第100話 ハードルが上がっていく

 石床を敷き終わったところで昼の部は終了。

 午後5時前、いったんバーチャル部室に戻ったら、ベル部長が宿題をやらされていたので、そっとしておくことに。


 夕飯作って、食べて、洗い物して、またログインしたのは午後8時ちょうど。

 珍しいというか、俺と美姫セスしかいない。


「ふむ、珍しいのう。ベル殿は昼に痛い目を見ておったのでわからんでもないが、ミオン殿がおらぬとはな」


「だよな。まあ、ちょっと待つか」


 そういえばと、昼にヤタ先生が話していた、土木スキルに前提知識が必要なのかもという話を。


「なるほど、その線も有力よの。昼のゲームで調べてみたのだが、今の民間の技術では高い建物は建てられんそうだ。アミエラ子爵の屋敷も2階建てだったしのう」


「え? じゃ、王国の城とかも古代遺跡……っていうか昔からあったやつ?」


「うむ」


 一応、3階建てぐらいまでは作れるらしいが、それ以上はないらしい。地下施設や深いトンネルはさらに珍しく、鉱石はダンジョン内が主流なんだとか。

 どこかのタイミングでロストテクノロジーになっちゃったってことだよな……


『お待たせしました』


「ミオン、お疲れ様」


「ふむ、その件は我ももう少し調べるとしよう」


 セス美姫が立ち上がり、IROへと旅立っていく。

 んじゃ、俺たちもかな。


『ショウ君、その前にあの……作って欲しい料理なんですけど、母から中華料理が食べたいって』


「え? ミオンのお母さんにも振る舞うの?」


『ダメ、ですか?』


「いや、別にいいんだけど、なんかすごく料理がうまいとかいう話になってそうで不安っていうか……」


 ミオンがどういう説明したのか気になるけど、俺は『ちょっと料理できる程度の高校生』でしかないわけで。


『大丈夫ですよ。IROやりましょう』


「あ、うん。じゃ、行ってきます」


『はい。行ってらっしゃい』


***


「さて、壁を作りつつ、屋根の準備をしないとだよな」


 ルピとご飯を済ませて、さっそく山小屋、の隣の蔵の建築に取り掛かる。


『ショウ君、石造りの屋根ってどうするんですか? 長い石を渡すんじゃないんですよね?』


「ああ、簡単に説明すると、壁を作ってからその上にしっかりした木の梁を何本か渡して、その上に石畳を置く感じかな」


 イメージしづらいかなと思って、山小屋の横手に回る。


「ほら。ここで梁を渡してあるでしょ」


 1階の天井、兼、2階の床を支える梁が5本。壁の一番上にある凹んだ部分から見えている。

 サイズ的には丸太一本分ぐらいかな? 多分、蔵の梁もこのぐらいで大丈夫だと思う。


『なるほどです。石造りって全部石じゃないんですね』


「アーチを組んで本当に石だけでかまぼこ屋根なのもあるけどね」


 幸いなことに、その手の本はうちには山ほどある。


『まずは壁からですか?』


「うん。石壁を低いところから積んでいくよ」


 山小屋の石壁一個の大きさを参考に、ロープに沿うように長方形の石壁を作る。

 魔法なおかげで隙間は出来づらいんだけど、側面にちゃんと白粘土を薄く塗って、また隣に石壁を……


 ………

 ……

 …


「ふう、休憩」


 1段目、両横と奥を囲ったところで一休み。

 キャラレベ上がって、ステータスに回したことで、MPは結構あるんだけど、それでも半分以上は使っちゃったか。


『正面は無しですか?』


「うん。山小屋の方が終わるまでは、出し入れしやすいようにね」


『なるほどです。それでも長丁場になりそうですね』


「まあ、しょうがないかな。欲張って大きめに作っちゃったし」


 ただ、MP回復待ちの間にやれることがある。

 まずは木を切って、足場を組めるような準備をしないと。


「ワフ」


「ルピ、おかえり。今日も?」


「ワフン」


 昨日からずっと首にぶら下げてるポーチにグリーンベリーを5粒。

 多分、例の妖精のところに遊びにいくんだろう。


『ルピちゃんが何をしてるのか気になります』


「だね。まあ、怪我したりはしてないし、楽しそうにしてるから」


 ルピを見送りつつ腰を上げ、さっそく伐採に。

 大きな木を切るのは初めてなので、ちょっと緊張する。


「んー、これかな」


 少し歩けば森なのはありがたい。

 手頃な太さの木を見つけ、伐採スキルを意識して両手斧を構える。


『気をつけてくださいね』


「りょ」


 えーっと、スキルアシストさん的には今の立ち位置だと、こことここを切るとあっちに倒れるらしいから、もうちょっと立ち位置を左に……

 よし、で、周りを確認。人はいないけど、ルピとか妖精がいたら危ないし。


「せーのっ!」


 カツーン! カツーン! カツーン!

 ……


「おおっ!」


 格闘すること10分弱。

 綺麗に向こう側へと倒れていく木に思わず感動してしまう。

 リアルだったら30分、いやもっと格闘してただろうなあ……


【伐採スキルのレベルが上がりました!】


 お、ラッキー。

 これで5だし、これからたくさん切らないとなんでちょうど良かった。


『やりましたね!』


「うん。こっからも大変そうだけどね」


 枝を払って、樹皮を剥いでとやることは多い。

 ただまあ、そのための道具は揃ってるし、地道にやってくしかないよな。


 ………

 ……

 …


「はあ、やっと一本できたけど、ホント大変だな、これ……」


『すごく綺麗にできてますよ』


 あれやこれやと一本の真っ直ぐな材木にするのにさらに30分強。

 それでも十分短いんだろうけど。ゲームだからそれで済んでるんだよな。


「ベル部長のとことかどうしてるんだろ?」


『NPCさんがやってくれるんじゃないでしょうか?』


「ああ、そりゃそうか……」


 切り倒してあとはよろしくってやればいいんだろうな。

 でもまあ、この作業で大工のスキルレベルも上がったし、よしとしておこう。

 まだ2なのはしょうがないけど、山小屋の改築を始める前に5になってて欲しいところ。


『その木材は屋根に使うんですか?』


「あ、ううん。これはまず足場作るため。壁が高くなってきた時用かな」


『なるほどです』


 おっと、そろそろ2段目を積める分のMPが回復したかな。

 もうちょっと早くMP回復してくれるといいんだけど。


「そういえば、MP回復ポーションって見たことないよな」


『私も聞いたことないです』


 ベル部長とか知ってたりするのかな。

 純魔なんてMP切れたら置物だし、持ってそうな気はするんだけど。


「フルダイブでポーションがぶ飲みしながらは、なんか胃がつらそう」


『そうなんですか?』


「飯食べるとちゃんと満腹感あるし、ポーションでもあるんじゃないかな」


 お腹たぷたぷで走り回ったらリバースしそうで、なんかもう別の状態異常って気がするな……

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