木曜日

第127話 雨奇晴好

「あ〜、ねみぃ〜」


「うむ、うむ……」


 二人が降りてきたのは9時をずいぶんまわった頃。結構遅くまでIROやってたんだろうな。

 連休中、しかも久しぶりってことだし、しょうがない。


「朝ご飯どうする?」


「食べるぞ」


「うむ……」


「じゃ、用意するから、顔洗って目を覚ましてきたら?」


 そう言って二人を見送り、俺はさくさくと朝飯の準備を。

 ご飯に鮭の切り身を焼いたもの、味付けのりとたくわん、ワカメと豆腐のお味噌汁という定番の朝和食。

 鮭は俺の朝飯にまとめて焼いたものをレンジで温め直すだけ。


「「いただきます」」


 顔を洗ってしっかりと目が覚めた二人が、がっつりと食べ始める。

 この様子だと昼は軽めで、夜はしっかりの方がいいか。


「美味い! やっぱ、朝飯は和食だよな! 寮の朝飯がパンばっかでよー」


「兄上! 納豆が欲しい!」


「はいはい」


 真白姉も欲しがったので二人分を冷蔵庫から取り出す。

 うーん、そろそろ買い出しに行っとかないとかな。二人なら土曜で大丈夫だったけど、三人なら明日の夕飯が足りなそう。


「俺、午前中に食材買いに行くつもりだけど、二人はどうする?」


「任せた。あたしはゲームの続きだ!」


「我も姉上に付き合おうぞ!」


 んじゃま、気楽に一人で買い物かな。

 連休中、あんまり外に出てない気がするし、ちょっと羽を伸ばしてこよう……


***


『じゃ、お義姉さんは素手で戦うんですか?』


「素手っていうか、籠手でなのかなあ。金属製の籠手で殴るスタイルらしいよ」


 古代遺跡の中を歩きながら雑談中。

 真白姉がどういうキャラを作ったのか、昼飯の時に聞いたら、


「殴るキャラに決まってんじゃん」


 とのこと。

 魔法って線は無さそうだし、生産系もやらないだろうなとは思ってた。

 それは良いんだけど、


「武器は?」


「拳で」


「は?」


 みたいなやりとりがあって、美姫が説明してくれた。

 近接攻撃のスキルに【格闘】があるそうだ。いや、そりゃあるよな。


『つまり、モンスターを殴ったり蹴ったりして……ですか?』


「うん。もともと格闘技とか好きなんだよ。それに、剣とかっていうのも……なんか想像できないし、殴ったり蹴ったりが一番似合ってるんだよな……」


 ゴブリンとかオークにヘッドロックとかするのかって感じだけど。

 ともあれ、しばらくはセス美姫と一緒に例の商会で護衛をやってる人たちから訓練を受けるらしい……


『なんだか、すぐに強くなっちゃいそうですね』


「なると思う。身体運動能力は全部……マリー真白姉に行ってるし」


 180近い身長に抜群の運動神経。中学の時はバスケで結構良いところまで行ってたもんな。

 本人は「やっぱ、チームプレー向いてねえわ」とか言ってやめちゃったけど。


「ワフッ!」


 外の明かりが見え、いつものようにルピが駆け上がって行く。

 天気は若干曇り気味。すぐには降ってこないと思うけど、山の天気は変わりやすいっていうしなあ。

 階段を登り切ったところでしっかりと待てをしているルピに、


「遊んできていいよ」


「ワフ」


 そう伝えると、風のような速さで森へと駆けていく。

 だいぶ大きくなったし、足も早くなったし、強くなったよな。


『今日は扉と窓からですか?』


「そのつもりだったけど木材の追加が先かな。雨降ってくるかもだし」


 大きいのを2本ほど切って、いつでも使えるようにしときたい。

 地下の例の転移魔法陣の上にミニチェストを置く話があったし。


「さて、じゃ、やりますか」


『気をつけてくださいね』


「うん」


 ………

 ……

 …


「どうかな?」


『バッチリですよ!』


 2つの木窓、勝手口、そして玄関の扉を作り終え、それをしっかりと設置する。

 最初は作るのに手間取った蝶番も、無理に小さく作らず、そこそこ大きくてもしっかりしたものにしたおかげで、耐久性も高そうだ。

 斧スキル、伐採スキル、木工スキルとレベルアップしたんだけど、前の上方調整の恩恵が一気に来た感じ。


「さて……」


 光の精霊に明かりをお願いして中へと入る。

 勝手口と木窓は閉めてあって、あとは玄関扉を閉めるだけ。


「ワフッ!」


「っと、ごめんごめん」


 扉が閉まりそうなところに、ルピがフェアリーを背に乗せたまま滑り込んできた。

 しっかり中に入ったところで、扉を閉めると……


『何も起きませんね』


「うーん、やっぱりベッド的な物がないとダメなのかな?」


 サクッとベッドを作って設置するのが一番早いかな。

 木材は余裕があるし……


「ワフワフ」


「ん?」


 ルピが前足をたしたしと……ああ、そういうことか。


『どうしたんでしょう?』


「いや、これをやってみろってことだと思う」


 インベントリから取り出したグレイディアの皮(加工前)を敷いて、そこに座ってみると……


【セーフゾーンが追加されました】

【住居の追加:SP獲得はありません】

【マイホーム設定が可能です。設定しますか?】


「来た!」


「ワフン!」


『ルピちゃん、すごいです!』


 皮を敷いた場所から出た淡い光が徐々に広がっていき、家の中を満たしたところでその輝きが弱まっていって……


「あれ? 消えた?」


 いや、見た目にわかりにくくなっただけ?


『ショウ君、ステータス画面に出てませんか?』


「え? そんなのあるの?」


『はい。セーフゾーンにいるとわかるそうですよ』


 知らなかった……。いや、知ってろよって話なんだけど。

 慌ててメニューからステータスを開くと、名前の前に見慣れない緑の●が付いている。


「これのことかな?」


『多分そうだと思います』


 わかりづらいなあと思うものの、ずっと光ってるのも何かおかしい気もするし。

 南東の洞窟のセーフゾーンや、南西の草原のセーフゾーンは外だからわかりやすく光ってるってことなのかな。


「ま、いいや。とにかく、ここをマイホームに設定っと」


「ワフ」


 隣に敷いたグレイディアの皮の上に丸くなるルピが可愛い。

 そして、その隣に大の字で寝るフェアリー……。いいけど、背中の透明な羽は邪魔にならないのかな?


『先にベッドを作りますか?』


「そだね。前のを参考にしつつかな。ああ、あと机と椅子の鑑定をしないと」


 二人はお昼寝っぽいので、明かりは少し暗くしてもらって外へ。

 蔵の左側には古い屋根板や壁板、玄関扉などが積まれ、その隣に机、椅子、壊れかけのベッド。新しく調達した木材は右側に。


『少し降って来ました?』


「あ、ホントだ」


 パラパラし始めた雨は、やがてしとしとと。

 斜面の草むらをゆっくりと濡らし、緑が濃く見えてくる。

 奥に見える森には少しもやがかかり始め、本当に幻想的な雰囲気に。


「風情があるなあ……」


『はい……』


 古い椅子を蔵の外に向かって置いて座り、しばらくその様子を眺める。

 これでコーヒーがあれば……

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