第136話 突撃される島デザート

『えーっと、次の質問は……これにしますね。「今欲しいものはなんですか?」です』


「欲しいものか。うーん……味噌と醤油かな?」


【ターバン】「そっちか!w」

【マスターシェフ】「ショウ君ならそういうと思ったよ」

【チョコル】「調味料足りないですよね……( T_T)」

【マーシー】「今、料理プレイヤーたちも悪戦苦闘してるよ〜」

 etcetc...


 あ、やっぱり味噌と醤油作ろうとしてる人たちいるんだ。

 じゃあ、あれを見せておかないとかな。


「これ、この間見つけたんだけど」


【グリシン】

『白く小さな花をさかせる蔓草。実は食用で採集時期によって味も変化する』


 で、


【グリシンの実】

『グリシンから採れる実。

 料理:生の青い物は苦味あり。乾燥した物は素朴な甘味』


 どう見ても大豆なんだよな。

 大豆はもともとつる豆っていう物だったってばあちゃんに聞いた覚えがある。リアルのつる豆は味がほとんどしないらしいけど。


【マーシー】「それそれ。枝豆ってか大豆だよねー」

【モルト】「帝都の豆の煮込みは結構美味しいぞい」

【ミナミルゲ】「あのラタトゥイユみたいなの美味しいよね」

【ネルソン】「納豆作ろう、納豆!」

 etcetc...


 あ、普通に食用で出回ってるんだ。

 なら、やっぱりこれを使って味噌と醤油ってなるよな。


「今日はちょっと出番がなかったけど、これもそのうち食べたいなって」


『どういった料理ですか?』


「単純なのだと、茹でて塩振って、枝豆的な? あと、塩を作った時ににがりを確保してあるから豆腐?」


【シェケナ】「湯豆腐!」

【ミンセル】「冷奴……は醤油欲しいか」

【リンレイ】「湯葉もいいね」

【アクモン】「厚揚げ!」

 etcetc...


 なんだか、お酒のつまみの方向にどんどん行ってる気がする。


『そういえば、この間食べてた焼き鳥も美味しそうでした……』


「ああ、あれか。えっと、パーピジョンって普通にいる鳥?」


 コメント欄に聞いてみると、どうやら一般的な食材らしいけど、捕まえるのが大変なんだとか。うちはルピが優秀だからなあ……


「あれまた作りたいかな。ごま油の搾りかすがあるし、あれを混ぜたつくねとか良さそう」


【リーパ】「店長、皮とネギマ頼むわ」

【クランド】「軟骨お願いします」

【ブルーシャ】「私、ぼんじり〜d( ̄  ̄)」

【デイトロン】「<つくねをタレで:5,000円>」

 etcetc...


「あ、俺もつくねはタレ派。卵黄とか載せるのもいいし……って卵も欲しいんだよな」


『島ではニワトリさんも見ませんよね』


「そうなんだよなあ。扉の先に野鶏でもいるといいんだけど」


【ロコール】「卵って王都だと普通にあるね」

【ルウキュン】「だいたい街壁の外に養鶏場あるな」

【ストライ】「畜産スキルで酪農してる人いるよ」

【ヒエン】「午前中にプレイすると卵運ぶクエあったりするね」

 etcetc...


「え、畜産なんてスキルあるんだ……」


 いや、あって当然だよな。農耕とか園芸があるんだし。

 鶏とか牛とか山羊とか捕まえられたら、畜産スキルも取らないとか……


『じゃ、最後はこの質問で。「デザートは作れますか?」です』


「島でデザートは今のところは難しいかな。小麦粉、卵、牛乳がないからクッキーもケーキも無理だし。あるとしたらフルーツなんだけど……ああ!」


 まだ間に合うよな。

 コンロに土鍋を置いて水を張る。


『え?』


 パプの実を一つ取り出して皮を剥いて……。よし、沸騰してるな。ぽちゃんと入れて数秒。殺菌のためだからいらない気もするけど。


【マルタイ】「なんか作り始めた!」

【ノンノンノ】「え? 干す時間ある?」

【ケダマン】「干し柿作りRTA」

 etcetc...


