木曜日

第94話 てつのたて

「ナットが持ってる大剣って攻撃力いくつ?」


「ん? あれは+62だな。良品だぜ」


「おお、やっぱでけえな」


 連休前日の学校。

 思い出して聞いてみたら、やっぱり俺が作った両手斧よりも20近くでかい。


「ショウは新しい武器でも作ってんのか?」


「武器のつもりじゃなかったんだけどさ。伐採用に両手斧を作ったら+43だったんだよ」


「なかなかいいじゃん。それちゃんと両手持ちの戦斧だったら俺のを超えるかもな」


 ふーむ、木こり用と戦闘用で違うのか。

 まあ、あれに関しては伐採用と割り切って使う方がいいよな。


「まあ、戦闘には片手斧の方を使うし、それと小盾ってあるよな?」


「あるっちゃあるが、あんま見かけねえな」


「え、なんで?」


「盾持つってんなら、大盾持ってタンクやるって話になるんだよな」


 ナットの話だと、どうせ盾を持つならガッツリ受けれる大盾が今の流行りらしい。で、それを流行させた原因が美姫セスだっていう。


「マジかよ……」


「小さいキャラが大きな武器とか盾とか使ってるのってかっこいいしな」


「それはわかるけど」


 まあ、タンク不足が解消されるならいいのか。運営の手のひらの上って気がしなくもない。


「で、ショウはなんで小盾なんだ?」


「大盾はタンク専用ってか、パーティー組むこと前提だろ。それに盾を手に持つタイプだと左手が塞がるから弓が使いづらいんだよ」


「ああ、じゃ腕に装着するタイプか。いいんじゃね? お前がそれやれば弓使ってる連中が真似するかもよ?」


 真似って言われてもなあ。

 弓使いが近接まですることはないだろうし、いいんちょみたいなエルフなら、乱戦が始まったら精霊魔法で援護がメインかな。

 俺の場合は弓で遠距離戦して、そのあと接近されたら片手斧と小盾って想定。そんなスタイルの人は確かにいないか……


「ま、やってみるしかないか」


「おう。次のライブで見せてくれよ」


「無茶言うな」


 ***


「今日は動画投稿する日だっけ?」


『はい。これがアップする予定の動画です』


 ってことで、ミオンが渡してくれた動画をチェック。

 今回は鍛治と裁縫の話。この前のライブで作ったもの全部出してみた時も思ったけど、いろいろ作りすぎだな、俺……


「お疲れさま。やっと連休ね」


「ちわっす」


『こんにちは』


 ニコニコ顔のベル部長。

 さっそくVRHMDをかぶり、俺が見た投稿予定の動画をチェック。


「それにしてもマメねえ。普通はこんなにいろいろ作ったりしないわよ?」


「必要なもの作ってるだけなんですけど」


「いいんじゃないかしら。これで前回のライブ前までってところよね?」


『はい』


「そろそろ新しいネタ、何かないかしら?」


 新しいネタって……あの後は大したことしてないと思うけど。

 いや、エリアボス倒したんだっけか。それは報告したし、短編動画も上げたし。

 あとは例の廃屋? あ……


『部長はこれ知ってますか?』


 ミオンが取り出した動画に映るのは例の転移魔法陣。


「……使ってみたの?」


「いえ。行き先わかんないの怖いんで」


『あと、これは昨日ですけど』


 別の動画を取り出して再生されたのはルピがグレイディアを仕留めるシーン。

 そして、ルピがアーツを習得する瞬間が流れる。


「……この子、一体なんなの?」


「俺が聞きたいんですけど」


『他のテイムされた動物はアーツはないんでしょうか?』


 ミオンの問いに首を横に振るベル部長。


「もちろんアーツを取得した相棒はいるわ。でも、この<マナエイド>も<ハウリング>も初めて聞くし、そもそも一気に3つも獲得してるって……」


 動物にもよるんだろうけど、犬とか狼なら普通は<急所攻撃>だけらしい。


『あとはこれです』


 まだなんかあったっけ? って思ったら、川魚取るためのかご罠だった。

 これは知ってれば誰でも作れると思うんだけどな。


「器用なものねえ。ショウ君はいつこれを覚えたの?」


「んー、小学生の時ですかね。その時から親が不在がちだったんで、夏休みとかは親父の実家のど田舎で過ごしてて、そこで祖父母に教わった感じすね」


 あの頃は平和だったな。真白姉もばあちゃんには勝てなかったし……

 ナットとナットの妹も一緒に遊びに来たり、楽しかった思い出しかない。


「たまにこういう竹なんかで編んだかごを見たりするけど、ああいうのってこっちでも作れるってことよね?」


「あ、そうですね。てか、それがあれば、もうちょっと部屋の中が片付くな。木箱とは別に作るか」


 ばあちゃんが押し入れにそんな感じので服を収納してた記憶がある。確か『つづら』とか『こおり』とか言ってた気がするな……

 中に入れるものによるけど、あんまり目を詰めて編まなくてもいいだろうし、細工か木工でスキルアシストありそうだし。


『見てみたいです!』


「うん。いったん、やることリスト行きかな。他にもやらないといけないことたくさんあるし」


 そんな話をしていると、ちょっとお疲れな感じのヤタ先生が入ってきた。


「はー、やっと連休ですねー」


 持っていた教材?を机に置いて、ゲーミングチェアに深く腰掛ける。VRHMDを被る気力もない感じ。


『先生、ちょっと見て欲しいんですけど』


「はいはいー、どれですかー?」


 ん? 俺やベル部長には話せない何か? いや、別にいいんだけど。

 それを見たヤタ先生がVRHMDを被って「あー」みたいな顔になる。で、ベル部長が「あんたが聞きなさい」みたいな視線をですね。


「えーっと、一体何が?」


「チャンネル登録者数が10万人を突破するとー、鉄の楯がもらえるんですよー」


「ああ、あれですね」


 と納得してるベル部長だけど、鉄の盾ってゲーム内でどうやってもらうんだ?

 ちょうど盾作ろうかなって思ってるときにもらえるのは、それはそれで微妙な感じがするんだけど。


「ショウ君は勘違いしてるようですがー、鉄の楯っていうのは『コンクール優勝』みたいな置くやつですよー?」


「……。ああ!」


 考えが完全にIROの方に行っちゃってた……


 へー、ああいうの送られてくるんだ。

 10万人超えたのはもっと前だった気がするけど、今日が月の平日最終日だからかな?

 ちなみに今のミオンのチャンネルの登録者数は17万人ほど。公式のプロモ動画に俺とルピが映ったときに爆上がりしたけど、それ以降はゆるゆる増加してる感じ。


「来年は美姫セスちゃんが入ってくれるし電脳部も安泰ね」


『あの、それはいいんですが、こっちを……』


「あー、はいー、そうでしたねー。そこは当事者のお二人で考えてくださいー」


 そう言ってにこやかに微笑むヤタ先生。当事者の二人って、俺とミオンだよな。

 いったい、何を考えないとなんだろ……

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