第130話 ある意味同類

 石窯作りも3回目ともなるとあっさりと。

 一回り大きいぐらいのつもりが、二回り大きいやつに。

 あと、ちょっといろいろと凝った作りにしすぎたかも……


「さて、試しに……フラワートラウトでも焼くか」


「ワフッ!」


「お、ルピおかえり。ちょうど良かった。おやつにしよう」


 薪代わりの廃材を突っ込んで着火。

 一度ちゃんとつけば、消えないかとか気にしなくていいのは本当に楽ちん。


『台所というか調理台が欲しいですね』


「うん、それも作らないとかな。あー、あと水回りか……」


 今のところは何もないので、しゃがみ込んで地面に置いた石のまな板でフラワートラウトを捌く。

 綺麗な身は浄水の魔法で出した水で洗って、取り出した内臓やらはあとでスコップで埋めるか……


 竹串をさし、塩を軽く振ってから石窯に。

 竹串も塩もそうだけど、テスト前の『ゲームは1日1時間』期間中は、読書だけじゃなくて細々としたことをやりためておくべき?


「調理台はこの辺?」


『勝手口から来たときに邪魔になりませんか?』


「なるほど……」


 土間の配置をミオンとあれこれやってるうちに、


「ワフ!」


 フラワートラウトが焼けたらしく、ルピの尻尾の振りが激しい。

 さっそく1匹はルピのランチプレートに置き、自分の分はワイルドにガブっと。


「熱っ!」


『……今度、うちに来たときは魚料理でお願いします』


「あ、うん」


 でも、魚料理って、中華みたいに並べるものじゃない気がするけど。

 ぶり大根とカレイの煮付けを同時には違う気がするし……

 魚をいろいろってなると……刺身? 寿司……はさすがに握れないし。あ、手巻き寿司とかならありか。


「今って4時ぐらい?」


『あ、はい。4時前ですね』


「あと1時間。どれから手をつけるかな」


 調理台、テーブル、椅子、食器棚とかも欲しい。下段は薪を並べる感じに。

 それか水回り、下水を泉の方へ流すとしても、いったん小さい貯水池みたいなのを作った方がいい気がするし。


『まずは勝手口から降りる階段じゃないですか?』


「あ、まずはそれか」


 今は勝手口を出たところから飛び降りないとだもんな。

 正面みたいに真っ直ぐじゃなくて、土間の方へと降りる石段を作るか……


***


「さて、夕飯作るかなっと。あれ? 二人ともIROは?」


 リビングに真白姉と美姫。

 エアディスプレイで何かを熱心に見てるんだけど……


「少し面白いことがあっての」


「面白いって何が……はあ!? 真白姉、レオナ様とPvPやったの?」


「んー、まあな……」


 妙に歯切れが悪いってことは負けたか。

 いやまあ、さすがに負けるだろうけど、よく相手してくれたなっていう。


「美姫が頼んだのか?」


「いや、我は何も言うておらんぞ。たまたま例の件でレオナ殿たちが来ておってな。姉上と鉢合わせたらいつの間にやら……」


 そう言って両手を広げる。

 画面に写っているのはレオナ様と……これ真白姉のキャラか。

 今のローポニーな髪型とは全く違うマニッシュショート。金髪じゃなきゃ、中学ぐらいの真白姉って感じだけど、背はレオナ様と同じぐらいあるんだよな。


 レオナ様の双剣を籠手で受けるマリー真白姉と、拳やキックを避けてかわすレオナ様の一進一退の攻防。

 すげえな……ってか、これライブ配信されてたのか……


「ここか」


 真白姉が再生を止める。

 レオナ様の右手の突きを左手の裏拳で弾いたところだけど……


「これは我にも見えなんだな」


 そのままコマ送り再生していくと、マリー姉が右ストレートを放ち、それをレオナ様がギリギリで避けつつ、その腕を巻き込むように左手の短剣が首筋に添えられる。


「あー! くそっ!」


「見事なクロスカウンターよの」


 ソファーに仰向けになる真白姉だが、表情はさっぱりしてる感じかな?

 まあ、強い相手に正々堂々やって負ける分にはってあたりか。


「そのあと揉めたりしてないよな?」


「しねーっての」


「兄上は心配性よのう。しっかりフレンドになっておったし、またいつか再戦という話をしておったわ」


 そうケタケタと笑う美姫。


「翔太! 飯! 勝てるやつにしろ!」


「はいはい……」


 まあ、カツ丼作ろうと思ってたからちょうどいいか。


***


「……ってことがあったんだけど」


『はい。私もフォーラムで知って動画も見ました。すごかったです!』


「うん、まあライブの反響も悪くなかったみたいで一安心だけどさ……」


 IROの競技としてのPvPは、お互いのキャラレベルに差がある場合、低い方に合わせるようステータスに補正が入るそうだ。

 この場合、マリー真白姉に合わせられるんだけど、あくまでステータスだけの話で、習得済みのスキルやアーツはそのまま使える。

 普通に考えれば、レオナ様の方が圧倒的に有利なんだけど、それでも健闘したマリー真白姉がすごいって話がちらほらと。


「楽しむのはいいけど、下手に有名になって、妙な煽られ方してPKしないか不安だよ」


『大丈夫だと思いますよ。セスちゃんのお姉さんなことも周知されましたし』


「うーん……」


 それはそれで『白銀の館』に迷惑がかからないか心配なんだよな。

 高校入ってからは多少落ち着いてきたけど、中学ぐらいまでは瞬間湯沸かし器だったし。


『ふふ、ショウ君、まるでお母さんみたいですね』


「うぇ、それ結構言われるんだよな……」


 美姫に関してはそれを言われてもしょうがないかと思うんだけど、真白姉も含めて言われると納得がいかないというか……


「よし、できた」


【木工スキルのレベルが上がりました!】


 調理台は石壁製、外用に新しく作ったテーブルと椅子は木製で。

 これで調理場も完成と言いたいところだけど、排水まわりが残ってるんだった。


『おめでとうございます。テーブルと椅子を鑑定してもらっていいですか?』


「さんきゅ。えっと……」


【良質なテーブル】

『ごく一般的な木製テーブル。良品。

 木工:修理可能』


【良質な椅子】

『ごく一般的な木製チェア。良品。

 木工:修理可能』


「やっぱりスキルレベル5以上だと良品になるのかな?」


『ショウ君の場合は、伐採も6ですし、素材加工は7ですし、いろいろと参考にならない気がしますよ?』


「あー……うん」


 そういや、真白姉の話の時にPvPした話になっちゃって、エリアボス——ウルクだっけ?——の革がどうこうって話を聞きそびれたな。


「ワフ」


「お、ルピ、どした? って、フェアリーたちと南西の森に行くのか……」


 ルピに跨ってるのはいつもの『高位らしい』フェアリー。その後ろには普通のフェアリーたちがふわふわときゃっきゃうふふしてる。


『ショウ君も行ってみたらどうですか? ずっと物作りしてると体が鈍りますよ?』


「そうかも。というか、弓の練習とかも放置しちゃってるし、ちょっと体動かしてくるよ」


『はい!』

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