第123話 共通の話題

 なんだかんだと、みんな結構ちゃんと食べてくれて、全ての皿が空っぽに。

 真白姉、中華とか久々だからって食い過ぎだ……


「満足した?」


「ぅん」


 普段は少食っぽいミオンも、どれも美味しそうに食べてくれた。

 まあ、A5牛の青椒肉絲とか、高級豚の酢豚、特級卵のニラ玉とか反則だもんな。


「ごちそうさま。とても美味しかったわ」


「ありがとうございます」


「そんなに気を遣わなくても平気ですよ。真白さんも美姫ちゃんも普段通りで」


 あ、なんかバレてるっぽい?

 まあ、今さらって気はするよな。

 二人が顔を見合わせてるけど、だからといって突然ハメを外すのも違うだろうし。


「それと、もう気づいたと思うけど……、澪も私も普段は外食か出前で済ませてるの」


 やっぱりそうだよなあ。

 食材はとにかく良いやつを揃えましたって感じだったし、何より料理道具も食器も、多分、炊飯器も新品だったと思う。

 つまり、普段は全く料理とかしてないっていう……仕事で忙しいんだろうな。


「お茶をどうぞ」


 椿さんが淹れてくれたんだけど、中華だったのに合わせて鉄観音茶。お茶を入れる道具だけある感じ?

 料理の前に淹れてくれたお茶も美味しかったし、そこは椿さんの趣味とか?


「椿が料理できれば良いのだけれど……」


「残念ながら食材を無駄にするだけかと」


 そうなんだ。てか、それで手伝わなかったってこと?

 さすがに包丁ぐらいは使え……うちの母さんは無理だったな。うん。


「しょうがないわね。その分、椿には事務仕事の方で頑張ってもらいましょう」


「はい」


 それはそれでありがたいんだけど……


「あの……、なんで、登校の時にわざわざ電車で?」


 自家用車があって、椿さんがいるなら、送り迎えして貰えばいいと思うんだけど。


「小中と椿に送り迎えをさせてたんだけど、高校生になって一人で電車にも乗れないのはダメでしょう?」


「まあ……、そうですね」


 でも、いきなり一人でってのも……ん?


「ひょっとして、椿さん、普段から大丈夫か見てたりします?」


「はい。翔太様がお嬢様を助けていただいた際も見ておりました」


 マジか……というか、見てたんなら俺より先にどうにかして欲しかったんだけど。

 と椿さんを見ると、


「ご心配には及びません。かの者は、後日、違う女学生に同様の行為を行なっていたところを捕まえて突き出しましたので」


「ごふっ!」


 思わずむせる俺。

 なんだけど、真白姉も美姫もうんうんと頷いてるし、ミオンのお母さんも「それが当然」みたいな顔してるし。

 いやまあ、あのおっさん完全にアウトなんだけどさ。


「?」


「平気平気。じゃ、帰りは駅まで椿さんに迎えに来てもらってるの?」


「ぅん」


 それを聞いてちょっと安心。

 オートルートバスだって混む時は混むし、そういう状況だとどうしても変な奴いるんじゃないかっていう不安が。

 真白姉や美姫みたいな鋼のメンタルしてれば心配はないんだけど……


「翔太様が付き添われるようになってからは、お任せしておりますのでご心配なく」


「はあ……」


 でも、それじゃ結局一人で電車に乗れないって問題を解決できてない気がするんだけどな……


 ………

 ……

 …


 つつがなく、昼食会(?)も終了。


「良かったら、また作りに来てね。絶対に時間をあけますからね」


「はい」


 ミオンのお母さんはまだ仕事があるということで、すごく残念そうな顔をしつつ、上の階へと。

 あとはまあ適当に遊ぶかって感じなんだけど、その前に、


「真白姉のVRHMDの設定は終わった?」


「おう!」


「うむ、無事終わったぞ」


 言っておいて後から気が付いたんだけど、VRHMDから個人設定をするには、当然、無線ネット環境が必要。

 ウェアアイディ登録には、厚生労働省の虹彩認証システムから与えられるアプリケーションサートってのが必要になって……

 そっちは流れで設定できるんだけど、その後に立ったり座ったり寝たりと、基本アバター作成のための身体情報スキャンが大変。

 リビングがすごい広いおかげですんなりできたらしくて羨ましい。俺の時は腕を壁にぶつけそうになったもんな……


「そういえば兄上、1時からIROの公式のアップデートライブがあるらしいぞ」


「え、マジで?」


「うむ。せっかくだし、皆で見ようではないか」


「ミオンもそれでいい?」


 その問いに頷いてくれたので、俺はさっさと洗い物しないと。


「じゃ、俺は洗い物するから、先に見てて」


「それは私の方で行いますので、みなさまはリビングの方へ」


 いつの間にかカートみたいなのを運んできてた椿さんが、テキパキと食器を片付けていく。


「ん……」


 ミオンが手伝わなくても良いと合図をするので任せることに。

 なんか、でっかい食洗機があったから突っ込むだけだろうとは思う。

 今どき普通にあるはずの食洗機、うちにはなぜか無いんだよな。

 なぜかっていうか、親父が洗い物を苦にしないのが普通すぎて、食洗機って存在が頭の中にないからだろうけど。


「えっと、どっちで見るの?」


 みんなでVRHMDを被って見るのでもいいし、でかいエアディスプレイに映すのでも良さそう。

 あ、でも、真白姉は部室に入れないのか。熊野先生は知ってるし、ベル部長もダメとは言わないと思うけど。

 ミオンはそれに気づいてたのか、エアディスプレイのスリープを解除した。


「「おお!」」


 ふわっと空間上に浮き上がる大きなディスプレイに、真白姉と美姫が思わず声をあげる。

 ミオンが手元のタブレットで公式ライブを開くと、


「えー……」


 前のアップデートで流れたPVが垂れ流しされるし。

 右上に【13時開始予定】ってあるけど、例によって遅れるんだろうなあ。

 そして、PVには俺とルピが戯れてるシーンが流れ始め……


「おい、これって翔太だよな?」


「うむ。兄上はIROでは有名人だからのう」


 真白姉、頼むからIROの中で俺の姉だとか言わないでくれよ?

 俺はともかく、絶対に厄介な連中に絡まれてブチ切れて……みたいなのが容易に想像できるし、帰ったら釘を刺しとこう。

 美姫にもその辺協力してもらわないと……


「このワンコ、可愛いしかっこいいな。あたしにも飼えるか?」


「難しいであろうのう。兄上がおる島にしかおらんのではないか?」


「なんだよ。翔太ずるくね?」


 真白姉が愚痴ってるがスルーが正解。

 そういえば、ルピはまだ【狼?】のままなんだよな。

 確かキャビネットにあった本の中に図鑑があったはずだし、早く山小屋のリフォーム終わらせて読まないと……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る