第116話 上から目線を許さない

「ふう、これで後は床だけかな」


 ミオンがモンスターの襲撃の様子を話してくれるのを聞きながら作業すること小一時間。

 四方の壁板・木窓を剥がし終えて、残っているのは床と柱と梁だけ。玄関扉はもう外してあったし……


『ずいぶんすっきりですね』


「意外とシンプルな作りだったしね」


『次は床板を全部外すんですか?』


「うん。根太……っていう床板を支えるやつは替えたいかな」


 石造りの1階部分の天井は、この2階の床部分。

 しっかりとした床梁——外から見えてたやつ——が渡されていたので、それを替えるつもりはない。

 けど、根太はそんなに太くないし、これが折れたら、床板を新しくした意味がなくなるしなあ。


「ワフ!」


「お、ルピもフェアリーたちもおかえり」


『少し休憩しませんか?』


「そだね」


 剥がした壁板は全部、蔵に放り込んだ。

 一応、どこの何枚目の板だったかは印をつけてあるので、最悪元には戻せるはず。

 木工と細工のための彫刻刀作っといて正解だったな。


「〜〜〜♪」


「お、くれるの。さんきゅ」


 偉そうなフェアリーがくれたグリーンベリーをぱくっと一口。


「!! 酸っぱっ! 前に食べたのよりずっと酸っぱいんだけど!?」


「〜〜〜!」


 腹抱えて笑ってやがるし……

 あ、でも、その分、甘味も強いのか。


『ショウ君、大丈夫ですか?』


「平気平気。酸っぱい分、甘味も強いっぽいね」


 草むらにごろんと寝転ぶと、ルピがお腹を枕に寝そべってくる。

 フェアリーたちは……もう帰っちゃったか。

 ルピが付き添いしてくれれば、南西の森で自給自足できる感じなのかな?

 まあ、島民同士、仲良くやれればそれで十分。


『あ、部長たち、出発するみたいですよ』


「お、メンバーってどんな感じ?」


『部長とセスちゃんと、あと3パーティーでしょうか。合計で20人ぐらいですね』


「あれ? ナットいないの?」


『ナットさんは残って万一に備えるみたいな話をしてます。新人さんのフォローをするみたいですね』


 あー、あいつらしいな。

 体育会系のノリだけど、高圧的なのはなくて、後輩を大事にする感じ。

 中学の卒業式の時も、ずいぶんと後輩が挨拶に来てたからなあ……


『この前、鳥さんと一緒だった人がついていくみたいですね。襲撃がありそうなら、連絡を取れるようにということでしょうか』


「ああ、伝書鳩? いや、鳩じゃなくて隼だっけ。伝書隼……」


 ちょっと羨ましいというかかっこいいなと思ったけど、そもそも俺が何かを伝える相手なんていなかった。


『何も無くても2時間ぐらいで戻ってくるそうですよ』


「まあそっか。よくよく考えたら、俺の推測も根拠ゼロみたいなもんだしな」


『きっと何かいますよ』


「そう?」


『はい!』


 まあ、ベル部長もセスも「何かあるはず」みたいな感じだったし、女の勘ってやつなのかな……


 ………

 ……

 …


「ふう。これであとは床板だな……」


『でも、ずいぶん綺麗になりました』


「やっぱ、新品になるの気持ちいいよな」


 床梁は全く問題なかったので、根太を一本ずつ外しては入れ替えの作業。

 床板を外してる途中で大工スキルが5になって、諸々の作業がスピードアップした。


「ベル部長たちはどう?」


『まだ特に何かを見つけた感じでは無さそうで……あっ!』


「えっ、何?」


『小人さんがオークに襲われてます! 今、部長たちが助けに入りました!』


「おお……」


 とりあえず的外れなこと言ってなくて良かったってのと、モンスターに襲われてるのを見過ごすことにならなくて良かった。


『部長たち、オークをあっさり倒しちゃいました』


「まあ、そうだよな」


 俺はソロだし、ちょっとアレな手を使わせてもらったけど、20人もいりゃ余裕だろう。


『助けた小人さんはノームだそうです』


「背丈ってどれくらい?」


『腰より少し低いぐらいですね。小さくて可愛いです』


 土の精霊がノームなのかなと思ったけど、妖精の方なのか。

 じゃ、ウンディーネとかサラマンダーとかも妖精って分類?


『あ、やっぱり会話は通じないっぽいですね……』


「うちのフェアリーと同じか。IROのことだし、ひょっとして妖精語のスキルとかあるのかな?」


『そうですね。でも、精霊魔法のレベルが高くないとダメかもです』


 確かに精霊と妖精の関係性は大きい気がする。

 精霊が集まって個体化すると妖精? となると、フェアリーは何の精霊なんだろう?

 風の精霊あたりが一番……ってシルフが風の妖精にあたるから違うか。


「で、保護して帰る感じ?」


『まだ他に仲間がいるみたいで案内されてます。ショウ君の時と同じですね』


「やっぱりそういうクエスト的なものかな」


 あと気になるのは【○○の守護者】のタイミングぐらいかな。


『あ、レオナさんたちのところでも……』


「え?」


『背中に翼がある人たちが降りて来ました』


 え? え?

 背中に翼ってイカロス的な感じの?


『言葉が通じてるみたいですね。レオナさんと話してるみたいですが、その翼がある人たちの態度がすごく偉そうで……』


「うわ、それまずいんじゃ……」


 対人プレイで煽りとかされると、相手の心が折れるまで叩きのめす人だし。


『親衛隊の皆さんが必死で止めてます』


「だよなあ……」


 こういう時、セス美姫がいてくれると機転を利かせてうまく場を収めてくれるんだろうけど。


『あ、ジンベエさんが……』


「師匠が?」


『なんだか1vs1で勝負するような話になってますね』


「まともな大人がいて良かった……」


 レオナ様とその翼があるNPCが勝負する感じなのかな。

 強制負けイベントって線もありそうなんだけど……いや、1vs1なら勝てるかもか。


『はじまるみたいです』


「気になるけど、今からじゃ遅いよな」


『終わりました。レオナさんが勝ちました』


「はやっ!」


 瞬殺……って殺してはないよな?


「相手は無事なの?」


『はい。お互い練習用の木刀と木の槍でしたから。それでも、相手の人が腕を押さえてますね。ディマリアさんがヒールポーションをかけてます』


「なら良かったのかな。というか、妖精がいて助けるみたいな話と全然違うなあ」


 でも、他種族NPCとの接触っていう話なら、全部が全部友好的って話でもないか。

 他でも似たようなこと起きてるのかな……


『あの人たちは「有翼人」だそうです。どうやら誰かに防衛の手伝いを命令されて来たそうですが……。あ、帰っちゃいました』


 あらら、向こうの態度が悪いからしょうがないけど、ちょっと心配な展開……

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