第125話 一番落ち着ける場所
結局、アップデートライブの後はミオンの今までの配信、要するに俺が無人島スタートしてあれこれやった動画を真白姉に見せたりがメインになってしまった。
ついでに美姫がセスとして活躍してる魔女ベルの動画も。
ミオンにはちょっと申し訳ないかなと思ったものの、VRHMDを被ってからは普通に普通に——合成音声だけど——話すようになって、真白姉や美姫とも打ち解けたっぽい?
「っと、翔太、美姫。そろそろ帰んないとだぞ」
「ああ、もうそんな時間か」
『あっという間ですね……』
ミオンがしょんぼりするが、さすがに夕飯までというわけにもいかない。
お昼の食材が結構余ってるので、適当に作れと言われたらできそうなんだけど……真白姉が許してくれないだろう。
「では、そろそろお暇するかの」
「だな」
そう言ってVRHMDを外す俺たち。
ミオンはちょっと寂しそうな顔をして、ゆっくりとVRHMDを外す。
「ん……」
「はい。みなさま、ご自宅までお送りいたしますので」
いつの間にかいた椿さん。
駅までかなと思ったけど、家まで送ってくれるそうだ。
……やばいカードもらったし、その方が安全かな。
帰ったらすぐに
***
スーッと音もなく車が止まり、ドアのロックが外れた音がする。
真白姉がそのドアを開けようとする前に、いつの間にか椿さんがいて開けてくれた。
「じゃ、また夜に……ん?」
降りようとしたところで、ミオンにグッと手首を掴まれる。
反対側の手を胸に当て、一つ深呼吸してから……
「ショウ君、今日はありがとう。また来て……」
「う、うん」
相変わらずというか、すごくゾワっとくるハスキーボイス。
真白姉や美姫もびっくりして目を丸くしてるし……
「こほん」
椿さんのわざとらしい咳払いでリセットされ、俺たちは車を降りる。
ドアを閉めた椿さんが一礼し運転席へと。車はゆっくりと発進して、そのまま消えていった。
「はあ……ぐわっ!?」
「翔太ぁ〜?」
真白姉のヘッドロックがガッチリときまり、そのまま玄関へと連れて行かれる。
「しかし驚いたのう。あれほどの美声を持っておきながら、喋るのが苦手とはの」
美姫が玄関を開けてくれ、俺はヘッドロックされたまま放り込まれる。
ガチャリと玄関扉が閉まったところで、やっと解放される俺。仁王立ちの真白姉。
「さて、最初から説明しろ」
「聞いてなかったのかよ!」
「まあまあ、姉上。ここではなんだし、兄上もまずはやらねばいかんことがあろう」
美姫が言うように、まずは預かったカードに利用者登録をしないと。
俺に預けたってことは、利用者登録の枠が1つ空いてるはずで、そこを俺の登録で埋めておかないとまずい。
「すまん、美姫。先に説明し直しといてくれ」
「心得た!」
ホント、頼りになる妹だよ。
***
カードに自分を登録し、しっかりと机の奥に保存。
多分、使うのって夏の合宿費用を出すときが最初なんだろうなあ。
真白姉からの追及は、早めの夕飯を取りながら。
昼が重かったので、軽いお茶漬けにお漬物で二人とも満足してくれたので助かった。
その後は……追及というほどでもない感じだったかな。
結局、俺が最初からミオン——出雲さんがお嬢様だって知ってたのかって話に終始してた感じ?
要するに「お前、金目当てで誑かしたとかじゃねぇよな?」っていう……
知ってたとしても、電車であの時助けないって選択肢は無いし、電脳部に入ったのも偶然だし、その前にミオンに配信を見つかったのも偶然だし。
……どうしてこうなった?
「ばわっす」
『ショウ君』
いつもの笑顔で迎えてくれるミオンにホッとする。
「あら、早いわね」
ベル部長がいてくれてちょうど良かったんだけど……宿題してたのか。
ヤタ先生あたりに「それを終えれたらゲームしてよし」とか言われてるんだろうな。
「ヤタ先生はいないか……」
『セスちゃんはお義姉さんとIROですか?』
「あ、いや、ちょっと待ってもらってるっていうか、ベル部長。俺の姉をここに呼んでいいですか?」
美姫が来れて真白姉が来れないってことはないだろうと思う。
ヤタ先生がいると話が早かったんだけど、休みだししょうがない。
「ええ、構わないわよ。今年の3月に卒業された先輩なのよね?」
「です。じゃ、さっそく」
美姫にメッセを送ってしばらくすると、
「待たせたの」
「ういっす」
と二人が入ってきた。
『セスちゃんにお義姉さん』
「おー! ああ?」
とミオンをハグしようとして阻まれる真白姉。
フルダイブは基本的に身体接触アウト設定になってるの忘れてるな……
「えっと、部長で2年の香取鈴音です」
「おう、伊勢真白だ。っと、名前はまずいんだったな。マリーで頼む」
「は、はい」
俺と美姫のイメージがあるせいか、真白姉のキャラに戸惑ってる感じのベル部長。
ちょうどそこに、
「こんばんはー。あー、真白さんー、久しぶりですねー」
「先生。お久しぶりです」
ヤタ先生には頭が上がらないのか、ちゃんと頭を下げて挨拶する真白姉。
まあ、その辺はしっかりしてるというか、礼儀とかにはうるさいタイプなので違和感はないけど。
「あの、ひょっとして風紀副委員長だった……」
「へー、よく覚えてんな!」
は? 真白姉が風紀副委員長?
「真白さんは有名人でしたからねー」
「姉上の武勇伝を聞きたい!」
なんだか、ヤタ先生と
『ショウ君、明日アップする動画のチェックをお願いします』
「あ、そうだった!」
木曜夕方にアップする内容は、古代遺跡の通路を北に、行き止まりから左手の階段を登って盆地に出るところ。
そこから上手く繋いで、泉の周りをぐるっと確認し、また切り替わって、今度は山小屋の周りを一周するところまで。
「いいね。フェアリーの話はもうちょっと落ち着いてからにする?」
『はい。でも、神樹を通って島に行けることは絶対に隠しますからね』
とニッコリ。
ちょっと怖いんだけど、それに異論があるはずもなく。
「うん、あれは俺の中でも無かったことになってる。あの件は完全に想定外だったけど、もう島の外に出る気はないよ」
『はい!』
島が一番落ち着ける場所だもんな……
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