第128話 なんとなく憧れてたもの

 しばらく降り続いた小雨をBGMに、ベッドのパーツを作ること小一時間。

 あとは組み立てるだけになったので、それらを山小屋の方に運び込むことに。


『組み立ては中でですか?』


「うん。さすがに出来上がったのを玄関通すのはめんどくさいからね」


 前のベッドも適当にばらして運び出したし。

 椅子はまあすんなり出たけど、テーブルはギリギリって感じ。

 そのテーブルと椅子だけど、鑑定した結果は【古びた高級テーブル】【古びた高級チェア】。

 アンティーク品って感じなのかな。でも、作りがしっかりしてて直す必要性は全くなかったし、もともと出来がいいものだったっぽい。

 単にベッドだけ粗悪品っていう。あの『記録』を書いた人が持ち込んだとかかな。それか自作したか……


「ルピ、ごめん。起きてくれ」


「ワフン」


 玄関を開けると、すぐにルピがシャキッと起き上がって駆け寄ってくる。

 しっかりと撫でてから顔をむにむにすると、目を細めて嬉しそうにしてくれる。

 そういえば……


「ぐーすか寝てるし……」


「ワフ……」


 ルピも呆れ顔。

 起こさないように、ベッドのパーツを運び込むつもりだったけど、こいつ普通に起きなさそうだよな……

 とはいえ、よだれを垂らして平和そうに寝てるのを起こすのもなんだし、グレイディアの皮の両端を摘んでハンモック状に持つ。

 それをルピが咥えて外へとそーっと。そのまま倉の中へと運び込んでくれる。


『ルピちゃん、優しいです』


「どっちが高位かって言われたら、ルピなんじゃないかな……」


 左右の木窓を開き、明るさを確保したところで光の精霊の明かりを解除する。


『ベッドの場所はどこにします?』


「この玄関入って右手にするつもり」


 以前は部屋の左奥、東側を頭に置かれてたけど、今そこには勝手口がある。

 右奥は1階へと降りる階段があって、そこには置けないので。


『壁沿いにです?』


「そそ、南枕にしてこの辺から……ここまでって感じ」


 部屋の右手前隅っこから、右の木窓までのスペース。

 その先にはもう1階への階段のための穴というか、空間が空いてて……やっぱり柵とか後で作ろう。


『テーブルと椅子は左側ですか?』


「うん。窓の外の景色、こっちの方がいいから」


『そうですね』


 入って右側、山側の窓は隣の蔵が見えるだけになっちゃったし。

 左側の窓からは、海までは見えないけど、泉の方が見えていい感じ。

 雨の日は中でお茶飲みつつ読書とか良いよな。


「さて、じゃ、組み上げるか」


 シンプルなベッドだけど……ミオンがちょっと驚いてくれると嬉しい。


 ………

 ……

 …


『ショウ君、そのベッド……高くないですか?』


「うん。ロフトベッドってやつ。あんまり高いと揺れに弱いから、ローなやつだけどね。よいしょっと!」


 横倒しに組み上げたそれを起こして、壁際にピッタリつける。

 ベッドの高さとしては胸ぐらい。普通は下のスペースを収納に使ったりするんだけど……


「ルピ〜?」


「ワフ」


「寝床持ってこっち来て」


 その言葉にグレイディアの皮を咥えて駆けてくる。

 あ、フェアリーはもう帰ったっぽい? まあ、トンカンやってたしな。


「さんきゅ。ルピはここな。俺は上で」


「ワフン!」


『なるほどです!』


 胸ぐらいの高さならはしごも不要。両手をかけて、グッと体を持ち上げて滑り込む。

 うん、右側の方が屋根が高いから圧迫感もないな。あとは、俺もグレイディアの皮でも敷いておきたいところ。


「よっと。ミオン的にどう?」


『Sクラスです!』


「いやいや、ロフトベッドは普通に売ってるから……」


 ちょっと憧れだったんだよな、ロフトベッド。

 ここならルピのためのスペースになるし、足元の方のスペースには小さい棚でも置こうかな? いや、ルピがもっと大きくなったら狭いか?


「よっと。あとはテーブルと椅子を運び込もう」


『はい』


「ちなみに今って何時ぐらい?」


『3時半をまわった頃ですね』


 微妙な時間だな……

 土間に屋根をつけるとして、柱を2本打ち込むところからスタートなんだよな。

 とりあえずそこまで終わらせて、昼の部は終わりかな?


 ………

 ……

 …


「こんなもんかな?」


『かなり深く掘るんですね』


「しっかりした束石を埋める予定だからね」


『つか……石?』


 普通は知らないよなあ。

 まあ、見てもらった方が早いので、石壁の魔法でさっくりと束石を作るんだけど、うまくいくかな?


「えーっと、ちょっと見てて」


『はい』


 まずは立てる柱と同じ太さの角材を用意。

 それを覆うように、大きくて分厚いやつを、


「<石壁>っと」


 あとは角材を抜いて束石完成。


「これが束石。すごく簡単な基礎かな」


『そうなんですね!』


 あとは本番の柱を刺して、周りの土を埋めて、固めて、埋めて、固めて……


「よし、これで一本目完成」


『大変なんですね』


「だね。今は鉄筋コンクリの基礎が普通だから、こんな苦労はしなくていいんだと思うけど」


 都市部で基礎から工事してるところって、ほとんどないもんなあ。

 今、母さんがいるような場所とかだとやってるのかな?


「さて、もう一本柱を立てて終わりにするよ」


『はい』


 夜には屋根までつけて、できれば石窯まで作れればかな?

 今日のうちに引っ越し終えたいところだけど……


***


「ただいま」


『おかえりなさい』


 2本目を立て終えて、さっそく山小屋で就寝ログアウト。

 バーチャル部室に戻ってきたら、


「こんにちはー」


「あ、ヤタ先生、どもっす。なんかありました?」


 ベル部長の宿題は片付いたっぽいし、それ以外で何かあったっけ?


『母に会ってもらったことと、チャンネル名を決めたことを伝えたので』


「ああ、そうだった!」


「そうですよー。ショウ君がミオンさんのお母さんのお眼鏡に叶ったようでー、何よりですー」


 お眼鏡にかなうって……


「ヤタ先生、いろいろ知ってたんですよね? もう少し先に説明しといてもらえると、俺としても心の準備ができてて良かったんですけど?」


「それだとつま……。ところで、新しいチャンネル名はなんですかー?」


 この人、今「つまらない」って言おうとしたよな?


『えっと【ミオンの二人のんびりショウタイム】です』


「いいですねー。ショウをかけてるわけですねー」


 そうなんだけど、そこは『のんびり』メインでお願いします……

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