第112話 見知らぬ、戦場

 複合鎧を着込み、腰には手斧と麻痺ナイフ。マントを羽織り直す。

 コプティのヒールポーションはまだ作ってないのが悔やまれる。とりあえず笹ポ2個がインベにあるのを確認。

 ポーチ、ルピにあげちゃって作り直してないんだった。

 いろいろと準備が足りてないのが歯痒い。っていうか、いつでも戦えるようにしとけよ、俺!


「いいや、行こう!」


「ワフッ!」


 妖精がまたがると駆け出すルピ。それを必死で追いかける。

 森をそのまま突き進み、向かうのは最初に行ったあの小さな草むらだと思うんだけど……

 気配感知には何も引っかからない。気配遮断をする必要がないのか、ルピは俺がギリギリついてこれるぐらいの速度で走り続けるし。


「ワフ」


「え、何もいないんだけど?」


 到着した草むらは平和そのもの。

 ぽかぽか日差しが降り注いでて、あちこちに花が咲いてるのは前見た時と同じだし、モンスター……どこ?


「〜〜〜!」


「え? 何?」


 飛んできた妖精が俺の腕……じゃなくて、指を掴んで引っ張る。


『虫がいるとかでしょうか……』


「うへ、それやだなぁ」


 引っ張られるままに草むらを、花を踏まないように横切っていくと、連れてこられたのは奥に鎮座していた大樹の裏側。

 そこには、人一人が四つん這いで入れそうなぐらいの樹洞うろが……


「まさか……この中に入れって?」


「〜〜〜!」


 頭を大きく前後に振り、また指を掴んで俺を引っ張る妖精。

 さらには、


「ワフッ!」


「あー、うん、わかったよ。行くよ」


 ルピに急かされたら断れない。

 ゲーム的にはどこか別の場所に飛ばされるんだろうけど……戻ってこれるよな?


『ショウ君、気をつけてくださいね?』


「りょ。あ、もし部室に放送してるなら止めといて。もう嫌な予感しかしないから」


『はい』


 ………

 ……

 …


 四つん這いになり頭から入っていくと、どこかで一瞬ふわっとしたのちに、先に光が見える。出口っぽい。

 妖精が「急げ急げ」と言ってる風な身振り手振りをしてるんだけど、四つん這いでギリギリ通れてるぐらいの広さしかなくてキツい。

 これ、配信で見ると、相当みっともない格好してるんじゃ……


「ワフ!」


 後ろにいたはずのルピがするするっと俺の股下から胸の下を通って、妖精とともに光の先へと駆けて行く。そして、


「ヴヴゥ……」


「出たとこにモンスターいるのか!?」


 肘と膝を必死に動かして、なんとか光の外に転び出る。


「バゥッ!」


 吠える先には猪頭のモンスター。オーク。

 その目はルピを睨みつけながらも、右手に掴んだ妖精を口に……


「ちょっ!」


『ショウ君!』


 腰のナイフに手を伸ばし<ナイフ投げ>する。


「ギャッ!」


 胸にナイフが突き刺さり、同時に飛びかかったルピがその右手から妖精を解放する。

 麻痺毒がまわったのか硬直したオークを手斧でバッサリと。


【斧スキルのレベルが上がりました!】


 ふー、あっぶね。

 ゲームとはいえ、あの続きは絶対に見たくないし、間に合ってよかった。


「〜〜〜!」


 オークの手から逃げた妖精がこっちに飛んできて……もう一人の妖精と抱き合っている。

 あれ? さっき捕まってたのは、俺を呼びにきたやつじゃなくてってこと?


「ワフ」


「おっと、そうだな。解体しておくか。いや、その前に鑑定しとこう」


【オーク】

『二足歩行する猪のモンスター。筋力は人間のそれを上回るが、知能はゴブリンよりも低い』


 IROのオークは豚じゃなくて猪。で、解体すると、牙、皮、魔石(小)か。肉が取れないってことは、食べられないんだろうな。


 振り向くと、俺とルピが出てきたらしい大樹の樹洞うろが。あの草むらの大樹から、これにワープしたんだろうけど……いったいどこなんだ、ここ。


 普通のプレイヤーがワールドクエストでイベントやってるし、こっちは無人島専用のイベント? ってことは、この場所もインスタンス?


「よくわかんないけど、なんとか間に合ったってことでいいのかな?」


『みたいですね。良かったです』


 と、抱き合ってた妖精たちが目の前まで飛んでくる。

 ちゃんと見ると違うんだな。右側の偉そうな方がグリーンベリーを要求してた方、左側の大人しそうなのが助けた方なんだけど、


「〜〜〜!」


「え?」


 なんか、偉そうな方が左手を指してわめいてる。これって……


『まだ助けないといけない妖精さんがいるんじゃ?』


「ワフッ!」


「ちょっ、はよ言ってくれよ!」


 偉そうな方の妖精が再びルピにまたがり、大人しい方は……どうすりゃいいんだ? 置いてくわけにもいかないし。


「とりあえず、ここにいてくれ」


 首の後ろに垂れ下がっているフードを指さすと、どうやら理解してくれたのか、その中へとすっぽり収まってくれた。


「ワフ」


「よし、行こう」


 何やら妖精から聞いていたらしいルピが、今度は音を立てずにするすると移動し始める。

 これは気配遮断した方が良さそうな感じか……


 ………

 ……

 …


「おい、妖精見たとか本当だろうな? また防衛戦が始まろうって時に、街を離れてウロウロしてるのバレたら怒られるぞ?」


「本当だって! 捕まえてハルネちゃんとこに持ってけば、俺ら騎士団入り間違いなしだっての!」


【気配遮断スキルのレベルが上がりました!】


 ……インスタンスじゃなかった。

 ハルネちゃんってことは、新しく建国したっていうあたりだよな?


 ルピの後ろを早歩きすることしばし、獣道が見えるあたりで気配感知にかかったのが、今見えてる男性プレイヤー二人。

 片方は近接戦士型、小盾に長剣スタイル。もう一人は純魔っぽいローブに短杖を持っている。

 無用心っていうか、気配感知なんかは持ってないようで、こちらには全く気づいていない。

 見つかるわけにもいかないので茂みに伏せて隠れていると、どうやら他に妖精がいる場所を知ってるようだ。


 くるっと振り向いて俺に確認を求めてくるルピと妖精。

 俺は指を口の前に立てつつ、彼らの方に顔を向ける。

 納得してくれたのか、静かに尾行し始めるルピ。それをまた少し離れてついていく。


「お、あそこだ」


「おい。オーク3匹いるじゃねーか。大丈夫か?」


「あいつらも妖精捕まえようとしてるんだろ。お前の魔法で不意打ちして1匹倒せれば余裕だって」


 本人たちはこそこそ話してるつもりだけど、意外と聞こえるんだよな。

 まあ、その先に見えるオークたちは気づいてないみたいだけど。

 目的の妖精は岩の隙間に逃げ込んで籠城中か。あの二人がオークを倒して解放された瞬間にさらって逃げるが正解かな?

 ……悪役っぽいんだよな。まあ、いいけど。

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