 さすが気付いてる人がいるっぽい。

 で、まずは少しだけ、


「<乾燥>」


 乾燥の魔法をしばらくかけて……これくらいかな?


『干し柿ですか?』


「そそ。っと、表面が固くなったあたりで軽く揉む」


 で、また乾燥を、今度は萎びてくるぐらいまで。


「この状態の時はグッと中まで揉む感じ」


 それが終わったら、さらに乾燥をかけて……


「できた! ……はず」


【ムシンコ】「乾燥便利すぎひん?」

【マスターシェフ】「なるほど。私も覚えようかな」

【ヨンロー】「売ってるドライパプと違うな」

 etcetc...


『それは……美味しいんですか?』


「まあ、見た目には美味しそうって感じではないけど、こうやって割ると……」


 萎びた外側とは対照的に、中身がとろっとした干し柿。


「このジュレみたいな部分がめちゃくちゃ甘くて美味しいんだよ」


 溢れそうなそれをぱくっと……


「うわ、めっちゃ甘い……」


【デイトロン】「<スイーツ代:10,000円>」

【シェケナ】「ナイスイーツ代♪」

【ブルーシャ】「とろとろあんぽ柿!(*≧∀≦*)」

【レーメンスキー】「ちょっとコンビニ行ってくるw」

 etcetc...


 これはでもリアルでは真似できないよなあ。

 乾燥の魔法っていうズルを使えるからできる感じだし。


『うう……。ショウ君、そろそろ時間です』


「ああ、ごめんごめん」


【コージ】「1時間あっという間!」

【アサナサン】「おつおつ! テスト頑張れ!」

【メッセレン】「テスト頑張って〜o(^▽^)o」

 etcetc...


 ホント、いつもあっという間だよなあ。

 緊張してるからかな? でもまあ、なんかちょっと慣れてきた気もするし。


「じゃ、次回は再来週かな?」


『はい。では皆さん、ありがとうございました。またお会いしましょう! さようなら〜』


「ワフ〜」


「またー……あっ!」


 俺の左手に残った干し柿を奪ったのは、いつの間にかそこにいた偉そうなフェアリー。

 えっと……


<ライブは終了しましたよー>


【サクレ】「なんかいたぞ!?」

【ドラドラ】「ふぁ? 妖精?」

【ミッサマ】「なんてオチw」

【デンガナー】「なんちゅータイミングやねん!」

【ミサトン】「次回! 妖精襲来!」


 あ、止まった。


「……どうしよう?」


『すごいタイミングで来ちゃいましたね……』


 干し柿を完全に奪い取った偉そうなフェアリーは、テーブルに座り込んでそれをバクバク食べている。

 その幸せそうな顔を見てると怒るわけにもいかないし、というか、怒るのも筋違いだよなあ。タイミングの問題なだけで、来たら普通に紹介する気だったし。


「今って10時前だよね?」


『はい』


「短編動画作ってアップできる?」


『はい!』


 他のフェアリーたちも呼んで『島の新しい住人です』って感じの30秒ぐらいの短編動画を投稿して許してもらおう。


「それ他のフェアリーにも作ってあげるから呼んできて」


「〜〜〜!!」


 そう言うと一目散に飛んでいく。


「じゃあ、今からまた干し柿作るんで、フェアリーたちがそれを食べてる様子を30秒ぐらい映してって感じでどうかな?」


『いいですね。すごく平和そうですし』


 問題はフェアリーたちを助けに行ったときにいたプレイヤーが気づくかもってぐらい?

 まあ、何か言われてもスルーしてればいいか。


「じゃ、今のうちに準備するよ」


 これがフェアリーたちの好物になったら、パプの木もこっちに植え替えしないとだよな……


 ………

 ……

 …


『オッケーです』


「りょ。んじゃ、俺は後片付けして上がるよ」


『はい』


 ラストでハプニングあったけど、うまく行った感じかな?


<二人とも今日はとても良かったですよー>


「あ、ヤタ先生」


『今日もありがとうございました』


<もう見てるだけで大丈夫そうですねー>


 そう言ってくれるのは嬉しいけど、この島、何が起きるか本当にわかんないのがなあ。

 俺もミオンもテンパった時が心配だけど……見ててくれるなら大丈夫かな?

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