第92話 目線を変えて一工夫

「これで良しっと」


『どれくらいで捕まるんでしょう?』


「うーん、リアルだと1日後とかだけど、IROだから夜ログインした後にでも確認に来ればいいんじゃないかな」


『なるほどです』


 仙人竹を割ったものと蔓を使ってかご罠を作ったら、罠作成のスキルが上がって6になった。うん、まあ、罠だけど……同じカテゴリーなんだ、これ。

 で、それをさっそく設置。かごの中には、また余ったトカゲ肉を放り込んである。


「まだ時間あるよね?」


『はい。あと30分はありますよ』


「じゃ、忘れないうちに矢を作っとこうかな」


 パーピジョンの羽と仙人竹、あとは木工道具をいくつか持って広場へ戻る。

 竹は縦に割ってから小刀で表面を整えて……あとは木工と弓のスキルアシストに頼って黙々と作業していく。


「できた、かな?」


【木矢】

『仙人竹で作られた矢。攻撃力+5。

 木工:修理可能』


 えーっと、短弓の攻撃力と矢の攻撃力を足した値ってことでいいんだよな?

 だとすると、攻撃力+20になって片手斧と同じレベル。うん、それを遠距離からだから強いに違いない。


『ちゃんとできてますね』


「やっぱり木工のスキルレベルが5あると、それなりのものができるんだな」


やじりはつけないんですか?』


 あ、そうだった。ゴブリンアーチャーが持ってた木矢は先を尖らせてただけだったから、ついついそっちで作っちゃったけど。


「んー、とりあえずこれは練習用でいいかな。鉄の鏃作ってもいいけど、弓が下手なうちは無くしそうだし」


『ショウ君は石工スキルがあるから、石の鏃でもいいんじゃないですか?』


「あ、そっかそっか。石でもいいし、骨も使えるかもだよな」


 石器時代って石の鏃とか骨の鏃とか使ってたんだっけ。


『骨の使い道ができましたね』


「出汁でも取るかと思ってたけど、ランジボアのやつでも使ってみるよ」


 あれで出汁を取ったら豚骨っぽくならないかなとかちょっと思ってたけど、それなら今日仕留めたグレイディアの方が良さそうだし。


 さっそくランジボアの骨で鏃を作ってみる。スキルアシストさんに任せると、弓と細工が作用してるような気がする……


「これでどうかな?」


【骨鏃の木矢】

『仙人竹で作られ、骨鏃がついた木矢。攻撃力+10

 木工:修理可能。細工:修理可能(鏃)』


「うわ、攻撃力、倍になってるし」


『やりましたね』


 これで片手斧を超えたし、積極的に使ってかないとだよな。斧の方もあんまりスキルレベル上がってないけど……


「ちょっと練習するかな」


 立ち上がって的になるものを探して……あの木でも狙ってみるかと思ったけど、


「弓のスキルがしょぼいから、外していきなり無くしたりすると凹みそう……」


『土壁で的を作ればどうですか?』


「それだ」


 さっそく広場の西側、崖の手前に自分と同じ大きさの土壁を作る。

 うん。消費MP少ないな、これ。確かに石壁の1/4ぐらいだ。


「とりあえず10mぐらいから始めるか」


 これで外したら恥ずかしいけど、さすがにそれは無いと思う。

 矢を番えてぐっと引き絞る。短弓だからあんまり引けないけど、多分大丈夫のはず。

 狙いを決めると、微妙にスキルアシストで体を修正される感じがして……


 ヒュッ!


 かなりの速度で飛んでいった矢は狙った場所から10cmほど離れた場所に突き刺さった。


「うわ、怖いなこれ」


『すごいです。前にゴブリンが撃ったのと全然違いますね』


「あの時は弓も壊れかけだったし、矢もボロボロだったからなんだろうなあ」


 ルピが難なく避けてたけど、あれじゃバイコビットも倒せそうにないし。

 今のこの弓なら、グレイディアぐらいまでいけそうな気がする。ランジボアはちょっと無理かな? あいつしぶとかったしな……


「よし。あと数本作って終わりにするよ」


『はい!』


***


 時間まで作っては試し打ちを繰り返して、3本目を試射したところで時間切れ。

 部室に戻ってくると、ベル部長はまだコメントチェック中でIROには行かなかったっぽい。


「ヤタ先生、今日は来ないんでしたっけ?」


『今日は水曜ですし、職員会議の日ですよ』


「進路調査が出揃った頃じゃないかしら。今日は長引くと思うわよ」


 そういってゲーミングチェアに深く身を預けるベル部長。


「そういえば、エリアボスを倒したって聞いたんですけど」


「ええ、ちょうどその後に例の『建国宣言』が出たせいで、みんなそっちに目が行っちゃってるのよね」


 ワールドアナウンス、インパクトあるからなあ……

 ただ、IROのプレイヤーも全員が全員、国がらみの重い話が好きなわけでもないし、ベル部長がいるアミエラ領はほぼ無関係。


 エリアボスも先着一名様みたいな極悪仕様ではなく、エリアボスが出るあたりをうろついてれば遭遇するそうで、腕に自信のあるパーティーがちらほら集まりつつあるらしい。


「倒した後に【○○エリアを占有しました】って表示出ました?」


「いえ、それは出なかったわね。多分だけど、ショウ君がいる島は特別だと思うわよ」


 まあ、そりゃそうか。

 やってるゲームは同じだけど、用意されてるのはお一人様専用っぽいしな。


『部長とかセスちゃんはまたボスと戦えたりするんでしょうか?』


「どうかしら? 正直、ドロップは微妙だったのよね。経験値は多かったのか、キャラレベルも元素魔法のスキルレベルも上がったけど」


 当たり前だけど、強い敵を倒した方が経験値は多いらしい。

 で、これまた当たり前だけど、レベルが上がっちゃって相手のレベルに追いつくか、追い越すかしたら経験値も減るわけで。


「なんかIROは周回するゲームって感じしないすよね」


「そうね。それよりもいろんな敵と戦う方が経験値の入りがいい気がするわ」


 同じ敵と何度もやるとパターン化するもんなあ。

 オフラインのソロRPGとかで、レベル上げに延々と効率いいモンスターを倒すのって、もはや伝統って気がするけど。


『ショウ君がいろんな物を作ったりしてるのって、実はレベル上がるのが早かったり?』


「ああ、それはあるかもしれないわね。ジンベエさんが言ってたけど、初心者は同じ形のものを作り続けるより、いろんな物を作る方が上達が早いそうよ」


 へー、師匠がそういうなら間違いなさそう。


「それに……これはちょっとした噂話なんだけど、限定オープン開始から王都で篭って生産し続けてるゲールズの人がいるんだけど、スキルレベル7で止まってるらしいわ」


「マジすか……」


『ずっとやってても上がらない何かがある、ということでしょうか?』


「おそらくね」


 ベル部長自身はエリアボスのウルクとの戦闘で、元素魔法が8になったらしい。

 ただ、その戦闘のおかげというよりは、その前の日に習得した【基礎魔法学】のスキルの影響があったんんじゃないかという話。

 確かにスキル同士の関連性は俺も結構あるなって感じてるんだよな……

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