第135話 突撃できない島ごはん

 土間に降りて、まずは石窯に火を入れる。


「えーっと、いろいろと機能をつけすぎて、もはや石窯って感じじゃないんだけど」


 新しく作った石窯は、中央にオーブン用に作られた部分、左にコンロもどきとして作られた部分、右に陶工用に作られた部分の三つに分かれている。

 今、火を入れたのはコンロもどき用の部分。上には鉄のフライパンを置いてある。


【シャズナ】「もはやシステムキッチン」

【ミンセル】「料理人は道具にもこだわる」

【シデンカイ】「中華鍋じゃないだと?」

 etcetc...


 中華鍋も一瞬考えたんだけど、まずは普段使ってるフライパンと同じので。


「今日の食材、メインはこれ」


 取り出したのはフラワートラウト。

 前は串焼きと燻製だったけど、今日はまたちょっと別のものを作る予定。


『前と同じではないんですよね?』


「うん。もう一つメインがあって……これ」


 木のボウルで砂抜き中のクロムナリア。

 ゲームだし砂抜きとか不要かなって気もしたけど一応? 食べた時にガリってなるの嫌だし。


【ジョント】「焼きハマグリ!?」

【ミイ】「いやいや、アサリのお味噌汁でしょう」

【アクモン】「醤油とか味噌は?」

 etcetc...


 だよなー。俺も最初はそう思ったんだよ……


『えっと、何を作るんでしょうか?』


「まあまあ、ちょっと見てて」


 結構大きなフラワートラウトを三枚におろし、軽く塩を振ってから……

 とその前に、


「これ、自作のごま油」


【ノンノンノ】「ファー!?」

【シェケナ】「え、ごま油って自作できるの?」

【フェル】「なんでも作れすぎでしょw」

【デイトロン】「<ごま油代:5,000円>」

 etcetc...


 せっせと集めたぺリルセンスを魔法で乾燥させ、鍛治で作った鉄の搾り機で抽出したごま油。

 めちゃくちゃ力使ったけど、思ったより取れたのは素材加工のスキルのおかげかな?


 ごま油をさっとフライパンに馴染ませてから、フラワートラウトの身を放り込む。

 程よく焼き色がついた時点で、すでにやばい匂いがしてくるんだけど、今日はさらにここからがある。


「いい感じになってきたところで、クロムナリア、レクソン、キトプクサをドーンと投入!」


【リンレイ】「アクアパッツァ!?」

【マスターシェフ】「アクアパッツァだね」

【ヒラリ】「オサレすぎ!」

 etcetc...


 さすがに気づいた人がいるな。

 昼にクロムナリアを見つけて、貝汁の方に考えが行っちゃってたけど、味噌・醤油がないなら洋風だよなと。


「あとは塩を少々足して、水を入れて蓋をしてしばし」


『アクアパッツァで合ってます?』


「うん。中華風アクアパッツァかな。本当なら白ワインとかトマトが入らないとなんだけどね」


 クロムナリアの口が開くまで煮立たせたあと、蓋をしたままテーブルへ。しばらく蒸らすのがいいらしい。


『完成ですか?』


「もうちょっと待ってね。今のうちに薬味を準備するから」


 薬味っていうか、例によって海苔だけど。本当ならパセリの微塵切りとかのはず。

 こっちも乾燥の魔法で綺麗に板海苔になったのを、軽く火で炙って香りを引き立たせる。

 さて、そろそろいいかな……


「よっと!」


 いい感じに旨みが出てそうなクロムナリア、しっかり火の通ってるフラワートラウト。

 レクソンやキトプクサもいい色合いになってるんだけど……赤いプチトマトかパプリカが欲しかったところ。


『美味しそうです!』


「まだまだ。最後にきざみ海苔を散らして、追いごま油を軽く垂らして……完成!」


【ガフガフ】「飯テロ:来たわよ」

【リーパ】「あかん。ワイン飲みたい」

【デイトロン】「<アクアパッツァ代:10,000円>」

【マルサン】「ナイスパッツァ!」

 etcetc...


 まあ、見た目は確実に美味そうだもんな。


「ワフッ!」


「ん、ちょっと待って」


 ルピのランチプレートに、切り身と貝と野菜を盛って、スープはやけどしないように少しだけ。


「じゃ、いただきます!」


「ワフン!」


 最初は当然、フラワートラウトの切り身から。

 箸ですっとほぐれる白身はごま油の香ばしさも漂ってきて……


「うまい、マジうまい……」


 白身なのにジューシーだし、それに貝の旨み、ごま油、海苔が加わって最強クラス。

 クロムナリアは初めてだからちょっと不安だったけど、アサリとハマグリを足して二で割らないぐらい味が濃い……


【クショー】「ぐぎぎぎぎ……」

【ブルーシャ】「ずるい!o(`ω´ )o」

【フェル】「これなんのゲームだっけ?w」

 etcetc...


『うう、美味しそうです……』


 あんまりやりすぎるとミオンが怒りそうだし、ほどほどにしとかないとな。

 まあ、リアルで作りに行ってもいいし、この前みたいな食材を用意されたら、不味く作る方が難しいし。


「ワフッ!」


「はいはい。ルピ、おかわりな」


 ちゃんと貝の身だけ食べてるルピ。なかなかに器用。

 まだまだ食べそうなので、残っている全部をよそってあげる。


「というわけで、新しい家の説明はこんなとこかな?」


『はい。残りの時間は質問コーナーにしますか?』


「あ、うん」


【ヨンロー】「質問ターイム!」

【ドンデン】「飯テロしか頭に入ってねえ!」

【アシリーフ】「本! 本なにがあったの!?」

【ナンツウ】「蔵書気になる!」

 etcetc...


 今日はいつもよりは質問タイム長め。

 本のあたりはいったん飛ばしたし、その辺りの質問が多い感じ。


『じゃ、本についてお願いします』


「うん。えーっと、図鑑の類とか元素魔法の本が多かったんだけど、まだ読めてない本もたくさんあって。

 で、プレイヤーの皆さんは知ってると思うけど、本で知識系のスキルをいくつか取って、それでわかったのが……ルピ」


「ワフ」


 おかわりもぺろりと平げたルピを呼んで、例の鑑定結果を見せる。


【ブルーシャ】「♪───O(≧∇≦)O────♪」

【サブロック】「やはり神の使い!」

【マーサル】「北欧神話まじってきたw」

【ネルソン】「フェンリルだと思ってたけどそっちか!」

 etcetc...


 そりゃ驚くよな……


『ルピちゃん、やっぱりすごく強いんでしょうか?』


「どうなんだろ。俺って周りに比べる相手がいないからなんとも。ただ、ルピが強かったら、それはそれで、この先もっと強い相手が出てくるんだろうなっていう……」


 レッドアーマーベアですら手一杯だったのに大丈夫なのかっていうね。


【クサコロ】「あっ……(察し」

【ラッカサン】「がんばれ! 応援はするよ!」

【チョコル】「しかも基本ソロだもんねえ」

【ロッサン】「またソロ討伐褒賞取れる!w」

 etcetc...


『そうですよね。心配です……』


「あ、そうそう。この先のっていうか、あの『解錠コード』の扉のことがわかって。えっと、これに書いてあったんだけど……」


 インベから例の『記録』を取り出す。

 この山小屋を使ってた人が、左遷されてこっちにきたけど、なんかピンチで行ったっきりという感じでかいつまんで説明を。


『テストが終わったら、あの扉を開ける予定ですよね?』


「うん。ちょっと厳しいかもだけど、見てみないことにはね」


 ルピがいたっていう山の上の方に行くには、あの扉を開けないとだろう。

 ひょっとしたら、ルピの親兄弟がいるかもしれないし、連れて行ってあげたいんだよな……

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