだの』


 どういう顛末になるかぐらいは知っておきたいので、セスを通して様子を見ることに。

 なお、ナットといいんちょには内緒。


「始まりそう?」


『もうすぐといった……お、始まるようだの。我は立会人ということで、見ておるだけだが、兄上から何かあったら遠慮なく頼む』


「りょ」


 まあ、俺がどうこう言わなくても、ナットといいんちょでどうにか上手くやってくれると思うけど。


 時間はちょうど9時になり、『昼下がりの華』と『月夜の宴』の代表者、あとナットといいんちょがやってくる。

 なんか、思ってた以上に和気藹々とした感じでホッとする。


『じゃ、頼むわ』


『ええ、うまく行くかどうかわからないけど……』


 いいんちょを先頭に、ナットが続き、その後ろを二人の代表が。最後をセスが歩いていく。その先にあるのは、ノームたちのために用意された家かな。


『ごめんなさい。ちょっと良いかしら?』


『〜〜〜?』


 玄関先で遊んでるノームに、しゃがんで目線を合わせて問いかけるいいんちょ。姿形はエルフだけど、リアルのいいんちょがよくやるやつだ。

 そのノームにリーダーを聞いて、話がしたい旨を伝えると、問いかけられたノームがてけてけと走っていく。


『通じたんでしょうか?』


「やっぱ精霊魔法なのかなあ」


 しばらく待っていると、さっきのノームよりちょっとだけ背の高いノームがやってきて……


『〜〜〜♪』


『あ、えっと、よくわからないけど、ありがとう』


 なんだかいいんちょと握手してるな。手ちっさ。


『それでね。あなたたちの里がもう安全か調べてもらったんだけど、モンスターに壊されちゃってて……』


『〜〜〜』


 それを聞いてしょぼーんとするリーダーノーム。

 それを見て、いいんちょが彼の手を握って続ける。


『私たちで力になれることはするから、あなたたちがどうしたいか教えて欲しいの』


『〜〜〜!』


 それを聞いたノームがばっと顔を上げ、手を振りながら何かを訴えてる感じ……


『え、えっと……何か欲しいのかしら』


「振りからしてツルハシ?」


『お二人、どちらかツルハシを持っておらんか?』


 セスの問いかけに、代表の二人が小ぶりのツルハシを取り出す。

 俺が鉱石を掘るのに作ったやつに似てるな。


『〜〜〜!!』


『おおお?』


 二人がツルハシを渡すと、リーダーノームが声をあげ、それに応じるように、大勢のノームが家から飛び出してくる。ってか、30人以上いるんだけど?


『『『〜〜〜!!』』』


『お、おい! どこ行くんだよ!?』


 ノームたちが一斉に走り出し、それを慌てて追いかけるナットたち。


『どうしたんでしょうか?』


「これ、街の外に新しいノームの里を作るとかそういうんじゃない?」


 うちのフェアリーもあの樹のあたりに勝手に住処を作ってる気がするんだよな。後で確認に行かないとかも……


『ナット殿、ありったけのツルハシを集めた方が良い。彼らは新たに里を作る気かもしれん』


『それか! おーい、すまんが頼まれてくれ!』


 ナットが通りすがりの知り合いにツルハシを頼みながらノームたちを追いかける。

 まあ、ノームって小さいから人間なら余裕で追いつけるスピードだしなあ。勢いはすごいけど。


 しばらくして街の門から外へ出たノームたちが、突き当たった崖の前に到着すると、


『〜〜〜?』


『え、ええ、好きにして良いわよ』


『『『〜〜〜!』』』


 いいんちょの言葉を聞いて……うわ、すご……


『すごいペースで掘ってますね……』


「さすが土の妖精ってことなのかな。しかも精霊魔法使ってる?」


 掘った穴の天井に何か魔法が掛かってるっぽい。崩落しないように強度を上げてるとかそういうやつ?


『どうやらここに新しいノームの里を作るみたいだけど、それぞれギルドの方でもサポートしてもらえないか?』


 お、さすがナット。うまくまとめに入った。

 代表の二人も喜んでるみたいだし、これで解決って感じかな?

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