土曜日

第133話 久しぶりのぼっち

「座り心地はどう?」


「ワフ〜」


 家、山小屋にある椅子は普通の人間用の一脚のみ。

 ルピは俺が座ってる時は足元に寝転ぶんだけど、なんかこう……遠い?

 なので、リフォームで出た端材を使って、ルピ用の椅子というか台を作った。


「まだまだ大きくなるみたいだし、その時は作り直しかな」


 土曜日の午後。ミオンは習い事で不在。

 真白姉と美姫は仲良くIROしてるっぽいし、ベル部長は『白銀の館』ギルドの皆さんと明日のライブの打ち合わせなんだとか。


 俺も夜はライブだし、そのための準備、特に海苔を採ってこようと思ったんだけど、あいにくの雨模様。


「ちょうどここから土間の屋根が見えるのが良いよな」


 西側の窓のすぐ下に土間の屋根があって、山小屋の片流れ屋根から滴る雨水を拾って流れていく。

 風は常に山側から吹き下ろすので、その雨粒が窓から入ってくることもなく、ただただ潤いのある音を奏でてくれている。


「ワフ……」


 台の上で丸くなったルピはすやすやお昼寝モード。

 俺はというと、採集は諦めて読書することに。


「じゃ、今日はこの『基礎魔法学』からにするよ」


 あとでアーカイブを見るミオンのためにカメラにそう伝えつつ表紙を見せる。

 次にやることは……あった。【基礎魔法学:Lv1】を取得。必要SPが1ってことはコモンスキルなんだな。

 普通に魔術士ギルドに置いてある本らしいし、まあまあ一般教養に近いのかな?


 ………

 ……

 …


【基礎魔法学スキルのレベルが上がりました!】


 1時間弱かけて、元素魔法の仕組みを習得。

 要するにマナを利用して、元素を構築したり、作用したりするのが元素魔法ってことらしい。意外としっかり考えられてるんだなあ。


 基礎魔法学のスキルレベルが3になり、この本に書かれていた生活魔法と分類されるものが使えるようになった。

 その中でも<乾燥>はかなり使えそうな気がする。干物とかすぐに作れそうだし、皮なめしとか、あと塩を作るのも楽になりそう。

 そういや、これが基礎ってことは、応用があるはずだよな? 今度またベル部長に聞いてみるか。


「次はこれかな。図鑑の植物のやつね」


 これは……あった。【植物学:Lv1】を取得。必要SPは4なのでアンコモン。

 このスキルでもっといろんな食材を見つけられるといいなっていうあたり。あと調薬とか農耕とか園芸にも影響ありそう……


 ………

 ……

 …


【植物学スキルのレベルが上がりました!】


「ちょっと休憩……」


 植物学のスキルも3まで上昇。

 昨日あの後、動物学が3まで上がったので、なんとなくそれと揃えておきたいだけ。

 動物学も植物学も、一般には知られてないレア種に遭遇したらわかるとか、より細かくわかるとかいう感じかな。

 あとは他のスキルにプラスの補正が入ったりか……


「ちょっとポーション作りしてみるよ」


 コプティからのヒールポーションをまだ作ってないし、笹ポも品質上がるかもだし、調薬スキルに補正でるか確かめてみないと。


 ………

 ……

 …


【調薬スキルのレベルが上がりました!】


【良質なヒールポーション】

『HPを回復する薬。良品。HP回復+54』


「やっと良品できた……」


 やっぱりスキルレベルが5にならないと良品ができないっぽいなあ。

 コプティからヒールポーションを山ほど作ったところで、調薬スキルがレベル5になって、同時に良品ができた。

 レベル3で始めた時は、ただの【ヒールポーション】でHP回復も+40〜45。

 レベル4になってやっと+45〜+50になり、レベル5で+50を超えた感じ。


 キャラ作ったばかりの時なら、これでHP半分近く回復するんだけど、今だと1/7ぐらいか……

 そのうち、ハイポーション的なのが出てこないと、エリアボスとか強くなってきたら間に合わないよな、これ。


「よし、次は笹ポ作るか」


 作り方自体は同じ。さくっと一本目を作って鑑定してみると、


【良質なヒールポーション】

『HPを回復するポーション。良品。HP回復3秒ごとに+1。持続時間180秒』


 ああ、こういう風に書かれてたのか。

 なんで俺、今まで鑑定してなかったんだろ……まあいいけど。

 ん? これって笹ポはHP+60になるから、コプポより上なのか? いや、単に出来に振れ幅があるだけかな?


「うーん、まあいいか。あんまり作っても、保存庫圧迫するしなあ」


 仙人笹とコプティを混ぜてポーション作ったらどうなるんだろう? とか興味があるんだけど、そういうのはミオンがいる時にやりたいかな。

 すごいのできても、全然ダメでも、リアクションが無いとちょっと寂しいし……


「ワフ」


「お、ルピ起きたのか。ああ、雨上がったんだな」


 土間で調薬に熱中してるうちに雨も止んだらしく、雲の隙間から日の光が漏れ、濡れた樹々に反射してキラキラと輝いている。

 今の時間は……とメニューからシステムを開くと午後4時前か。

 あと1時間ほどあるし、ちょっと海の方を覗いてくるかな? 荒れてるようなら諦めるけど、砂浜の近くなら大丈夫のはず。


「よし、ルピ。散歩行こう!」


「ワフッ!」


 ………

 ……

 …


「おっ! これはアサリ? ハマグリ?」


【クロムナリア】

『砂地に生息する二枚貝。食用可。

 料理:身は旨味と弾力がある。素材加工:貝殻は各種素材になる』


 あー、すごく良さそうな具材なんだけど、味噌と醤油がないのが……

 とりあえずはそのまま焼いてかな? 炒ったごまをまぶすのも良さそう。


 海苔の材料となるビリジールもたくさん取れたし、これは持って帰ってから<乾燥>で板海苔にしよう。

 前はちょっと不恰好だったけど、今回はちゃんとしたのが作れるはず。……まあ、最終的にはちぎって散らすんだけど。


「ワフ!」


「ん? ルピ、どした? って!」


でかい海老を見つけて、思わず飛び込んだんだけど……


「あー、逃した!」


「ワフ……」


「ごめんごめん」


 うーん、やっぱり漁具も作らないとだよな。

 この場合って釣りスキルがあればいいのか? 水泳とか潜水も絡む?

 とりあえず、ヤスを作るのが一番良さそうな気がするな。


「三又のヤスって……トライデントだよな」


 なんとなく、半魚人が持ってるやつが頭に浮かぶんだけど、あれだと岩の隙間とかは無理そう。先端は一本か二本にして、ちゃんと返しをつける方がいいよな。


「よし、そろそろ帰るか」


「ワフ」


「ん? ああ、そっか。久しぶりにそっちから帰ろうか」


 ルピが向かうのは南東側の密林の方。パプの実はこっちの方が多いしちょうどいい。

 ちょっと作らないとと思ってた物もあったし、鍛治もやらないとだよな。

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