第91話 やっとくべきこと
『ショウ君、連休の予定は決まってますか?』
「え? うーん、特に予定はないけど、親父とか姉貴が帰ってくるかもってぐらい? それもいつなのかはさっぱりだけど」
『来週の水曜日、空いているようなら母に会って欲しいです』
……
そういう話、あったね。
うーん、まあ、部活でバイトっていう謎な状態。
ヤタ先生が内容をきっちりと説明してくれたとは思うけど、大事な一人娘が同級生の男とゲームしてる? って聞きゃ、不安にもなるよな。
ただ、
「いいけど、
『はい、もちろん』
よしよし。これならまあ「部活を通じての友だちなので遊びに来ました」ってとこだよな。
「ミオンの家って駅の向こう側だよね? 駅からは遠いの?」
駅は同じだけど中学の時の学区が違うってことは、反対側、南側のはず。
結構距離があるっていう話なら、移動手段を確認しとかないとなんだけど。
『遠いんでしょうか? 自分ではわかりませんが、歩きで大丈夫ですよ。迎えに行きますから』
「そ、そう? じゃ、お願い。昼過ぎぐらい?」
『お昼ご飯を作って欲しいんですけど……ダメですか?』
「あー……了解。何食べたいかは前日までに言っておいてもらえると」
『はい!』
約束はしてた気がするし、美姫の飯テロ画像を悔しがってたもんなあ。
美姫が好き嫌いわりとあるから、向こうでそれで揉めないだけ安心か……
「お疲れさま」
「どもっす」
『こんにちは』
普段は和風美人でシャキッとしてるのに、部室に来た途端、ゲーミングチェアに座ってVRHMDを被る落差が酷い。もう慣れたけど。
そうそう、昼の話をしとかないと。
「そいや、ナットから聞いたんですけど……」
帝国で内戦を始めた第一皇子と第二皇子の噂を簡単に説明。
噂が本当ならやっぱりかなり仲が悪いし、揉める理由も十分にあることを伝える。
あと、難民が多いのはプレイヤーのせいじゃないのかっていうナットの名推理(迷推理?)も。
「なるほど。ともかく噂話の真偽はセスちゃんに期待しましょ。それよりも、プレイヤーのせいでNPCが職にあぶれてるって推察は興味深いわね」
『部長もそう思いますか?』
「他のゲームならともかく、IROならありそうな話だと思うわね」
それを言われても、俺は島ぼっち生活だからなんともなんだよな。
セスや部長の配信を見て、本当に人間臭いAIしてるNPCだよなとは思ったけど。
「実際にそういうNPCいるんですかね?」
「一時期、ポーションの素材をプレイヤーが奪い合ってた頃があったけど、NPCで採集を専門にする人は減ったんじゃないかしら」
ベル部長の話だと、近場でコプティ(一般的なヒールポーションの素材)を取れる場所は、もれなくプレイヤーが座ってたらしい。そんな競争相手いたら、別の仕事探すよな……
『ショウ君、そろそろ』
「あ、うん」
「行っていいわよ。私は昨日のライブのコメントチェックがあるし」
「どもっす」
エリアボス倒したらしいし、盛り上がったんだろうな。
美姫に突っ込まれる前に流し見ぐらいはしておかないと……
***
「あそこを改築する前にやっとくべきことってあったっけ?」
『ないと思いますけど、途中になってることはいくつか……』
「あー、うん、あるなあ」
パッと思いつくだけでも「矢を作る」とか「レクソンとか野菜を植える」とか「他の海藻を探す」とかあるな。
ああ、今日ナットに言われた「洞窟に玄関扉をつける」も増えたっけ。
『フラワートラウトを捕まえる、かご罠を見てみたいです』
「そうだった。それも蔓から作れるし、戻ってきて時間があったらやるよ」
『はい』
というわけで、古代遺跡の地下通路を通って西側へと向かってる最中。
いったん海岸まで出なくて良くなったし、道は舗装されてて真っ直ぐなので早い。
「ワフッ!」
西側の出口が見えて走り出すルピ。
とりあえず、あの『解錠コード』の扉が開かない限りは、モンスターが押し寄せたりはしない感じかな。
『この出たところのセーフゾーン、何かあったりしませんか?』
「あ、セーフゾーンなことに気を取られて、ちゃんと見てなかったな……」
ざっくりと目立つ感じの草を鑑定していると……
【コプティ】
『小さな黄色い花を咲かせる多年草植物。
調薬:ヒールポーションの原料となる。料理:塩茹でや炒め物なども美味』
「うわ、コプティってこれか!」
『やりましたね!』
「ミオンのおかげだよ。さんきゅ」
やっぱり、これを見つけてからアーマーベアだった気がする。
ともかく、ほどほどに採集してバックパックに放り込む。これで「ヒールポーションを作る」もやることリストに追加だな。
ただ、今日のメインは罠の見回り。例の場所にグレイディアあたりが掛かってくれてるといいんだけど……
「おっ! やった!」
掛かっていたのは狙ってたグレイディア。
ツノも大きいし、オスの成体っぽい。てか、でかいな。体長1m超えてる気がする。
「ワフッ!」
「え? ルピ、大丈夫か?」
「ワフン」
そう答えて、ゆっくりとグレイディアの前へと進むルピ。
『ルピちゃんが仕留めるんですか?』
「うん。なんか本人がやりたいっぽいから……」
もう、バイコビットあたりはそれこそ『歯牙にも掛けない』し、大丈夫だろうとは思うけど。
いざという時のために、腰の麻痺ナイフで援護できるように身構えておく。
ゆっくりと近づくルピに怯え、グレイディアが高い鳴き声を発して後ずさるが……
「おおっ!」
一気にジャンプして喉元に食いつくと、ガッチリと咥え込んだままグレイディアを引き倒すルピ。
けど、まだ体格的にねじ伏せることができないっぽくて、もがくグレイディアを押さえ込もうと必死になっている。
「ルピ、手伝うよ」
というわけで、暴れるグレイディアの体をグッと押さえつけることしばし。
【調教スキルのレベルが上がりました!】
【ルピがアーツ<マナエイド>を習得しました!】
【ルピがアーツ<ハウリング>を習得しました!】
【ルピがアーツ<急所攻撃>を習得しました!】
「え?」
『ルピちゃん、すごいです!』
「ワフン!」
ドヤ顔のルピを撫でるのはいいんだけど……いきなりアーツ獲得するとか思わなかったな。
とりあえずグレイディアを解体して、肉、角、骨、皮、腱をゲット。腱は初めてかな? 多分、弓弦の替えを作れるはず。
で、それはいいとして、
【狼?:ルピ:親愛:自由行動】
『狼?
アーツ:<マナエイド><ハウリング><急所攻撃>』
相変わらず『狼?』のままだし、フレーバーも情報ゼロ。やっぱ鑑定のレベルが足りないのか、それか知識がそもそも足りないって線かな。
で、アーツなんだけど<急所攻撃>はいいとして、
【マナエイド】
『主人にMPを分け与えるアーツ。供与MP量は親密度による』
【ハウリング】
『遠吠えで同種族を招集・指揮下に置くアーツ。集まる頭数は種族によって異なる』
マナエイドはなんとなく理解。俺がMP切れそうになっても、ルピからもらえるってことかな?
ハウリングの方がなんとも……同種族ってルピと同じ『狼?』が来る? だとしたら強すぎる気がするんだけど。
「謎すぎる……」
『試してみます?』
「うーん、いいや、やめとくよ。アーツはルピが好きに使えばいいからな」
「ワフン!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます