月曜日
第139話 近すぎて話せない
「おはよ」
「ぅん、おはよう……」
連休明けてテスト期間に突入の初日。
テスト自体は木金なんだけど、今週いっぱいは部活禁止。
土日は終わってるんだからいいじゃんって感じだけど、月曜にテストが返ってくるまではダメなんだとか。
「ライブが部活になっちゃってるからなあ」
「のんびり……」
「あ、そうだった」
一人のんびり、いや、二人のんびりがメインなんだから、焦る必要はないかな。
連休中にちゃんとした家もできたことだし。
***
「出雲さん、伊勢くん、おはよう」
「ああ、いいんちょ、おはよ」
「ぉはよう」
いつの間にか後ろから追いついたのか、いいんちょがミオンの隣へと陣取ると、
「出雲さん、近すぎじゃない?」
「?」
だよな!
なんか、電車の中から近いなって気がしてたんだけど、離れるのも悪くて言い出せなかったって感じなんだよ!
「いや、俺に睨まれても……はい」
「ん……」
って、俺がちょっと距離取ったら、すっと間を詰めてくるんだけど?
その様子に大きくため息をつくいいんちょ。
こういう時は、ヤタ先生の十八番。とりあえず話題転換!
「いいんちょ、一昨日とか真白姉と遊んでたって聞いたけど?」
「え、ええ。真白さん、相変わらずだったわ。美姫ちゃんもそうだけど、真白さんもすごいわよね」
よしよし。いいんちょ、真白姉のこと尊敬してたし、真白姉もいいんちょ可愛がってたからなあ。
俺とナットがアホなことしてると、いいんちょにバレて注意された挙句、真白姉に告げ口されるまでがセットだったし。
「あちこち行ってたみたいだけど、今って?」
「そうね。最後は美姫ちゃんや柏原くんがいるところだったかしら」
ふむふむ。なら、いいんちょに任せたいことがあるんだよな……
***
「へー、んじゃ、テスト期間中は『ゲームは1日1時間』ってやつか」
「だな。熊野先生にバレるから、こっそりログインもできないし。まあ、テスト終わった土日はOKって話だけど」
いつものメンツでお昼。
いい天気の屋上も久しぶりで気持ちいい。
「で、
「あー、それな……。あそこって、プレイヤーズギルドが二つ入ってるから、ちょっとややこしいんだよな」
ナットの話だと、南西部はラシャード伯爵って人が地道に進めてたそうで、それに協力する形で二つのプレイヤーズギルドが参加してるとのこと。
「どういうことなの?」
「片方が『昼下がりの華』っていう女性メンバーのギルドで、もう片方が『月夜の宴』っていう男性メンバーのギルドなんだよ。
それが、ノームたちを保護すべきっていうのが華ギルドで、それは過保護だろってのが宴ギルドの方なんだよな」
華ギルドの方は昼〜夕方メイン、宴ギルドは夜〜深夜メインってことで、いまいち噛み合わないままらしい。
昨日、
「お互い、別に喧嘩腰ってわけじゃ無いんだろ?」
「ああ、どっちも多分いい大人みたいだから、妥協点を探りたい感じではあるな」
そういう話なら、ナットの顔の広さが役立ちそうなもんなんだけど……
「ナットが説得できないのか?」
「説得も何も、そもそもノームたちがどうしたいのかが、うまく聞き出せない感じなんだよ」
「それは困ったわね……」
といいんちょ。
まあ、本人たちがどうしたいかが第一ってのは、俺も賛成かな。
「ショウのいる島って、例のフェアリーたちが住んでるんだろ? あの子らって普段どうしてんの?」
「基本自由? 危ない場所にはルピが護衛についてるからな」
ルピが優秀すぎて、俺が特に気を使わなくても上手くやってるっぽい。
まあ、スウィーっていう高位のフェアリーがいるから、ちゃんとまとまってる説もあるんだけど。
「ん」
「あ、うん。で、それって、ノームたちのリーダーとか居ない? で、いたら、いいんちょから話をしてもらうのがいいんじゃないかな?」
「え、私が?」
そう、いいんちょが。なんでかって言うと、
「多分なんだけど、精霊魔法を使える方が意思疎通できる気がするんだよな。俺も光と樹の精霊使えるし」
「マジか。ってか、いつの間に樹の精霊使えるようになったんだ?」
「スウィー……ってミオンが名前つけてくれたフェアリーのリーダーがいるんだけど、その子に樹の精霊石もらったんだよ」
そういう意味でも、その中でも偉い妖精の方が意思疎通しやすいんだろうなとは思う。
で、こっちもこっちで精霊魔法を使えた方がいいんじゃないかという……確信はないんだけど、そんな気がしてる。
「でも、私以外にも精霊魔法が使える人はいるんじゃ?」
「んー、どっちにもいるっちゃいるが、こういうのは第三者の方がってやつか?」
「だな。美姫にも話しておくし、『白銀の館』が中立な立場でノームの意思を聞いて、それを二つのギルドで叶えてあげれば良いんじゃね?」
「なるほどな!」
あとは任せた。
いいんちょが本当にノームと意思疎通できるかは賭けだけど、昔から小さい子の面倒見るのは得意だったし、大丈夫に違いない。
「はあ……。美姫ちゃんから正式に話が来たらやってみるけど、期待はしないでおいてね?」
「おう、やってみないとわかんないしな」
「美姫がいるから、ダメならダメでなんとかしてくれるって」
たまには俺から美姫に無茶振りしておこう。
そもそも、昨日の夜にアイデア出しされたんだし。
「ただし」
「「ただし?」」
「1時間だけよ。テスト期間中だもの」
「「うっす……」」
***
「ただいま」
「おお、兄上おかえり! 今日はずいぶん早いではないか!」
「テスト期間だっての」
美姫もテスト期間のはずなんだが……言うだけ無駄だよな。
夕飯まで時間あるし、お茶でも淹れるか。
「ん? お前、勉強してたの?」
「いや、これは勉強ではないぞ。ちょっとした調査結果をまとめておったのだ」
「調査結果?」
「うむ。兄上にはもう少しまとまってから伝えようと思っておったが、まあよかろう」
美姫が何を調査してたかというと、生産物の品質に関するアンケート的なものを、ギルドメンバーの力も借りてやってたらしい。
「で、どういう結果なんだ?」
「簡単に説明すると、技術だけを知っておってるのと、加えて実践しておるのとでは品質に差があると言うことよの」
ん? どういうことだ?
俺がいまいちピンと来てないのを察したのか、美姫がフォローを入れてくれる。
「例えば『鍛治スキルは武器を作れるが、その武器を使えた方が良い品ができる』と言えば、兄上も心当たりがあるのではないか?」
「あー……そんな気がする」
「ジンベエ殿の話では、各種生産に共通したスキルの重要度が高いのではという話だのう。その辺りはまだサンプルが足らんが」
と俺を見る美姫。
「その可能性は高いな。俺の場合は単に全部自分でやってるだけだし、周りと比べようもないんだけど」
ん? 待て。
俺が昨日習得した応用魔法学<地>とか土木スキルがあったら、もっと蔵造りとか楽になったんじゃ……
「どうした兄上?」
「あ、すまん。土木スキル取れたの伝え忘れてた」
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