第101話 知らないせいで損してた

「ふう、今日はここまでかな」


『お疲れ様です』


 蔵の石壁を腰の高さぐらいまで積み終えたところで終了。

 その間にもう一本、材木を調達したりと、なかなか忙しくてあっという間に時間が過ぎる。


「ワフ」


「ルピ、今日もありがとな」


 途中で一度、ルピの<マナエイド>でMPを分けてもらったので、予定よりも進んだ感じ。

 頑張れば、明日明後日で壁は終わって、明々後日しあさってには屋根を乗せて完成なんだけど、明日はライブの準備もあるし、蔵作りはお預けのつもり。

 切り出した材木はとりあえず転がしておく。足場組むのに使うし、もう一本ぐらい用意しないとだよな。


「よし、帰ろうか」


「ワフン」


 ルピと二人、出入り口へと向かおうとすると、


【ワールドクエストが更新されました】


「『え?』」


 慌ててワールドクエストを開いてみると、


【ワールドクエスト:生存圏の拡大・維持】

『第一皇子ジグムントに反旗を翻した第二皇子バークレストは、パルテーム領を首都としたパルテーム公国を宣言した。

 グラント川を挟んで睨み合っていた両国は、戦いの長期化による国力の疲弊を懸念し、暫定的な停戦について協議を始めるのであった。

 果たして停戦となるのか? 停戦にて難民たちが帰国した場合、新たな街は維持できるのか?

 目的:新たな街の開発と維持。達成状況:57%』


 うわ、マジか……

 まあ、この島には全然関係ないことだけど、ベル部長やセス、ギルド『白銀の館』としてはどうなんだろう。


『ショウ君、部室に戻りませんか?』


「あ、うん」


 セスに例の噂が本当なのかどうか確認してもらってたはずだけど、その結果ってまだ聞いてないよな。


「ルピ、走るぞ」


「ワフッ!」


***


「ふう、ただいま」


『お帰りなさい』


 で、部室を見回すと、


「待っておったぞ、兄上!」


「じゃ、始めましょうか」


 ベル部長とセスが待ち構えていた。

 相談しないといけないことがあるって感じなのかな。とはいえ、俺ができることは少ないと思うけど。


「セスちゃん、二人の皇子の仲が険悪という噂の真相を教えてもらえるかしら?」


 俺が席についたところで、気になっていた件から話が始まる。


「うむ。結論から言うと、その『仲が悪い』という噂は噂でしかなく、何一つ証拠を得られなんだそうだ」


「じゃ、本当は仲が良いって可能性は?」


 その問いに対しては首を横に振る。だが、


「不思議なのは、二人が同じ場所で顔を合わすようなことが、ここ10年で一度もなかったという点よの。

 それゆえ『顔を合わせるのも嫌』というような噂話が広がったとも考えられるとのことだ」


 ふーむ、いまいちはっきりしないのか。

 やっぱり、ちょっと深読みしすぎなのかなあ。更新されたワールドクエストのフレーバーも普通に停戦協議に入ったとかだっけ。


「当面は王国や共和国の方に何かってことはなさそうかしら?」


「それが一つ気がかりなことがあるのだ。王国と帝国の間には、現在10年の不戦協定が結ばれておる。だが、その協定は公国には適用されぬであろう……」


「おい、それって……」


「うむ。公国が王国を攻めるという可能性があるのだ」


 うへ、めんどくせえ……


『でも、王国を攻めるにも戦力が足りない気がするんですけど』


「いえ、攻め込める場所が一つあるわ。それも公国からそう遠くない場所に……」


 公国って帝国の南側にあった場所だよな?

 そこから遠くない場所っていうと……あ……


『部長やセスちゃんが行った塔のあたりですか!?』


「うむ。南東部の開拓地は塔の手前で、さらに公国に近い位置になる。開拓自体は進んでおるようだが、防衛力という意味では心許ないというのが正直なところよの」


「それ、大丈夫なのか?」


 プレイヤーキャラがNPCにやられるとか、たまったもんじゃないよな。

 自分たちから挑んだならまだしも、攻めてこられて蹂躙されるとか……


「子爵殿には話しておいたし、かの御仁もそれを危惧しておった。どういう結論になるかはわからぬが、王都に待避するよう指示が出るであろう」


『間に合うんでしょうか……』


「公国からあのあたりまでは、どんなに急いでも3、4日かかると思うわ。ちゃんとログインしていれば、逃げ遅れるということはないと思うのだけれど」


 ああ、なんらか用事でログインできてなくて、久々にログインしたら所属変わってたとかビックリだろうな。


「いずれにしても、今、我らができることはあるまい。停戦に至れば、難民も帝国や公国に戻るかもしれぬ。そうなれば開拓地の維持に専念せざるをえまい」


「日曜のライブで塔に行こうと思ってたのは無しにするしかないわね」


『あの古代遺跡の塔に行くつもりだったんですか?』


「ええ、たまには戦闘しているところも見せないと」


「ふむ、余っている物資を売りに行くつもりであったが、別方面を検討した方が良さそうよのう」


 へえ、いろいろと考えてるんだなあ。

 あ、そうだ!


「話は変わるんですけど、ベル部長はMP回復ポーションって使ってます?」


「MP回復ポーション!? まさか作れたの?」


「いやいや、そんなの作れたら報告してますって。MPの回復待ちがキツいから、何かそういうのがあるのかなって思ったんですけど……」


 純魔ビルドだし、俺なんかよりずっと最大MPは多いんだろうけど、それでも足りなくなるはず。特に長丁場になってくると。


「そういうことね。結論だけ言うと、今のところMP回復ポーションはないわ。

 ただ、MPの回復を早める装備はあるわよ。私が着ているローブがそうね。あとは魔晶石にマナを溜めておいたりというのが一般的かしら」


『装備で変わるんですか?』


「ええ、装備の中にはMP回復を早める効果もあるのよ。何もなしなら1分で1回復のところを10回復にしてくれたりね。魔晶石は簡単に言うと外部バッテリーよ。MPのね」


 装備でのMP回復増加は、1分ごとに10回復とか、10秒1回復とか、間隔と回復量がバリエーションとしてあるらしい。

 魔晶石は意図してMPを移すか、回復で溢れたMPを溜めておけ、好きな時に予備MPとして使えるんだとか。


「魔晶石はレッドアーマーベアのがあったと思うけど、装備の回復増加は羨ましい……」


「兄上は自分で作れば良いではないか。裁縫のスキルは持っておったであろう」


「あ、そうだった……」


 てか、取ってるスキルも多いし、積まれてるタスクも多すぎなんだよな……


「我が今身につけておるマントは、シーズン殿にあつらえてもらったものだぞ。グレイディアの皮から作られた逸品よ」


 シーズンって……


『ギルドの小さいお姉さんですよ』


 あ、はい。

 ミオンの方を見た瞬間に答えが返ってきた。


「で、それってどれくらい回復量上がるんだ?」


「30秒で3回復よの。タンクはヘイトコントロールにアーツを使うゆえ、MPは常に一定量はキープしておかねばの」


 ってことは、1分で6回復だから今の俺の6倍! 5分も休めば石壁レンガ1個作れるじゃん!

 明日は俺もマント作ろ……

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