第93話 まずは道具を作るところから

「ふう、危ないところだった……」


 外はあいにくの雨。

 仕掛けたかご罠が増水して流される前に急いで回収。

 フラワートラウトが3匹取れたのはいいんだけど……


「やっぱ石窯は中にないと不便だな」


『あの山小屋を改築するときに、中に置くんですか?』


「んー、中だと狭くなりそうだし、西側に土間でも作って、そこにかな?」


 水回りのことも考えないと。

 排水は泉に流せば良さそうだけど、あんまり汚いまま流すのも気が引ける。排水溝を作って下水処理とかするべきなのかな……


『あの……「どま」ってなんですか?』


「あれ、知らない? いや、普通は知らないか」


 俺もじいちゃん家がそうだったから知ってたけど、もうそんな家ってほとんどないよな。

 簡単に言うと、屋内だけど床が地面のままとか石畳とかにしてある場所、でいいのかな。

 じいちゃん家は玄関から裏口まで土間が通ってて、その途中に内玄関? がある間取りだった。ちょっと面白くて好きなんだよな。


『そうなんですね。見てみたいです』


「まあ、ここで作るのは土間っていうよりは、屋根がついた庭の方が正しいかも」


 あの山小屋には山肌を吹き下ろす風が常に来てるので、火を扱う石窯なんかは風下側に。

 屋根のためにも材木が必要だし、まずは太い木を切れる斧を作らないとだな。


「ワフ」


「ああ、ごめん。今日は凝った料理は無理だからミンチ肉な」


 兎肉のミンチにレクソンを添えて。

 ルピのご飯を眺めつつ、今日の予定は変更しないと。

 山小屋のあるあたりを見てまわろうと思ってたけど、物作りに専念するしかないか。


『雨ですが、山小屋見に行きます?』


「いや、先に大きな斧を作るよ。今の片手斧じゃ辛いし」


『なるほどです』


 両手斧を作るには、ちょっと鉄インゴットが足りない気がするな。

 久々に採掘もがっつりやって、備蓄作っておくかな。


「よし、今日はカンカンするから、ルピは好きにしていいぞ」


「ワフン」


 じゃ、ガッツリ生産活動に勤しむとしますか……


 ………

 ……

 …


 採掘して精錬して、採掘して精錬して、採掘して鍛治やって……


【良質な両手斧】

『両手持ちの大きな斧。良品。攻撃力+43。

 斧:両手持ち武器。伐採:大きな木も切り倒せる』


「おお、いいやつできた。てか、攻撃力すごいな!」


『おめでとうございます!』


「やっぱ、鍛治やら木工やら細工やらが上がると、出来も違って来るんだな」


 ナットが持ってる、あの両手持ちの大剣ってどれくらいの攻撃力なんだろ。明日、聞いてみるか。


『戦闘もそれでやるんですか?』


「うーん、正直迷ってるんだよな。一人だから、どうしてもタゲは俺に来るし、両手武器は受けができないからなあ」


 この前のアーマーベアとの戦いでも回避専念だったせいで、いまいち間合いに踏み込めなかった。

 パーティー組めて、セス美姫みたいなメイン盾がいてくれれば良いんだけど、そういうわけにもいかないし。


「やっぱり、盾のスキル取るか……」


『セスちゃんみたいな大きな盾を作るんですか?』


「いや、腕につける盾。小盾とか円盾って言われるやつかな。セスの大盾は受け止める盾だけど、そっちは弾くとか逸らす盾だね」


 片手斧に小盾って装備なら、まあまあ接近戦もできる気がしてきた。

 裏側にナイフを収納しておくとかできるかな? ちょっと作ってみたくなってきたな……


『重かったりしませんか?』


「あー、どうだろ。そいや、セスの装備って明らかに重そうなんだけど、あいつなんで平気なんだ?」


『そうですね。やっぱりSTRが高いんでしょうか?』


「そっか。メイン盾だし、ステータスはVITとSTRよりにするよな。ま、あのサイズの盾を作るつもりはないし、木で作って鉄で補強する感じかな?」


 なんか丸太の輪切りに鉄で縁をつければいい気がしてきた。


「ワフッ!」


「ルピ。ひょっとして雨止んだ?」


「ワフン」


 止んだっぽいし、散歩にでも行くかな。

 というか、作った両手斧を試したいところだよな。


「ちょっと散歩ついでに、この斧の試し切り? してみるよ」


『いいですね。そろそろ海岸までの道も作りますか?』


「あ……忘れてた」


 山小屋を改築して引っ越すとして、あそこから海岸までって、どっちのルートの方が近いかな?

 いや、西側の森はフォレビットとかグレイディア取れるし、あそこは道は作らずに狩場のままの方がいいか。


「うん、やっぱあっちに道作ろう。大きな木を切ったあと、どれくらいで復活するのかも知りたいし」


『なるほどです』


「じゃ、行くぞー」


「ワフッ」


 ………

 ……

 …


【斧スキルのレベルが上がりました!】

【伐採スキルのレベルが上がりました!】


「ふぅ……」


『おめでとうございます。今日はいろいろ上がりますね』


「さんきゅ。結構、切り倒した気がしたけど、まだまだだなあ……」


 先は未だ密林のまま。振り返ると洞窟前の広場に続く道。

 パプの木はもったいないので、鑑定しても大したことのない木を伐採。結果、道がうねうねと蛇行してるけど、これはこれでって感じかな。


「あ、そろそろいい時間?」


『あと20分で11時です』


「マジか。切った木はとりあえず広場に運んでおくかな」


 木工でいろいろするための材料としては十分すぎる量なんだけど、やっぱりいったん乾燥させた方がいいんだろうな、これ。

 一本ずつ広場に運んで西側の斜面の際に積んでおく。雨降ったあとだし、明日の部活の時にでも後処理するか。晴れてるといいけど。


「そういや、土曜のライブ何するかってミオンはもう考えてる?」


『はい。あの熊との戦闘で何が起きたかを実況見分みたいな感じはどうですか?』


「おお、面白そう。何が起きてどうなってって順番に説明する感じでいいの?」


『です。西側の森はあまり紹介してませんでしたし、それも含めていいんじゃないでしょうか』


 動画でアップしてあるのも、ルピを助けたあたりと、前にアーマーベアに追っかけられたぐらいだっけ。


「おっけおっけ。じゃ、あのセーフゾーンの草原から始めようか」


『罠がロープになったのも伝えたいので、準備お願いしますね』


「りょ。うまく何か掛かってくれてると最高なんだけどな」


 グレイディアが掛かっててくれれば、ルピの勇姿も見せれて一石二鳥って感じなんだけど。うちの子可愛いし強い。


「そいや、ルピみたいにアーツ持ってる相棒って他にもいるのかな?」


『調べてきましょうか?』


「あ、いや、いいよ。それもライブで聞いてみてもいいかもだし」


『はい!』

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