第107話 それはありやなしや?
お手軽酢豚にザーサイを添えて。なお、パイナップルは美姫の希望により『あり』なのが我が家風。
「最初はなんでだよって思ったけど、意外とうまいよな。酢豚にパイナップル」
「うむ。程よい酸味がしつこくなった口内を爽やかにしてくれるしのう」
ミオンの家で中華を作らなきゃなので、しばらく中華の練習というか……思い出しつつ?
本格的に油で揚げたりはせず、ごま油で香ばしく焼くだけの方。ケチャップよりは黒酢派でもある。
「ごちそうさまでした!」
「お粗末さま。あとやっとくからIRO行ってこい」
「すまぬの、兄上。礼はいずれ精神的に」
ミオンち行くのに付き合ってくれるんで十分だよ。
あとナットと部長の面倒見といてくれ……
***
『ひょっとして練習してくれてるんですか?』
「え? ああ、今日の晩飯?」
『はい』
美姫のサエズッター、俺の飯しかあがってないわけじゃないよな?
「練習っていうか思い出してる感じかなあ。酢豚も久しぶりに作った気がするし」
中華って周期的にすごく食べたくなる時があって、それを過ぎるとそうでもないんだよな。
美姫も同じらしいから、これは日本人共通なのかもしれない……
「そいや、酢豚にパイナップル入ってて大丈夫?」
『はい、大丈夫ですよ。私も好きです』
「おけ。あとダメな食べ物とかあったら言っといてね。アレルギーとか」
そんな話をしつつ、屋根に梁を乗せる作業中。
二人いれば「せーの」で持ち上げて渡せるんだけど、一人なので片方に乗せてから、もう一方に渡す感じの作業。
大きな木2本から作った8本の梁を渡して、あとは石天井を被せるだけ。
魔法でその場で作れるから今日のうちには終わると思う。
『ショウ君、少し傾いてませんか?』
「あ、うん。斜面と同じ方向に少しだけ傾けてあるよ。雨降った時のためにね」
『わざとなんですね。すごいです!』
いや、えっと、そんなすごいことじゃないです……
ばっちり水平にしてもいいんだけど、凹凸があって屋根の上に水溜りができるよりは、片側に流した方が楽だと思っただけだし。
それはそれとして、雨どい作っておいた方がいいかもだよな。……仙人竹使えばあっさりできそうな気がしてきた。
「そいや、ベル部長たちは大丈夫そう?」
『はい。まだモンスターが来たりはしてないみたいですね』
ミオンにはスタジオで俺の配信を見つつ、たまにベル部長のライブも見てもらってる。
収録には映らない位置にスクリーンを置いて、そこに映してるらしい。
「じゃ、防衛の準備?」
『はい……石壁作ってますよ』
「ぶっ!」
あぶね。梁の木材落としかけた……
今からでも街壁は作るに越したことはないよな。
「セスとナットは?」
『セスちゃんは巡回ですね。ナットさんたちは足場と、間に合わなそうなところは木の柵を作ってる感じです』
「なるほど。大工取ってたの役に立ってるなあ」
壁があればセーフゾーンが広がる話もあったし、まずは備えてって感じなんだろうな。
さすがにモンスターの襲撃が24時間続くとは思えないけど、時間帯によってはプレイヤー数も減るだろう。
その時に街壁が役に立つことになるはず……
「よし、梁渡し終わった。今、9時前ぐらい?」
『ですね。今日終わりそうですか?』
「多分、10時までに終わるんじゃないかな。このマントのMP回復がやばいよ」
10秒でMP3回復。1分でMP18回復なので、今までの18倍。
2分ほどで石壁1つ分回復するので、置いて位置合わせして、白粘土塗ってってやってる間にほぼ回復しちゃうっていう……
『部長のローブよりもいいみたいですよ』
「マジで?」
『はい。部長のは30秒でMP8回復だそうです。アミエラ領が面している山で飼育しているヤギの毛だそうですよ』
ヤギっていうと……カシミア? なんか、天然カシミアってすっごくお高い気がするんだけど、IROだとそうでもないのかな?
って、そうじゃない。1分での回復は部長のが16で俺のが18だから、確かに俺の方が上か……
『あっ! モンスターが現れたようですよ!』
「何が出てきたの?」
『ゴブリンですけど……かなりの数がいますね』
最初のウェーブは雑魚を無策に突っ込ませるお約束な感じか。
新規さんも増え続けてるっていう話だし、そういう人たちの活躍の場かな?
それともう一つ、微妙に気になってたのが、
「やっぱりこの島はワールドクエスト関係ないっぽいね」
『みたいですね』
「良かったよ。この島でも防衛戦ってなったら、ミオンの家に行くのどうしようかと……」
最悪、その日は鍛冶場の部屋にルピとこもってやり過ごそうとか考えてたけど。
ともかく、ここが問題ないなら、まったり蔵造りの続き……
いや、部長のライブは10時までだし、ここでごろんと横になって、一時的に落ちるか。
「俺もライブ見たいし、しばらくログアウトするよ」
『あ、はい。じゃ、スタジオで待ってますね』
「うん。ルピ、いったん帰るけどごめんな」
「ワフン」
***
「ただいま。どう?」
『お帰りなさい。みなさん、余裕っぽい感じですね』
「あらら。いやまあ、最初はそんなもんか」
『そうなんですか?』
そっか。ミオンは見る専だし、タワーディフェンスやったことないのかな。
この手のは最初のウェーブは優しくて、段々と敵が増えたり強くなったり、特殊なのが出てきたり……要するに防衛が難しくなることを説明。
「なんでまあ、今日は運営側も様子見なんじゃない?」
『なるほどです。確かに今日はじまるって聞いて、すぐ来れない人もいますよね』
「ああ、それもあるか。プレイヤーにできるだけ遊んでもらうってなると、深夜から朝にかけてはあんまり来ないかもね」
それでも防壁のあるなしは大きい気がするな。
「そういえば、NPCはいる?」
『はい。冒険者というよりは狩人みたいな人たちですね。みなさん弓で戦うみたいです』
ああ、もともと狩りで生活してた人たちもいるよなあ。
そういうNPCならある程度は近づいてくるモンスターに攻撃してくれるだろうし。
『撃て!』
ナットのよく通る声が響き、壁の裏、足場の上に立っていたプレイヤーやNPCが一斉に矢を放つ。
「うわ、すげえ」
矢の雨が降り注ぎ、迫ってきた第一ウェーブの前列は総崩れ。後列が避けきれず衝突する。
『行くわよ!』
凛としたベル部長の声が響き、火球がまっすぐと飛んでいって爆ぜた。
「すげぇ……、俺がアーマーベアに打った火球と全然威力が違うんだけど?」
『まるで映画みたいな爆発でしたね……』
その一撃の威力にコメントが投げ銭で埋まる。
火球一発で10,000円稼ぐJK……
『偵察頼む』
『おう!』
ナットがフレにそう話しかけると、その肩に止まっていた隼っぽい鳥が飛び立った。
「あの鳥もテイムした相棒かな?」
『だと思います。ショウ君のおかげですね!』
「いや、まあ、うん。早めに広まって良かったよ……」
上空から偵察できるのはちょっと羨ましい。
ま、俺にはルピがいるからいいけどね。
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