第96話 お約束のアレ

「はあ……。兄上はまったくもってわかっておらんのう。ミオン殿と兄上のチャンネルなのだぞ? 我がアイデアを出せるわけがなかろう」


 そんな風に呆れられ、結局、ノーアイデアのままバーチャル部室へ。


「ばわっす」


『ショウ君』


 部室にいるのはミオンだけ。

 今日は木曜で魔女ベルの館のライブ日だし、配信前の待機中かな?


「ベル部長とセス美姫はもう?」


『はい』


 今日はどういうライブなんだろ。

 セスもってことは、例の北西にある鉱床ダンジョンにでも行くんだろうか。


「ちょっと最初見ていい?」


『はい。私も見たいです』


 ということでライブ視聴開始。

 まだ予定地状態で「もうすぐ開演!」って画像が貼られてる。っと始まった。


『いえーい! 魔女ベルのIRO実況はっじまっるよー!』


 さすがに慣れたと言いたいところだけど、アレがベル部長、香取先輩なのか……


『さて、今日はちょっと趣向を変えて、現在の王国北西、古代遺跡の手前にある開拓拠点を紹介していくわ。ゴルドお姉様はリアルお仕事ということで、今日はセスちゃんと二人でね』


『よろしくの!』


 なんか、セスが登場してコメント欄が盛り上がってるんだけど、兄として非常に不安というか複雑な気持ちに……


『さて、今のワールドクエストの達成率は43%。白銀の館設立以来、毎日5%上昇してる感じね』


『とはいえ、ここも含め、アミエラ領の開拓はだいぶ進んでおるしの。あとは他の場所の頑張りによるであろうな』


 二人して歩いて行くと、開拓村というよりはもう町になりつつある風景が映り始める。


「すげぇ。もう町っぽいんだけど」


『ですね。この前はまだ寝泊まりができないって話でしたし……』


 ナットが大工始めたって言ってたし、あいつが建てた家もあるんだろうな。

 二人はそのまま大通りになってる道をぶらぶらと歩きながら、「ここは宿屋」「こっちは雑貨屋」という感じで紹介していく。


『お二人さん! このナッツ炒ったの持っておいき!』


 恰幅のいいNPCのおばちゃんからカシューナッツ? みたいなのを炒ったものをもらって二人で食べつつ、また歩いてはおやつをもらいっていう……


「散歩ライブ、ゲームしてない人でも楽しめそうだなあ」


『あのナッツも美味しそうです』


 無人島では出来なさそうな企画なのがちょっと悔しい。

 それにしてもNPC増えたなあ。全員が難民だった人ってわけでもなさそうだし、開拓するって聞いて来た人も多いんだろうか。

 前に話してた『プレイヤーのせいで仕事が無くなったNPCたち』の受け皿になってるといいんだけど……


『おお、新しい壁が見えてきたのう』


『結構な高さになってきてるわね』


 二人の視線の先に見えてきたのは、高さ3mほどの石造りの壁。


「すげぇ……」


『これ、石壁の魔法で作ったんでしょうか?』


「多分? 採石場みたいなのはなさそうだし……」


 作業風景が映されるんだけど、木で組まれた足場に登って、その上に指定された大きさの石壁を積んでいってるっぽい。なるほどなあ。


「石を切り出したり運んだりがないから、出来上がるのも早いんだろうなあ」


『なるほどです』


 そんな話をしてると、


『おーい、そこのお嬢ちゃん! あんた石壁の魔法得意そうだな! 1個大銅貨5枚で頼むよ!』


『え、ええ、やりますよ』


 そのやりとりの隣で爆笑してるセス。あいつも石壁事件知ってるんだな。そして石壁事件まみれになるコメント欄。

 ホント、訓練された人たちだよ……


***


「よし、行くか」


「ワフ」


 今日の予定は例の泉の調査。

 前回は森の奥の方へと続いてるのを確認しただけなので、今回はぐるっと一周の予定。

 どこかに流れ出てて、一周はできないかもだけど。


『モンスターがいそうな雰囲気はありますか?』


「うーん、そんな感じはしないかなあ。ルピはどう?」


「ワフ」


 首を振ってから、先へ行こうと歩き出したので、しっかりと気配感知を意識しつつ後ろをついていく。

 ただ、ルピの足取りは軽く、特に警戒もしてないっぽい。頭上高くからは、鳥の鳴き声が聞こえてきて平和そのもの……


『モンスターはいなさそうですね』


「っぽい。昔、あの山小屋に誰か住んでたんだとしたら、そんなに危ない場所でもないってことでいいのかな」


『なるほどです』


 南東側の洞窟の奥、古代遺跡の扉は閉まってたし、南西側の洞窟の出口はセーフゾーン。南側からモンスターがここに来ることはなかったはず。

 この盆地にスポーンポイントがない限りは、モンスターはいないと見て良さそうかな。


 気を楽にして泉のほとりを歩いていくと、やがて泉は北西の端、崖の隙間へと流れ出しているのが見えた。


「なるほど。湧いた水はあそこから溢れ出てるのか」


『海に流れ出てるんでしょうか?』


「多分? 向こう側で川になってそうな気はするなあ」


 あそこから出れば、さらに北側に行ける可能性もありそうだけど、ちょっと怖い。

 滝になってたりしたら、戻る方法がリスポーンぐらいしかないし……


『戻って反対側を見ますか?』


「うん。そのまま森の中を歩いてみるよ」


 ほとりを逆回りに歩いて行くんだけど、特に気になるような物も場所もなく、さっきの反対側に出ただけ。


「うーん、何もないのもそれはそれで微妙……」


『ですね。何かありそうな気はしたんですけど』


 ちょっと拍子抜け感は否めない。

 この場所はあの山小屋がメインで、あとはおまけなのかな。


「ワフ」


「ん?」


 ルピが何かに気づいたっぽい? 森の奥の方に顔を向け、その何かを探っている風。

 気配感知には……何か小さいものが近づいてくる?

 腰に手を回して手斧を手繰る。飛んでくるモンスター、鳥とか虫とかを考えると、やっぱり小盾欲しいな。


「ワフッ!」


「あっ! 」


 飛んできた何かに向けてジャンプしたルピが、カプッとそれを咥えて着地する。


「〜〜〜!!」


「え?」


 ルピも本気で咥えてるわけではないのか、両手両足をじたばたさせてもがいているのは……


『妖精さん!?』


「だね。ルピ、可哀想だから離してやって」


 ポップしたネームプレートには【フェアリー】と書かれていて枠の色は白。

 ルピと最初に会った時と同じだけど分類としては「不明」もしくは「その他」らしい。


「〜〜〜! 〜〜〜!!」


 離された妖精が俺の顔の前まで来て、何だか怒ってるっぽい?

 言葉がまったくわからないのと、妖精だけに背丈が30cmほどしかないせいで圧がない。

 とはいえ、まあご機嫌を損ねたというなら、何かお詫びはしたほうがいいんだろう。

 うーん……あっ!


「これ、食べる?」


 俺がインベから取り出したのはグリーンベリーの実だった。

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