火曜日

第115話 親は無くとも子は育つ

 火曜日。

 連休中ってことで、まったりと遅めで軽い朝食に。その後、美姫はさっさとIROへと行ってしまった。

 俺はというと、時間があるうちに家の隅々を掃除し、後は気になってた庭の草むしりを……

 IRO行ってもいいんだけど、ミオンに「続きは明日の午後から」って言っちゃったし。


「ふー、そろそろ昼飯の準備しないとかな」


 小一時間草むしりをして、ちょっとアレな感じだった庭もまあまあ見れる程度に。

 まめに面倒を見れるんなら、家庭菜園でもやってみたいところだけど、今はちょっとその余裕はない。

 そういや、IROで農耕スキルと園芸スキル取ったのに使えてないし、あっちで作るかな……


「ただいま、翔太!」


「え? 親父?」


 突然呼びかけられてびっくりしたけど、そこには一月ちょっとぶりの親父の顔が。


「おお、帰ってきたぞ。息子よ!」


「ああ、うん、おかえり」


「……もっとこう感動的な再会とかないのか?」


「いや、そんなずっと離れてたわけでもないし」


 俺のそっけない反応に不満そうな親父だが、高校生にもなって親の帰宅に感動する息子っていないと思う。

 それに何より……


「父上!」


「美姫!」


 ひしと抱き合う親娘。そっちの方が絵になるし。

 昼飯は3人分作った方がいい感じかな。


「とりあえず中に入れば?」


「うむうむ。父上とお昼を食べたいぞ!」


「あー、すまん。母さんが着たいと言ってるスーツがあるから、それを掘り出したら帰るよ」


「早すぎだろ……」


 とは言うものの、母さんをほったらかしにできないからなあ。

 多分、今ごろは部屋の中が荒れてるに違いない。というか、設計ができても片付けはできないんだな……


「つまらんのう。まあ、母上が心配でもあるしのう」


「というわけで、ちょっと探してくる。ああ、これはお土産だから、翔太に料理してもらえ」


 なんか袋いっぱいに詰め込まれてるのは、お土産で日持ちする食材か。

 ちらっと見えるのは昆布かな? IROも昆布見つけないとなんだよな……


 ………

 ……

 …


「美姫、できたぞ。運べ」


「心得た!」


 今日の昼飯はあんかけかた焼きそば。

 かた焼きそばは市販品だけど、かけてある中華あんはちゃんと作ったやつ。

 と、そこに目的のスーツを見つけたらしい親父が現れる。


「じゃ、父さん帰るぞ」


「帰るって、こっちが自宅だろ」


「父さんにとっては、母さんがいるところが家だからな!」


 そんな胸はって惚気られると反応に困るんだけど。


「そいや、真白姉も帰って来てないんだけど、母さんからなんか聞いてる?」


「いや、俺は何も聞いてないな。気が向いた時に帰ってくるんじゃないのか?」


「姉上のことは気にするだけ無駄だぞ、兄上。いただきます!」


 あっさりそう答えて、美味そうに食べ始める美姫。

 親父もそれを見て安心した感じ?


「こっちの家のことは翔太に任せるからな」


「あー、うん、了解」


「じゃ、また一月後ぐらいにな!」


 親は無くとも子は育つっていうけど、普通じゃないよなあ、これって。

 あ、ミオンのこと話せなかった。……まあ、いいか。


***


『お義父様もお忙しいんですね』


「あれはまあ、母さんに振り回されてるだけだけどね。いや、本人が満足してるから、振り回されてるってのもおかしいのかな?」


 ともかく、仲が悪いよりは良いよな。


『私は振り回したりしませんからね?』


「え? あ、うん。そんな風に思ったことないから大丈夫」


『はい!』


 むしろ、俺の方がいろいろと振り回してる感じがあるんだよな。

 もっとこう、じわじわまったりとスローライフなゲームプレイのはずだったのに……


「ワフッ!」


 盆地への階段を登り切る手前でいつものようにルピが駆け出す。

 昨日の夜は突発イベント? のせいで作業が進まなかったし、今日はきっちりと2階部分の解体まで終わらせたいところ。


 なだらかな斜面を降り、山小屋——屋根なし——に到着。隣の石造りの蔵も問題なさそうで一安心。


「ワフ」


「ん? ルピ、どした? って……」


 ルピの背中には昨日の妖精、もとい、フェアリー。その後ろには昨日助けた11人がふわふわしてる。


「えーっと、グリーンベリーは昨日渡したので全部なんだけど」


 結構あったと思うんだけど、もう全部食べちゃったのか?

 その小さい体のどこに入るんだよ……


『山小屋の前に採集に行きますか?』


「そうだなあ。まあ、別に焦らなくていいか」


 ついでだし、レクソンとかルディッシュも足しとくか。


「〜〜〜」


「ん?」


 なんかこう……なんだろ?


「ワフ」


 そう吠えたルピが古代遺跡への階段の方へと。

 ああ、自分たちで採集に行くからついて来なくて大丈夫ってことか?


「えーっと大丈夫か? グレイディアは襲って来ないからいいけど、ランジボアとかいるし……」


「ワフン」


「〜〜〜♪」


 任せろとドヤ顔するルピと心配するなって顔の偉そうなフェアリー。

 高位らしいんだよなあ。全然見えないけど……


「わかったわかった。じゃ、行っていいけど、気をつけてな。危なくなったら、洞窟出たところがセーフゾーンだからそこに逃げろよ?」


「ワフ」


 しっかりそう返事をして階段の方へと向かうルピとフェアリーたちを見送る。


『大丈夫でしょうか?』


「一応、オークを察知して逃げるぐらいのことはできてたわけだし、何かあったらルピが呼びにくると思うから」


 なんだかんだと都度見守るのもなんか違う気がする。

 俺がログインしてない間のこともあるし、ルピは賢いから大丈夫のはず。


『あ、お昼過ぎの襲撃が始まったみたいですよ』


 ミオンが見てるのはベル部長のライブ。

 いつもの公開ライブではなく、ミオン限定でライブを配信してもらってる。


「おお、セスの予想だとそれがラス前かな。さくっと撃退してから、有志を募るとか言ってたけど」


『敵がかなり多いですけど、こちらも人数が増えてるので対処できてますね。

 レオナさんの方も始まったみたいですけど……こちらも大丈夫そうです。あ、ポリーさんもいますね』


 レオナ様のライブは当然公開ライブ。

 それにしても、あのお堅いいいんちょが昼からゲームとは……ハマってるなあ。

 この前見た時は弓をばんばん当ててたけど、今回もそんな感じなのかな。


『すごいです。樹の精霊の魔法で、柵に棘がある植物が絡み付いてますね』


「えげつねぇ……」


 つるバラか何かかな? あれって棘あったよな。

 古い戦争映画か何かで、鉄柵に有刺鉄線が巻かれてるやつ見たことあるけど、あんな感じなのかな。

 敵が攻めて来るのがわかってたら、すごい有用な感じがする。


『ショウ君もこの前、樹の精霊石をもらいましたよね?』


「あ、そうだった。あの後にゴタゴタしてたから忘れちゃってた」


 というか、1つタスクを消化するたびに2つか3つぐらいタスクが増えるのなんで?

 インベントリにあったはずで……


「これだ。忘れないうちに樹の精霊と契約しとこう」


 この樹の精霊石は光の精霊石の隣にぶら下げとくことになるんだろうけど、精霊石が増えすぎて肩こりしそうな気がしてきた……

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