第95話 名前を入力してください

『ショウ君は何かいい案ありませんか?』


「いや、俺はネーミングセンスゼロだし……」


 ヤタ先生から二人で考えろって言われたのは、ミオンのチャンネルの名前。

 今はデフォルトの『ミオンのチャンネル』のままなんだけど、例の鉄の楯を送るにあたって「チャンネル名がデフォルトのままですけどいいんですか?」って話が来たそうで。

 チャンネル名がその鉄の楯に彫り込まれるらしいけど、そりゃ「デフォのままでいいの?」ってなるよなあ。


『じゃ、「ショウとミオンの無人島日記」とかどうですか?』


「……。IROが終わったりすると困らない?」


『そうでした』


 とりあえず恥ずかしい名前は勘弁して欲しい。けど、ミオンが嬉しそうに言うから反論もしづらい……助けて。


<「ミオンのショウ君観察日記」とかどうでしょー?>


「俺はカブトムシか何かすか……」


 ヤタ先生、完全に遊んでるってか、茶化しに来てるな。

 部活の残り時間、チャンネル名を考えつつIROってことでログインし、


「ごちそうさま」


「ワフン」


 ゲーム内でのご飯を終えたところ。

 今日のご飯はキトプクサとグレイディア肉の煮込み。ルディッシュおろしにグリーンベリーをぎゅっと絞った薬味で。


「時間ってあと1時間弱?」


『はい』


「じゃ、切った木を使いやすいようにしとくか。ルピは遊びに行ってていいぞ」


「ワフ」


 そう伝えると、密林の方へと駆け出した。昨日、木を切り倒したことでできた道を通っていくあたり賢い。

 でも、山小屋に引っ越すことになったら、こっちの道の話は保留だよな。


 ………

 ……

 …


【素材加工スキルがレベルアップしました!】


「お? こっちなんだ」


『おめでとうございます』


「さんきゅ」


 伐採した木を薪にしやすいよう玉切りだっけ? そんな綺麗にはいかないけど、適度な長さに揃えてただけなんだよな。

 こうしておけば洞窟の中に置いとけるし、何か木工で作るときにも、ちょうどいいやつを見繕えたりしそうだし。


『山小屋の建て替えには使わないんですか?』


「うん。こっちの木は大体歪んでるしね。あっちにあった木は真っ直ぐのやつが多かったし、何より近いから」


 インベントリにもサイズってものがあるから、少なくとも自分よりでかいものは放り込めない。この広場に持ってくるのも、ロープで縛って引っ張ってきたわけだけど、STRなかったら詰んでたかもなあ。


<スキルレベルはいくつになりましたー?>


『素材加工のスキルは今7ですよね?』


「うん。8になるには苦労するらしいから、当面は7だろうなあ」


 ベル部長が、基礎魔法学のスキルを取ったおかげで、元素魔法のスキルがレベル8になったみたいな話もあるし、きっかけが必要そうなんだよな。


『ショウ君、特に意識せずにスキルレベル上がりそうな気がしますけど』


「もともと、のんびりするために必要な分あればいいと思ってるしね」


 無理に上げようって言う気はない。けど、「なんで上がらないんだろ?」ってなるとモヤモヤするのも確か。

 特に生産系スキルは「もっと良い物ができるんじゃ?」ってなると、やっぱり上げたくなるんだよな。


「ワフ!」


「ルピ、おかえり。おお! パーピジョン2羽! えらいぞ〜!」


「ワフ〜」


 ひとしきりルピを撫でた後にさっそく解体。肉、骨、羽をゲット。

 あ、そうだ。


「ルピ、おやつがわりに焼き鳥食べよう!」


「ワフッ!」


『焼き鳥ですか?』


「うん」


 ミオンが驚いてるけど、普通にぶつ切りにして、串通して焼くだけだし。

 ささっと切り分けて串に通して……キトプクサを挟んでネギマもどきも作ってみよう。

 あとは塩を振ってじっくり焼くだけ。焼きが均一になるように時々裏返したり。


「おお、いい感じに脂乗ってるなあ」


『美味しそうです……』


<先日のライブもそうでしたがー、飯テロすぎますねー。先生も帰りに焼き鳥買って帰りましょうかー>


 申し訳ないけど、これは俺とルピ専用なので。

 タレが作れればいいんだけど醤油がなあ……。昆布はありそうだし、鰹もまあ海の魚を釣れるようになれば可能性はありそうなだけに。


「よし、そろそろいいかな。ルピ、火傷するなよ?」


 ランチプレートに串から抜いたもも肉とキトプクサを取り分けてあげる。

 鼻先を近づけて温度を確認してるのか、しばらくしてパクりと一口。次の瞬間からガツガツと。ちゃんとキトプクサも食べてる。えらい。


「さて、塩だけでどうかな……」


 パクッと一口……


「うまっ!」


『……』


<……>


 なんかため息のようなものが聞こえてきた気がするけどスルーしとこ。


***


「お疲れっす」


『お疲れさまです。お帰りなさい』


「うん、ただいま」


 リアルビューの部室に戻ってくると、ヤタ先生は焼き鳥のレシピ……ではなく美味しいお店を検索中。

 ベル部長はまだIROかな? と思ったら、すっと目が開いてちょうど戻ってきたらしい。


「ふう、ショウ君、お手柄よ」


「え? 何です?」


「かごの話をしてたけど、ディマリアさんが出来るそうよ」


 ディマリアさんって誰だっけ? ってミオンを見ると、


『園芸とかしてたお姉さんですよ』


「あー、はいはい。確かに知ってそう」


 なんでも趣味でそう言うことをしてるそうで、ベル部長が話して「そういえば」みたいな話になったらしい。


『蔓はロープの方にも使いますよね?』


「ええ。でも、今はショウ君のおかげで素材加工スキルブームだし、ロープの編み方も広まってきてるから」


 そりゃそうか。

 動画やライブで丁寧に説明したつもりはないけど、俺以外にもロープの作り方ぐらい知ってる人いるよな。

 現地で作れるようになれば当然その方が安くなるわけだし、ロープバブルは終了してるらしい。もちろん、アミエラ領では必要分作ってるそうだけど。


「でも、かごってそんな需要あります?」


「農作業用にいいんじゃないかって話よ。作物の収穫もそうだけど、採集に使えたり、あとは干す加工品のために使えるんじゃないかって」


「ああ、なるほど。かご編めば、一夜干しとか作れそうな気がするな……」


 IROの世界にアジとかあるのか知らないけど、干しチャガタケとか、ドライパプとか作れそうな気がする。

 あれ? ドライパプは干し柿だとしたら、今あるロープで作れるのでは?


「はいはいー、そろそろ終わりにしましょー。それとー、チャンネル名を変えるなら、連休明けまでにという話ですのでー」


 あ、そうだった。

 もう美姫セスにでもアイデア貰おうかな……

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