第111話 まさかの襲撃!?

「へー、じゃあ、そのディマリアさんがたまたま見つけた感じなのか」


「うむ。開拓拠点にも公園の一つぐらいはあってよかろうとお任せしたのだが、思わぬ収穫よの」


 美姫が上機嫌でピーマンを頬張る。

 ニンジンは嫌いだけどピーマンはオッケー、というか好きらしい。苦いのは平気だけど、甘いのは嫌なんだとか。


「で、そのようなことを聞くということは、兄上も樹の精霊石を手に入れたということか?」


「あ……、まあ、うん。ちょっと特殊な経路で……」


 アホなのかな、俺。聞いたら当然バレるじゃん。相手は美姫なんだし。

 とはいえ、妖精さんがってのはちょっとまだ伏せておきたいところ。


「ふむ。今は話せる段階にないと?」


「ああ、ちょっと訳わからなすぎるからな。近いうちに皆には話すよ」


 モンスターじゃない、NPC他種族との接触も多分だけど『生存圏の拡大』にはつきものだと思う。っていうか、早く接触してくれ……


「まあ、よかろう」


 納得したのか中華スープ(インスタント)をずずーっとすする美姫。


「で、そっちは大丈夫そうなのか?」


「今日のところはまだ問題なかろう。初心者が最前線は厳しかろうが、中堅プレイヤーと組んで当たれば問題あるまい。不安要素があるとしたら数の問題よの」


「人数的には大丈夫そうなのか?」


「今のところはの。深夜組の話を聞いた限りでは、最後の襲撃は午前2時ごろ、今日最初の襲撃は9時ごろで、石壁が一部壊れたそうだ」


 うわ、マジか。

 いくら強いプレイヤーがいても、一人じゃどうにもならんってことかな。

 ……昨日のレオナ様はちょっと別枠なのかもだけど。


「じゃ、それ直してたって感じか?」


「我はその手の生産スキルは持っておらんからの。大盾を持つものたちに稽古をつけていた感じよの」


 美姫の話だと、スキルレベルが上の人の指導で上がるらしい。ってか、美姫自体がNPCに稽古つけてもらってたんだっけ。

 そういうところは後発組が苦労しないような作りってことなのかねぇ。


「ちなみに、ベル殿は石壁を作りまくっておったぞ」


「ぶっ!」


 いやまあ、それが一番役立つんだろうけどさ……


「ごちそうさまでした!」


「お粗末さま。次の襲撃がいつかとかわかってんの?」


「おそらく7時すぎであろうな」


「マジか。片しとくから先行ってこい」


「かたじけない!」


 夕飯は早めの6時スタートだったけど、気がつくともうあと15分で7時。

 俺はゆっくり片付けて8時ごろでいいか……


***


「ばわっす」


『ショウ君』


 部室で出迎えてくれたのはミオンだけ。

 セス美姫もベル部長もIROだろうし、ヤタ先生もずっといる訳じゃないか。昼に一定の成果(ベル部長の捕獲)があったし……


「そのライブは?」


『セスちゃんのです。さっきまで襲撃があって、今終わったところですよ』


「大丈夫だった?」


『はい。今は手当てや壁の修復中ですね』


 席について覗き込んだ先には、また石壁を作ってるベル部長が映る。

 あの事件のせいで、すっかり石壁キャラになっちゃってるな……


「戦闘はどういう感じだったの?」


『今回はオークがたくさん攻めてきてました。ゴブリンよりもかなり強いみたいでしたけど、みなさんちゃんと役割分担して倒してました』


「へー」


 その場になんとなく集まってる人たちだし、連携とか大丈夫なのかなって思ったけど、うまく行ってるようなら何より。


『ナットさんが頑張って仕切ってましたよ。NPCの人たちとも仲がいいみたいで、いろいろと調整役みたいなことしてました』


「あー……」


 あいつの場合の調整って「まあまあ、お互い仲良くやろうぜ」的なノリでなんとなく上手くやっちゃうからなあ。


「あ、いいんちょの方は大丈夫なのかな?」


『そっちも少し見てましたけど、ポリーさんは見かけませんでした』


 まあ、いいんちょならそうか。ずっとゲームしてる方が変だよな。

 とはいえ、アミエラ領の方はレオナ様と親衛隊の人たちがうまく指揮をとっていて、バックアップは『白銀の館』が無償でフォローしてるそうだ。

 多分、「損して得とれ」って感じなんだろうけど。


「じゃ、心配なさそうだし、俺も行こうかな」


『はい。いってらっしゃい』


「いってきます」


 ……慣れてきてるのどうなんだろ。


***


「ワフ」


「うん、これな。あと精霊石のお礼言っといて」


「ワフン」


 ドヤ顔のルピを撫でてから送り出す。

 樹の精霊石、とりあえずインベに放り込んであるけど、光の精霊石と同じようにペンダントか何かにした方がいいよな。


『いよいよ解体ですか?』


「うん、まずは屋根から。カナヅチと釘抜き持ってっと……」


 屋根に乗るのは簡単で、まず足場から蔵の屋根に乗り、そこから丈夫な板を渡して山小屋の上に乗り移るだけ。

 山小屋は2階建てだけど、蔵は山側で天井までも3mほどにしたから、渡した板もそんなに登り坂にはなってない。


『気をつけてくださいね?』


「りょ」


 とはいえ、落ちるのはシャレにならないので慎重に。ゲーム内の落下ダメって、どんな攻撃よりもダメージ出るよな。

 でも、この高さからどれくらいのダメージになるのかちょっと気になる。昨日、レオナ様が同じぐらいの高さの街壁から飛び降りて平気だったし……


 ………

 ……

 …


「よっと! これで最後っと」


 最後2枚の屋根板は釘だけ抜いて、室内から浮かせて外し終えたところ。

 室内から屋根を浮かせ、そのままズルズルと西側——蔵の反対側——へとずらして落とす。


『全部外れましたね』


「結構、時間かかったなー。おかげでっていうか、大工スキルが4になったけど」


 分解や修理もスキル経験値として加算されてくれるっぽい。どういう構造だったか把握できるもんな。


『その骨組みは残すんですか?』


「この垂木たるきも外すよ。軒桁のきげたも新しくしたいし」


 すごくシンプルな作りの片流れ屋根。山側の軒桁から海側の軒桁に垂木が渡してあって、そこに野地板のじいたを打ち付けてあるだけ。

 その野地板の上には樹皮を敷いて止めてあった感じで……それはもう使えないかな。薄い石壁を瓦代わりにしようと思う。


『あの、専門用語すぎてわからないです』


「はい……」


 そりゃ、通じないよな。


「ワフッ!!」


「ん? ルピ、どした?」


 外から聞こえてきたルピの声色がなんだかいつもと違う。

 慌てて部屋を出ると、一緒に来たのか妖精が目の前に飛んできて、


「〜〜〜!!」


 なんだかめちゃくちゃ慌てた様子で、腕をブンブン振りながら何かを訴えてるんだけど……どうすりゃいいんだ?


『何か緊急事態でしょうか?』


「だと思うんだけど……」


 と、ルピが蔵に置いてあった複合鎧を咥えて持ってくる。


「モンスターが出たのか!?」


「ワフッ!」


『急がないとです!』


「ちょっと待ってくれ。すぐ準備するから!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る