第113話 ゆずれない線

「<火球>!」


 ちょっ! 火球の余波が妖精に当たったらどうするんだよ!

 思わずそう叫びそうになってグッと堪える。


「ギャァァッ!」


 幸いにというか、一番近いオークに当たった火球が爆ぜ、毛皮に火がついて転げ回っている。

 あれが火傷状態ってやつなのか。俺がアーマーベアに火球ぶつけてもならなかったんだけど。


「オラァ!」


 戦士風の男が飛び出し、転げ回ってるオークに一撃を加える。

 レベル的に問題なさそうではあるけど、1匹倒したところで2vs1は大丈夫なのか?


「頼む!」


 火球が当たった1匹を倒した男がいったん距離を取って、魔法での遠距離攻撃を要求する。なるほど。


「<火球>!」


 新たに飛んで行った火球は右側のオークに命中。

 戦士が再度距離を詰めて、被弾したオークを倒し切る。

 この二人、結構しっかり戦えてるなと思ったんだけど……


【気配感知スキルのレベルが上がりました!】

【気配遮断スキルのレベルが上がりました!】


 あっ!


「フゴァッ!」


「ひっ!」


 魔術士の右手側から突進してきた別のオークが、手に持っていた槍で華奢な体を貫いた。

 俺が気配感知できる距離を考えると、そばに来るまで全く気づいてなかったか、急にあそこに湧いたか……どっちにしても完全に不意打ちクリティカル。

 ばったりと倒れた魔術士の男は、HP0になったっぽくて淡い光となって消えた。

 初めて見たんだけど、そういう感じになるんだ……


「どうした!?」


 魔術士の異変に気づいた戦士が振り向いて惨劇に気づく。

 槍持ちオークはゆっくりと戦士の方へ……あのオークなんか上位のやつなんじゃないのか?


『ショウ君、どうしますか?』


 両手の人差し指でバツを作ってカメラに映してもらう。

 悪いけど「妖精を捕まえて〜」のあたりで俺の中でアウト判定。

 仮に助けたとしても揉める可能性大だし、なんなら魔術士を見殺しにしたとか言いかねない。


『私も賛成です』


 その返事に少しほっとする。

『なんで助けないんですか!?』とか言われてたらホントどうしようかと。

 何より、俺はこのゲームをソロぼっちで楽しむと決めてるんだし、そこはゆずれない線なので。


「くっ……」


 背後を取られたくないからか、少しずつ横へ横へと動く戦士の男。


「フゴァァァ……」


 やっぱり槍持ちオークの方がちょっとでかいし、オークリーダーとかそういうやつ?

 鑑定できる範囲までいけないのがちょっともどかしい。


「ガアァ!」


 普通のオークの方が突貫し、手にしていた棍棒で殴りかかる。

 それを小盾で受け止めた戦士だが、反撃をする前に、でかいオークの槍を避けきれずに突き飛ばされた。胸当てが金属じゃなかったら致命傷だった気がする。


「くそっ!」


 起き上がった男は、ポーチから取り出したポーションらしきものをあおると、ゆっくりと後ずさっていく。

 逃走するタイミングを見計らってるっぽいのか? それなら……


 手元にあった石を軽く2回叩くと、ルピがそれに気づいて振り向いてくれる。

 こいこいと手招きして戻ってくれたので、その耳元でちょっとお願い事を。


 ルピの背中にまたがって一緒に聞いていた妖精が俺のフードに飛び移ると、ルピがするすると離れていった。


『ルピちゃんに何を?』


 ミオンの問いに答えたいけど、声を出すわけにはいかないので、ルピの向かった方を指さすだけに。

 そんな都合良く行くかどうか怪しいところなんだけど……


「フゴゥッ!」


「うおっ!?」


 2体のオークにいいように攻撃されて、じりじりと削られてる戦士の男。

 少しずつ少しずつ妖精が隠れてる場所から離れてくれてるのはありがたい。

 あとはルピが間に合うかどうか……


 ガサガサガサッ!


 急に茂みから音がして、フォレビットがオークたちの近くに飛び出す。

 オークたちがそれに気を取られた瞬間、戦士の男は背を向けて全速力で走り出した。


「フゴァ!」


「フゴフゴッ!」


 やっぱりフォレビットよりもプレイヤーか。

 2匹が慌てて男を追いかけいくのを見送る。うまく逃げ切ってくれるといいけど……

 視界から消え、気配感知からも消えたころ、ルピが戻ってきた。


「ルピ、お疲れ。お手柄だったよ」


「ワフ」


 一応、小声で。でも、しっかりと撫でてあげる。


「もう大丈夫だろうし、あそこに仲間がいたら説得してきて欲しいんだけど」


「〜〜〜♪」


 フードの妖精たちに伝えると、偉そうな方がサムズアップして飛んでいった。

 この場所が例の聖国からどれくらいの位置なのか全くわからないんだけど、あんまりもたもたしてるとまた誰かくるよな。

 ……あそこに落ちてる遺品とか回収したいだろうし。


「〜〜〜!」


「お、全員無事そう……」


 妖精が戻ってきたのはいいんだけど10人以上いるな。


『これからどうするんでしょう?』


「それだよな。で、どうすりゃいいの?」


 そう尋ねてみると、偉そうな妖精がまたルピにまたがった。

 まあ、もうついていくしかないんだけど、次はどこなんだろ?


 ………

 ……

 …


「え? 終わり? 帰れるの?」


「ワフ」


『帰れるみたいです?』


「多分……。てか、ここから帰れるのはいいんだけど、誰かがここ通って無人島に来ちゃうとか勘弁なんだけど」


 そんな話をしていると、偉そうな妖精が……あっかんべー? 違う? ああ、よく見ろ? って鑑定しろってことか?


【妖精の道】

『神樹の樹洞うろに作られることが多い。高位の妖精のみがその道を開くことができ、樹洞うろ同士を行き来することができる』


「なるほど……」


『これなら安心ですね』


「てか、高位の妖精なんだ?」


 その言葉にドヤ顔する偉そうな妖精……

 やっぱりどっかで見たことあるよ。てか、ニラ玉とか好きそう。


「ともかくさっさと帰ろう。で、ベル部長に報告しないと」


『話しちゃうんですか?』


「うん。その辺は島に帰ってから」


『あ、はい』


 まずは帰って一息つきたい……


 ………

 ……

 …


「はあ、ただいま!」


『お帰りなさい』


 やっぱ無人島が一番だよ……

 樹洞うろを出て、草むらにごろんと寝転ぶ。

 先に出てきてた妖精たちは、安心したのかお互い手を取り合って喜んでるっぽい?


「ワフ」


「ルピもありがとな」


 俺の腕を枕に満足げな表情のルピ。


「あ、そうだ。これ食べるなら適当に分けて」


 インベントリからグリーンベリーの備蓄を全部取り出すと、一斉に群がる妖精たち。

 果物が好きな感じ? パプの実はダメっぽいけど……あれも干し柿、じゃない、ドライパプにすればいいのか。


『えっと……全員で12人ですね』


「もう、グリーンベリーをこっちに植え替えた方が早い気がするなあ」


【フェアリーの守護者:3SPを獲得しました】

【島民が10人を突破:5SPを獲得しました】


「……え?」

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