第117話 背後にいる者

 ミオンの実況(?)を聞きながら、黙々と床を張り替える作業中。

 解体したパーツと同じパーツを作っては張るっていう繰り返しなので、悩むこともほとんどなく。

 このペースなら、夕方までに床板の張り替えは終わりそうかな。


『あ、ナットさんが「ノームの守護者」っていう褒賞を得たみたいですよ』


「マジか。ってか、なんで?」


『保護して連れてきたノームさんたちにお菓子をあげたからでしょうか』


「やっぱ餌付けなんだ……」


 ノームたち全員を助け出したベル部長、セス、その他有志一行は無事、開拓拠点に戻って来たらしい。

 で、まあ、モンスターの襲撃が収まるまでは保護する感じなのかな?


「ちなみにお菓子って?」


『クッキーみたいですね』


「小麦粉、砂糖、バター、卵はあると……」


 くっ、どれも無人島にはない材料ばかりなのが羨ましい。


『ショウ君、お菓子も作れるんですか?』


「え? まあ作れるよ。簡単なものだったらだけど」


『すごいです……』


「いやいや、お菓子はホントに材料をきっちり測って、手順通りにやればできるから」


 変なアレンジを入れると失敗するのがお菓子づくり。

 クッキーなら、ナッツとかチョコチップを混ぜるぐらいがシンプルで、かつ、おいしい。


「ふう、半分終わったぐらいか」


 丸見えだった1階も新しい床板で見えなくなりつつある。

 手前から張っていって、今は部屋の中頃まで終わったところ。

 ここから奥へは階段用に空いてる部分もあるし、もう少し早く終わるかも?


『今日のうちに屋根まで終わりそうですか?』


「うーん、壁板までかな。窓枠のところに時間かかると思うし、奥には勝手口をつけるつもりだし」


 で、明日はいよいよミオンの家にお邪魔する日。

 10時に駅前で待ち合わせて、お昼は俺が作ることになってるけど、夕食前には帰るつもりでいる。


「明日は本当に車の手配とかしなくていいの?」


『はい、大丈夫ですよ』


 駅から近いってわけでもないと思うんだよな。反対側は商店街とかになってるし。

 オートルート自動運転巡回バスとかで近くまで移動する感じ? 連休中だし、時間的にも混雑はしてないだろうけど


『明日が楽しみです。やっとショウ君の手料理を食べられます』


「ホントに俺の料理とかでいいの?」


『はい!』


 中華を一品だけ出すってのもアレだし、ミオンとミオンのお母さん、俺にセスの4人だから何品か作って好きにって感じかなあ。

 ここ数日でいろいろと思い出せたので大丈夫だと思いたい……


 ………

 ……

 …


『ショウ君、部長とセスちゃんがライブを見たいって』


「ん、おっけ。二人は終わった感じ?」


『はい。あとは夜に備えてだそうです』


 ってことはもう4時を回ったぐらいか?

 まずは勝手口をと思ってあーだこーだしてたら、いつの間にか時間が経ってたっぽい。


『兄上、順調のようだの!』


『それ全部一人でやったのね……』


 これくらいで呆れられても困るというか、開拓拠点で家を作ってた人たちだって、これぐらいのことはしてたと思うんだよな。


「まあ、順調かな。ミオンに教えてもらいましたけど、ノームを助けたって」


『うむうむ。開拓拠点の女子に大人気であったぞ』


『……ちょっと心配なぐらいにね』


 ああ、半ズボンはいてる少年が好きとかいうお姉さま方がいるんだ。


「お菓子をあげると『ノームの守護者』になれるんです?」


『お菓子というよりは信用されることのようだの。怪我を治したり、避難所の案内をしていたものらも褒賞を得たようだ』


「へー」


 それなら納得かな?

 でもまあ、一番簡単なのがお菓子をあげることだとすると、しばらくはノームにお菓子をあげる人たちが押し寄せそう。


『部長、レオナさんのところの話は聞きましたか?』


『ユキさんから概要だけはメッセージで来てたから知ってるけど。どういう感じだったか説明してもらっていいかしら?』


『はい』


 というわけで、実際に見てたミオンから説明。

 ライブのアーカイブというか追っかけ再生?でもいいんだろうけど、それはまあ後でゆっくり見るだろうし。


『ふむ。高圧的な態度で「助けて欲しくば頭を下げろ」はありえんのう』


『相手がレオナさんっていうのもね』


 とため息一つ。

 結果として、ボコられて「くそっ、覚えてろ!」的なオチだったそうだけど。


「師匠がいてくれて良かったって感じですよね」


『そうね。親衛隊も止めてくれてたんでしょうけど、ライブ中にああいう煽りをされた時は、間違いなくブチギレして叩きのめすわよ……』


 レオナ様のファンもそれがまた痛快で好きなんだよな。わかるけど。


『さすがジンベエ殿と言ったところかのう。いずれにしても、このイベントが終わったところで、少し対策を考えておかねばなるまい』


「なんだか誰かに命令されて来たとか言ってたんだっけ?」


『はい。そこの部分はよくわかりませんが』


 偉そうな奴らが命令されて来るってことは、もっと偉そうな人がいるってことだよな。

 めんどくさそう……


「ところで有翼人って初めてですよね?」


『ええ、そのはずよ。魔王国のNPCは共和国の東で見かけるそうだけど、翼を持った亜人の話は聞いたことがないわね』


『コメント欄もそんな感じでした』


 揉めるのはしょうがないとしても、その有翼人たちが攻めてくるとかなると厄介な気がするんだよな。何せ相手は飛べるんだし……


「うーん、他の国の開拓拠点とかどうなんだろ」


『ああ、そうね。向こうからコンタクトがあったかもしれないわ』


『帝国の北側、アンハイム領では巨人族と遭遇したそうです。公国の西側ではNPCのエルフと遭遇したみたいですね』


 ミオンがフォーラムで見た話だと巨人族は3m弱ぐらいの亜人だそうで、襲ってきたモンスターたちを撃退中に参戦。

 後方にいたオークリーダーを叩きのめして去っていったらしい。


『会話とかは無かったのかしら?』


『みたいですね。呼びかけたようですが「命令があったまでだ」とだけ答えて帰っていったそうです』


『ほほう。興味深いのう……』


 命令ねえ。有翼人も命令で来てたらしいし、なんかバックにすごいのがいるとかそういう?


『エルフは単純に里が襲撃されて逃げてきたみたいね。公国の開拓拠点に避難してるそうよ』


『古代遺跡の塔の近くにエルフの里があったということでしょうか?』


『地理的にはそうかしらね。内戦やら停戦やらのゴタゴタがなければ探せたのかもだけど……』


 南東部からは撤退しちゃったからなあ。

 それにしても不思議なのは……


「プレイヤーのエルフってその里から出てきたんですかね?」


『……エルフのキャラ設定は「退屈な里の生活に飽きて出てきた」ってなってるそうよ。その里なのかどうかはわからないけど』


 飽きたエルフの方が圧倒的に多い気がするんだよなあ……

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