水曜日

第90話 生活を脅かす物

 水曜日。

 いつものメンバーで昼食なんだけど、話題は自然とIROになってしまう。


「そいや、ナット。帝国の第一皇子と第二皇子について何か知ってるか? やっぱ、内戦起こすぐらいに仲悪いとかそういう感じの話とか」


「ん? 相当悪いって話は聞いたな。第一皇子の母親は当然王妃なんだけど、北のアンハイム領の伯爵の娘らしい。で、第二皇子の母親が側室で、南のパルテーム領の伯爵の娘だそうだ」


 ナットのくせによく覚えてるな。


「でも、それなら順当に第一皇子が即位して問題なさそうな気がするのだけど」


 といいんちょ。ミオンもコクコクと頷いているし、俺もだよなと思う。


「それが、実は第二皇子の方が生まれるのが1週間ほど早かったって噂があるんだよな」


「え?」


「ま、これは俺が脱出するときに護衛した商人から聞いた話なんで、信憑性ゼロだけどな」


 そう言って笑う。

 先に生まれてれば第一皇子で帝位継承してた? いや、側室の子だとダメなんだっけ?


「うーん……」


「どした? 無人島に住んでるショウには関係ない話だと思うぞ?」


「いやまあ、美姫セスのギルドの話もあるし、王国が開拓してる南東方面ってやばいんじゃないかって話」


 仲が悪いのは実はフリだけで、本当は仲が良いんじゃみたいな推測を説明しておく。

 それでも、だからって内戦までやるのか? って疑問は消えないんだけど……


「なるほどなあ」


「難民が他国へ押し寄せるようなことまでするかしら?」


 いいんちょの意見に頷くミオン。同じことを昨日言ってたもんな。


「うん、その辺は俺も同意見だし、もっともらしい理由も思いつかない」


「まあ、俺らプレイヤーが増えたせいで、難民が予想以上に多かったかもしれないけどな」


「え? どういうことだ?」


「いやだって、俺らプレイヤーは死ぬのを恐れずにモンスターを狩ったり、採算度外視で生産しまくったりするわけだぜ。今までそれで暮らしてた人らは困るんじゃねーの?」


 ……

 ナットの言葉に固まる俺とミオン。

 いいんちょはというと、


「そうよね。今それで生計を立ててる人のお仕事をダメにしちゃうかもしれないのよね」


 とリアルで考えれば至極真っ当なご意見。

 いや、そうなんだけどさ。


「ゲームでそこまでするか?」


「ありえねーって思うけど、IROはなんかそんなことが起きても不思議じゃねえ気がするんだよな。NPCだって、よくある店員AIとかと違って妙に人間臭いし」


 そういや、ベル部長がプレイヤーズギルドの作り方を聞いたときのギルド嬢も、妙に人間臭かったよな……


「えっと、そういうのって普通じゃないの?」


 俺とナットは苦笑い。ミオンはふるふると首を横に振る。


「まあ普通の、いや、今までのゲームだとプレイヤーに職を奪われるNPCはいなかったな」


「だな。しかし、ゲームだしなって思ってた部分も疑ってかからないとか……」


 思えば石壁が残ったりするのも、そういうことなのかな。うかつに魔法を使うとNPCに迷惑が掛かることもあるぞっていう。


「そういえば、前に教えてもらった自宅の件だけど、自分専用の部屋を持つといいみたいね。共用じゃダメなのもそういうことなのかしら」


「ああ、なるほど。俺も住居の獲得のやつもらったけど、そういうことか」


「二人とも例の開拓拠点に?」


「ええ、私は『白銀の館』の女子寮に一室もらったわ」


「俺は自分で作って、空き部屋をフレに貸してるぞ」


 ナットはシンプルな客間を用意して、フレのログイン・ログアウトをサポートしてやってるらしい。相変わらず気前のいいやつだ。

 と、ちょいちょいとミオンに袖を引っ張られる。


「ん?」


「宿屋……」


「あ、そうか。NPC雇ってフロントやってもらえれば、普通に宿屋になるじゃん、それ」


「ああ、いいな、それ。ちょっとダッズさんあたりに話してみるか。せっかくなら、飯作ってくれる人も雇いたいし」


 ナットのやつ、すっかりレオナ様親衛隊のメンバーと仲良くなってるな。まあ、いつものことだけど。


「そいやエリアボスは?」


「ん? セスちゃんがレオナ様と魔女ベルと倒したって聞いてないのか?」


「いや、昨日は例の建国宣言でゴタゴタしたし……」


 あの二人、エリアボス倒してから部室に来てたのか。

 ちなみにそのエリアボスは、俺が遭遇したレッドアーマーベアではなく、ウルクっていうオーガとオークのキメラみたいなやつらしい。


「ま、雷帝レオナと魔女ベル、それにセスちゃんがいたし、余裕だったぜ」


「だろうなあ。ってか、コラボライブだったんだな」


「コラボっちゃコラボだけど、それぞれ別視点で配信してたし、ファンは好きな方で見ればいいって感じだったな」


「へー」


 まあ、お金で揉めたりするかもだし、それぞれ配信って方がいいのか。とはいえ、レオナ様は全然気にしなさそうだけど。


「そうだったのね。私もゲームせずに見れば良かったわ」


 いいんちょ、すっかりレオナ様のファンになってるっぽいな。

 まあ、ベル部長のファンになるよりはいいか……


「ん? いいんちょ、ゲーム内で配信見れるの知らないのか?」


「え? 見れんの?」


 俺、それ知らないんだけど……

 ミオンを見ても……知らないよな。そりゃ、IROはキャラクリしかしてないんだし。


「おいおい、ショウも知らねえのかよ」


 ナットの話だと、メニューから外部サイトを見ることができるので、それで動画も公式フォーラムも見れるらしい。

 普通のゲームプレイなら、生産中の待ち時間に見たり、作業中のBGVとして流しっぱにする人もいるそうだ。なるほどなあ。


「ただし、セーフゾーンの中でだけだぜ」


「そんな制限あるんだ。ああ、傭兵で敵側の配信見るとかできるとまずいからか」


「普通に動画見ながらは危ねえしな」


 そんな歩きスマホみたいな……


「私たちが今いる場所はセーフゾーンよね?」


「ああ、丸太の柵の内側な」


 ん? 柵の内側?


「その柵って後から作ったやつだよな? 柵を作るとセーフゾーンが広がるのか?」


「ああ、作ってすぐってわけじゃないけどな」


 柵を作るとセーフゾーンが広がるんだったら、洞窟前の広場に柵を作ればセーフゾーンが広がるか?

 せめて、洞窟の入り口まで広がってくれれば……


「?」


「いや、洞窟の広間にあるセーフゾーン広がらないかなって」


 ミオンにそう答えると、ナットといいんちょが不思議そうな顔を。


「ま、俺の勘だけど、入り口に扉でもつけりゃいいんじゃねえの? あの小さい土壁だと敷居って感じだし、バイコビットが飛び越えてくるだろ」


 そう言って笑うナット。

 ああ、柵なり壁なり扉なり、付近にいるモンスターで壊せないやつを作ればいいのか。

 なんかそれが一番しっくりくるし、山小屋の方が終わったら試してみるか……

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