第88話 文章はここで途切れている

「よいしょっと」


 圧迫感のある1階や埃っぽい2階で読むものじゃないよなってことで、いったん外に。

 玄関へ続く石の階段に腰を下ろすと、ルピが足の間に収まってもふもふを要求してくる。


「よしよし」


「ワフ〜」


 インベから取り出した『記録』と書かれた本……日記帳? を改めて見直す。

 これって結構ちゃんとした紙だよな。


「ベル部長たちがいるとこだと、紙ってこんな良いやつじゃなかったよね?」


『はい。なんか茶色く汚れた感じのですね』


「ああ、わら半紙ってやつかな」


『わら……?』


 普通知らないよな。

 俺もじいちゃんに教えてもらったんだけど、そのじいちゃんですら「大昔はこんな紙を使ってたそうだ」とか言ってたし。

 まあ、ようは稲わらを細かく砕いて煮て作った紙らしいということを説明すると、


『ショウ君も紙を作れるかもですね』


「あ、そうか。あんまり使う場所がないかもだけど……いやコーヒーフィルターとか考えるとありなのか」


 今のところ稲わらはないけど、ちょっと似たような植物は探せばあるはずだよな。


「ワフ?」


「ごめんごめん」


 もふる手が止まってたっぽい。

 それに紙を作る話は、もっと先でも大丈夫だろうし、今はこの中身のほうが重要。


「じゃ、読んでみるか」


『はい』


「えーっと、

『花の月の五 中央先端魔導研究所から左遷され、こんな孤島の監視員となってしまった』

 ……」


 いきなりすっごい辛い展開なんだけど? ともかく先を読み進めていく。

 どうやら、これを書いた人はその魔法研究所の一員だそうだが、新型魔導施設の設計方針に異議を唱えてたら、この島に左遷とばされたって話っぽい。


『ここへはどうやって来たんでしょう?』


「うーん、もうちょっと先を読んでみるか……

『この島の火山を利用したマナリサイクルシステムは、かなり旧式で効率は悪いが安全性は高い。

 本来なら年に一度の点検でいいはずの場所に追いやられてしまったが、中央の連中の顔を見なくて済むという意味ではいい場所だろう』

 ……」


 マナリサイクルシステム? マナってMPだよな? どういう意味なんだこれ……


「続き、

『中央から転移した先は制御室だったが、あそこは殺風景すぎて住む気にはなれない。なので南西の当直小屋に転移魔法陣を移した』

 ってことは、あれってこの人が言う中央先端魔導研究所に飛ぶってことか……」


『どこなんでしょう? 安全な場所とは思えないです』


 ベル部長たちがいる大陸のどこか? それとも全く別の島とか大陸があるのかもだよな。


「アレはやっぱ封印かな。読み進めるよ。

『制御室の点検は年一なので、南北の防護壁はロックしておいた。(4725)』

 ……解錠コードってこれ?」


『4725ですよね?』


「うん。4桁数字ってどうなんだろって気はするけど、この人しかいないならいいのかな。いや、そもそもいらない気がするんだけど……」


 この人が何を考えて設定したのかを考えてもしょうがないか。

 単純に必ず4桁数字を設定しろみたいな扉なのかもしれないし。


「じゃ、続き。

『食料に関しては一ヶ月に一度まとめて支給されるとのことなので、保存庫もこちらに移動。大抵が保存食に近いものなので、自力で料理をしたほうが良さそうだ』

 うーん、料理してた感じはないんだけどなあ」


『ですね。お台所とかもありませんでしたし』


 俺みたいに外に石窯作ってやってたかも? さすがにそれは残ってないよな。

 いや、その前に、


「保存庫ってすっごい重そうな感じだったけど、あれ運んだってどうやって?」


『インベントリには……入らないですよね?』


「無理だと思う。なんか魔法で運んだのかな……」


 インベントリが広くなる魔法とかあっても不思議じゃないか。

 必要MPがすごくて、時間制限があるとかじゃないと、ゲームバランス崩壊しそうだけど。

 いや、そもそもNPCってインベントリあるの?


 そこから先はほぼ日記。たまに古代遺跡の説明が少し。

 採掘場と鍛冶場も古代遺跡の施設らしいけど、用途に関しては特に触れられておらず。

 この人は採掘とか鍛冶とかできなくて放置してた模様。

 

「一応、狩りとか釣りとかはしてたっぽいけど……あんまり得意じゃなかったみたいだなあ」


『魔法の研究だけしてた人だったんですね』


「だね。それでもまあ、本読んだりしてここでの生活はそれなりに楽しんでたのかな」


 今日は魚が釣れたとか、でも、どうやって捌けばいいのかわからないので丸焼きにした、とか。

 ちょっと親近感のわく日記が続いてて、


「え?」


『どうしたんですか?』


「うん。ここからかな。

『転移魔法陣にかつての同僚が現れた。なんでも所長が設備の一部を暴走させ、そのまま昏倒したらしい。

 強制停止装置もうまく動かないらしく、原理を理解できているメンバーをとにかく呼び寄せてるとのこと。何をやってるんだかまったく……

 ”追放された魔術士、同僚のピンチに呼び戻されるがもう遅い”ってやつだな。「やれやれ」とでも言いながら対処してこよう』

 ……」


 そして次のページ以降は真っ白……


『戻ってこれなかったってことですよね……』


「多分」


 これを書いた人が戻ってくることは無さそうだけど、逆にあっちへ行くのもかなり危険な気がする。

 その暴走とかいうのが止まってればいいけど、止まってなかったら帰ってこれないパターン。


 あ、俺はリスポーンがあるから平気っちゃ平気なのか……

 でもそれで、デスペナ――一部アイテムロスト、キャラ・スキル経験値ロスト(場合によってはレベルダウン)、2時間のセーフゾーン外への移動不可――は痛すぎる。


「こっちから使うことはないかな。あとは別の誰かとかモンスターが現れたりしなきゃだけど……」


『あの魔法陣の説明に「障害物があると発動しない」って書かれてましたよね? 何か上に置いておけばいいんじゃないでしょうか?』


「それだ!」


「ワフン!」


 障害物を作るのは簡単。

 石壁の魔法で、あれをすっぽり覆い隠す1m四方の石畳を作ればいいだけ。


 さっそく1階へ戻って、


「直接やって発動するとまずいから、いったんこっちに出すよ」


『ですね』


 大体の大きさをイメージし、1m四方、厚さは10cmぐらいでいいかな。割れると嫌だし。


「<石壁>っと」


 作ったは良いけど持ち上がるか? あ、STRあるからか余裕だった。

 これを転移魔法陣の上にすっぽりとかぶせる。


「これならライブに映っても平気かな?」


『その上にミニチェストとか置くのはどうですか?』


「あー、いいね!」


 んじゃ、ここを本拠地に改装しよう!

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