第97話 気になるけれど後回し
俺が手のひらに出したグリーンベリーを奪い取った妖精は、それにおもむろにかぶりついて、
「〜〜〜!!」
酸っぱさに盛大に顔を顰め、後からくる甘みに頬を緩める。
ちょっとした意地悪のつもりだったけど、まあいいか。
「〜〜〜」
食べ終わってどこかへ行くかと思ったら、目の前を行ったり来たり……
「え、何?」
『もっと欲しいとかじゃないですか?』
「あー」
インベからもう一つグリーンベリー……パプの実を取り出して手のひらに乗せるが、
「〜〜〜!!」
両手で大きくばってんを作って目の前に掲げる妖精。
パプの実が渋いの知ってるのか。しょうがない。
「〜〜〜♪」
改めて取り出したグリーンベリーを奪うと、俺の肩に乗ってそれを頬張る妖精。
この自由さというかわがまま具合、身近に見た記憶があるんだよな。うん……
「えーっと……どうしよう?」
『とりあえず妖精さんが来た方を捜索してみるのはどうですか?』
「ああ、そっか。住んでる場所があるはずだよな」
「ワフ」
ルピがこっちと先導する後を追うんだけど、この妖精、肩に乗せたままで大丈夫なのか?
チラッと見るとほっぺたをグーでぐりぐりされた……
『……』
「ん?」
『いえ、なんでも』
なんの変哲もない森、島の南東と似た森を進むと、その先に小さく開けた花畑があり、その真ん中には周りとは明らかに違う大きな木が。
「〜〜〜♪」
俺の肩がふっと軽くなったと思ったら、妖精はすいーっと飛んでいって、木の裏側へと消えた。
「あれが家なのかな?」
『だと思います』
なんというか謎すぎて反応に困る。
クエスト? ストーリー? それともただのフレーバーイベント?
あの木はなんか違う感じなので、じっくりと鑑定したい気がするんだけど、そうなると花を踏んで近づかないとなので躊躇われる。
「まあ、放置でいいか」
『ショウ君、このことはしばらく内緒にしませんか?』
「ん? ミオンがそうしたいならいいけど……なんで?」
『レッドアーマーベアの話もちゃんとできてませんし、今また新しい発見が出てしまうといろいろと……』
「あー、確かに……」
無人島が特殊だとは思うけど、ちょっといろいろありすぎなんだよな。
まだ一ヶ月経ってないと思うんだけど、ルピ、古代遺跡、エリアボスと来て、廃屋の山小屋もあるし、さらに妖精……
「もうちょっと具体的な進展があるまでは、ベル部長にも伏せようか」
『いいんですか?』
「今も動画見せるくらいしかできないし、もうちょっと何か起きたら話す方がいいんじゃない?」
『確かにそうですね』
山小屋を改築してホッと一息ついたところで「で、あの妖精って何?」ぐらいでも十分だよな。
「ワフ」
「あ、ごめん。続きにしようか」
『はい』
そのまま崖沿いに南西へ進み、さらに南東まで森を歩く。
グレイディアやランジボアといった大きいやつの姿はなし。
バイコビットやフォレビットといった小さいのも見かけないし、樹上から鳥の囀りが聞こえるだけ。
レクソン、キトプクサ、ルディッシュといった野菜や、コプティは見かけたし、植生は普通っぽい?
「構造的にここだけ隔離されてて、鳥ぐらいしかいないのかな?」
『そういう感じですよね』
そのまま出入り口の階段まで戻ってきてしまった。
つまり、ここの森は特に何もなし。いや、綺麗な泉と妖精がいたんだけど。
「よし。山小屋のとこに行こうか」
「ワフン」
『さっそく改築ですか?』
「あ、ううん、ちょっとどういう感じで進めるか説明するよ。ミオンがおかしいと思ったり、不思議に思ったら質問してくれる?」
『はい!』
山小屋の入り口から少し離れたところまで戻り、改めてその周りを確認。
両隣は雑草が生い茂ってるけど、これは草刈りすれば綺麗になるはず。
「えーっと、まずは山小屋の右隣、東側に蔵を作るつもり」
『え? あ、はい。理由を聞いても?』
「上の階にあるものをいったん退避するためかな。改築の資材とかも濡れて欲しくないものを保管しとくため」
丸太一本をどーんと収納できるサイズは辛いけど、連休中の天気がいい間に一気に片付けてしまいたいところ。
『その蔵は木造ですか?』
「ううん、石造りかな。ベル部長たちが街を石壁で囲ってたけど、ああいう感じで積んでいくつもり」
ただ積むだけだと地震でずれてって恐れがあるので、陶工で使う白粘土を挟んでいく。
前に『白銀の館』のミーティングで師匠と話した時、白粘土は石灰成分が混じっていてモルタルがわりにもなると教えてもらった。
さっきのライブでもそれを見れたし間違いないと思う。
『その後に解体ですか?』
「うん。屋根板を外していって、次に壁、最後に床だけど、床を外すと1階が丸見えになるかもだし、そこで雨が降るとやばいから、外して新しいのをすぐつけるつもり」
途中で雨が降っても屋根板を渡しておけば、なんとか最悪は防げると思う。
『なるほどです。天気がいい日が続くといいですね』
「なんだよなあ。そうそう、あの石壁に囲まれた1階に水が入ったらどうなるのかを確認しとかないと」
万一を考えて、1階に水漏れした時は排水ってどうなのかは、チェックしておくに越したことはない。
光の精霊に明かりをお願いし、仮で閉じてた玄関を開ける。
相変わらず埃がひどいけど、どうせ解体した時に一掃するから放置でいいよな。
……倉庫に退避しようと思ってた机も椅子もベッドだった物も解体しちゃっていいか。
「ワフ」
「ん、行こうか」
床は相変わらずギシギシ言うので、やっぱり張り替えだよなあ。
急な石階段を降りて照らされる1階。高級キャビネット、魔導具のチェストボックス、転移魔法陣はもちろん前のまま。
『キャビネットなんかをいったん外に出すんでしょうか?』
「んー、床を外したところで雨が降りそうなら、かな? それでも、新しい床を貼る方が早いかもなんだよな」
『本が濡れるのが怖いですね。チェストボックスの方に本を移しておくのはどうですか?』
「あ、そうか。こっちのが安全だよな。せっかくだし、どういう本があるか確認しながら移すか」
『はい』
こういう時、ゲームでインベがあるから本当に楽だよな。一冊ずつ表紙を確認しつつインベに放り込んでいくだけ。
お、これってベル部長が言ってた『基礎魔法学』の本? ううう、中を確認したいけど、改築と引っ越しが終わるまでは我慢……
『なんだか、元素魔法と図鑑、地学なんかの本が多いですね』
「やっぱりここが火山島だからとかかな。噴火するかもって調査してたんなら、ちょっとおっかないんだけど……」
せっかく改築した後に噴火して……とかなったら泣く……
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