第108話 いぶし銀と光る物
「最初だからだろうけど、かなり余裕だなあ」
『ですね』
ベル部長の火球がすごいなと思ったけど、割と他の魔術士もそれぐらいの火球は打てるみたいで、近づいてくるゴブリンは弓矢と元素魔法で削られていく。
『このターンは我の出番はなさそうだのう』
門の前にスタンバっている
あれをくぐり抜けてくる敵いるのか? って感じだもんな。
「……IRO戻ろうかな」
『そうですね。ショウ君の予想通り強くなっていくとしても、今日は大丈夫じゃないでしょうか?』
「だよな。あ、いいんちょとギルドの人たちが残ってるアミエラ領の方は大丈夫かな?」
多分、レオナ様が配信してると思うんだけど……
『レオナさんの配信、映しますね』
「さんきゅ」
映し出されたのは、前のベル部長のライブで見た石壁。
こっちの方がしっかり作られてるし、参加してる人数も圧倒的に多いかな。
『あ、ポリーさんですね』
レオナ様が注視してるのは、街壁の裏に建てられた足場に並ぶ弓を構えた人たち。
その中に銀髪ポニテのいいんちょの姿が映る。
「敵は同じかな?」
カメラ、街壁の向こう映さないかなあと思ってたら、レオナ様が一足飛びで足場に登り、いいんちょの隣に立つ。
そこから見えるのはゴブリンの集団なんだけど、もうすでに結構な数が近づく前に倒されている感じ。
『あ、ポリーさんが打ちますよ』
「おお、さすが! 一発で胸を撃ち抜いてるし」
とはいえ、こっちには魔術士が少ないっぽくて、矢の雨を抜けてきたゴブリンが近づいてくる。
『弓は後列を狙え! 近接部隊、行くぞ!』
親衛隊長の人——ダッズさんだっけ?——の大声が響くと、レオナ様が石壁をひょいと乗り越えて飛び降りる。
結構高いんだけど大丈夫なのかとか思う前にすんなりと着地し、そこからはじまる蹂躙劇……
「強すぎじゃない?」
『すごいですね……』
レベル差を考えたらそうなるだろうなとは思うものの、すれ違うだけでゴブリンがバタバタと倒れて行く。
「お、あれは師匠!」
『ジンベエさんですね!』
棍棒をしっかりと小盾で受け流してから、バッサリ倒していく安定した戦闘スタイル。
うーん、渋くてかっこいい。これは見習いたいところ……
「なんか、こっちも全然余裕っぽいね」
『ですね』
「……IRO戻るよ」
『はい』
この感じだと、本番は明後日の夜ぐらいだよな。
***
「うん、大丈夫そうだな」
ぐるっと囲った蔵の壁を押してみたりして、しっかり座っているかを確認。
渡し終わった梁にロープをかけてぶら下がってみたりしたけど、こちらも問題なさそうで一安心。
『いよいよ屋根ですね』
「ぱぱっとやって、今日はこっちでログアウトしたいかな」
『あの……、1日様子を見た方が良くないですか?』
……確かにそうかも。
寝てる時に石の屋根が落ちてきたら、次のログインはリスポーンして洞窟?
「うん、様子見に変更で。てか、雨降った後とかにどうなるのかも見ないと危ないよな」
『ですです』
大丈夫だとは思うけど、コンクリ埋め込んだ基礎があるような作りでもないし、地滑りとかしたら一発で砕けそう。
とはいえ、今から基礎を入れるわけにもいかないし、やっぱり物置として使うしかないか……
………
……
…
「完成!」
『お疲れ様です! すごくしっかりした蔵に見えますよ』
「さんきゅ。これでようやっと山小屋の方のリフォームに取り掛かれる」
ルピのマナエイド、あとマントでMP回復が劇的に向上したのがでかかったな。
これで連休中に山小屋リフォームって目標は余裕でクリアできそう。
蔵の正面に立って出来上がったそれを眺める。なかなかに感慨深い。
ゲームとはいえ、これを自分一人で作ったんだよなっていう達成感がじわじわと来て、思わずにやけてしまう。
「っと、中に入って確認しないとだな」
『壁と屋根の間に隙間があるのはわざとですか?』
「うん。窓がないから、完全に閉じちゃうと空気が澱むしね。あと、中に燻製部屋作ったときに煙を外に出せたりするし」
手前は道具置き場にして、奥に燻製部屋作るか。
ただ、木材を長いまま真っ直ぐ収納して置きたくもあるし、ちょっと間取りとか考えないとか……
『ショウ君?』
「ああ、ごめんごめん。ちょっと間取りとか考えてた」
見上げた天井からは漏れる光もなく、隙間はきっちりと埋めてある。
白粘土で張り合わせた上に、細長い石壁を貼り付けてあるので、雨漏りもしないはず。
「ワフ!」
「お、ルピおかえり。って……」
背中に乗ってるのは前に見た妖精。
ルピが俺の前でお座りしたところで、ふわ〜っと飛んできて肩に座る。
「〜〜〜♪」
「はいはい。グリーンベリーね」
昨日のライブ中に採集して在庫は増やしたのでいいんだけど、ログインするたびに5個ずつ取られてる気がする。
『言葉が通じないのが大変ですね』
「だよな。スキルに妖精語とかあるのかな? あっても大変そうだけど……」
『先生が解読してくれたりしないでしょうか?』
国語の先生ってそんなことまでできるの?
なんか、ヤタ先生ならできなくもなさそうだけど……
「〜〜〜?」
「ん?」
ペンダントとしてぶら下げてる光の精霊が宿った精霊石が気になる模様。
妖精と精霊ってやっぱり相性が良いとかそういうのなのかな?
「これは……」
もう一回、光の精霊が宿った精霊石を作るのは難しくないと思うけど、今のこれを手放すのは、なんというか……
「ごめん。これはあげられないから」
「〜〜〜」
が、首をブンブンと横に振る妖精。
『違うみたいですね。魔石か魔晶石が欲しいんでしょうか?』
「魔石か魔晶石か。コップに入れて洞窟に置きっぱに……あ!」
前に実験というか検証した時に、魔晶石になってた一つだけはインベに入れてたような……
「あった! これ?」
「〜〜〜!」
それを見てぐっとサムズアップしたかと思うと、
『あっ!』
両手にそれを抱えて飛んでいってしまった。
えーっと……盗られたってことかな? いや、あげるつもりだったし、別に良いんだけど。
「持ってって何するんだろ?」
『妖精さんなら、あのサイズでも十分MPを溜めておけるとかでしょうか?』
「ああ、そうか。でも、溜めて何に使うの?」
『そうですよね……』
なんかもう、単純に光るものが好きとかの方が納得する感じだけど……
それってカラスと変わんないよな。
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