土曜日

第102話 内緒事が増えていく

「じゃ、今日はマントを作るかな」


「ワフ」


 土曜。お昼を食べてからIROへイン。

 ミオンは習い事の日なので不在。宿題は一緒にやることにしてるし、今日は夜のライブの準備をしとかないと。

 ルピと一緒にご飯を食べ、さっそくマント作りと行きたいところだけど、


「どれを使おうかな。セスと同じグレイディアか、レッドアーマーベアを試すか……」


 サイズとして余裕があるのは、圧倒的にレッドアーマーベア。

 加工前だけど、俺がすっぽりと包まれるほどに大きい。逆にグレイディアはサイズ的にちょっと足りない感じ。


 セス美姫がシーズンさんに聞いた話だと、ゆったりと全身を覆う服(非金属)の方がMPの回復はいいらしい。

 身につけているものと体の間にあるスペースにマナを滞留させることで、より多くのMPが回復できるようになるんだとか。


「それって、厚着するほど良いってこと?」


「ただの厚着では体と衣服の間の空間がなかろう。中空の着ぐるみの方が良いらしいぞ」


 えー……

 実際に試してみた人がいたらしいが、思うほど良くはならないわりに動けなくて、「無いな」って話になったらしい。まあ、そうだよな……


「ルピ、どっちの方がいいと思う?」


「ワフン」


 ミオンがいないのでルピに聞いてみたら、たしっと前足をレッドアーマーベアの方に乗せる。で、


「ワフ」


 グレイディアの皮の上に丸くなるルピ。

 なるほど、そっちはルピの寝床にしたいからってことね。


 じゃ、レッドアーマーベアの方で作ってみるか……

 まずは甕にパプの実の果汁を搾って溜めていくんだけど、皮がでかいし結構大変。

 手持ちのパプの実をほとんど使い切って、やっとひたひたに。


「処理が終わるまでに、パプの実補充しとくか。ルピ、散歩行くか?」


「ワフッ!」


 ガバッと起き上がって、目をキラキラさせる。

 昨日は昼も夜も蔵作るのにかかりっきりだったし、今日はいっぱい遊んでやらないとだよな。


 ………

 ……

 …


 久しぶりに密林の方を散歩し、パプの実やら蔓やら、バイコビットやらサローンリザードやらも確保。

 ルピは満足したのか、戻ってきて早々にグレイディアの毛皮の上に丸くなる。

 あー、蔓かごとか竹かごを編んで、ルピのベッドにしてあげるって手があるな。でも、まだ成長途中っぽいので悩ましい。


 物干し竿(旧テントのフレーム)にレッドアーマーベアの皮を干し、乾くのを待つ間に他の未加工の皮を甕の中へ。

 二、三回は使えるので、手持ちの皮はできるだけ加工しておくことにする。


「乾き待ちの間は矢でも作るか……」


 乾いた革からマントを作り終えたら、西の森まで行って罠の設置かな。

 今日のライブはレッドアーマーベアを倒した時の状況説明って言ってたけど、それだけで1時間届くのかな?

 まあ、届かなかったら、そのまま海に潜って海藻探ししてもいいか。エビとかカニとかも……あとはウニとか貝とか?

 アサリかシジミの味噌汁とか作りたいけど、そもそも味噌がないんだった。


【細工スキルのレベルが上がりました!】


「お、ラッキー」


 やっぱり骨鏃は細工の方になるっぽい。

 これで細工も5になったし、生産系のスキルはかなり充実してきた気がする。


「さて、どうかな」


【赤鎧熊の革】

『赤黒く強靭な革。レッドアーマーベアの堅い鎧だった部分は鉄と同程度の強度がありつつもしなやかで軽い。

 裁縫:衣服、防具の材料』


 マジか……

 これでマントとか贅沢な気がするけど、革鎧は作ったばっかりだし、ゲーム続けてれば、まだまだ良い素材が出てくるよな。


 というわけで、裁断の前に軽く羽織ってみて、どういう感じにするかをチェック。

 あの鎧みたいな皮膚の部分とそうでない部分を確認し、おおよそのあたりをつけて骨製の目打ちで印をつけていく。

 両手両足の部分が余っちゃうし、これでブーツとフード作るか……


 ………

 ……

 …


「よし、こんなもんかな?」


 赤鎧熊の革と格闘すること小一時間。まずはマントが完成した。


【裁縫スキルのレベルが上がりました!】


「よしよし、裁縫スキルも順調に上がってきたな。で、出来はどうかな?」


【赤鎧熊の良質なフード付きマント】

『レッドアーマーベアの革から作られたフード付きマント。しなやかさと強靭さを持つ良品。

 防御力+23。MP回復10秒ごとに+3。気配遮断スキル+2』


「はあ!?」


 これ……ぶっ壊れ装備じゃない?

 防御力が今の複合鎧とほぼ同じ。MP回復は分に直すと18。そこまではまあ良い。十分壊れ性能な気もするけど、多分、ベル部長とかもそれくらい良いの持ってるはず。

 けど、気配遮断スキル+2っておかしいでしょ……


「ワフ?」


「ああ、ルピ、ごめん」


 どうしたの? って小首を傾げる仕草が可愛くて、思わず撫で回してしまう。

 うんうん、落ち着け俺。まだ慌てる時間じゃない……


 とりあえず身につけてみよう。

 全身をすっぽりと覆い、かつ、動きを阻害することもなし。

 そして、


「思ってたよりずっと軽い……。これで防御力+23は反則じゃないか?」


 MP回復は後で試すとして、問題はスキルレベルが上がるやつ。

 ステータス画面を見てみると『気配遮断:7』と書かれている。


「やべえ……」


 いや、待て。スキルレベルのMAXって10とかいう話だったよな? 補正入って10超えたらどうなるんだ?

 うーん、ともかく……


「ミオン、このマントの話、カットしといて」


 配信カメラに向かってそう告げておく。

 多分、まだそんな装備は出てないはずだし、こんなのが表沙汰になったらレッドアーマーベア争奪戦が始まるに違いない。

 ちょっといろいろと悪目立ちしすぎてる気がするし、これは誰か別の人が気付いてから公表することにしよう。


「あ、あと、今から作るブーツも」


 両足の革からブーツを作るつもりなんだけど、果たしてどうなることやら……


 ………

 ……

 …


【裁縫スキルのレベルが上がりました!】


 また上がった。

 これって素材が特殊だから、スキル経験値が多くもらえてるとかそういう?


【赤鎧熊の良質なブーツ】

『レッドアーマーベアの革から作られたブーツ。しなやかさと柔軟性を持つ良品。

 防御力+8。気配遮断+1』


 こっちもかよ!

 ブーツはいちいち履き直すのめんどくさいし、鑑定結果を見せなきゃ大丈夫だよな。


 ブーツを履き替えてステータスウィンドウを開く。

 マントは羽織ってないので、スキル一覧には『気配遮断:6』の表示。この状態でマントを羽織ると……『気配遮断:8』に変わる。


 ……ここまでくると10にしたくなってくるんだよな。

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