第89話 突然の宣言
「とりあえず、これでいいかな?」
『はい。雨が吹き込まなければいいと思います』
壊してしまった玄関扉と西側の木窓を暫定修理。
外れた蝶番とそれを止めていた釘を探して、なんとか元の形に戻して付け直した。
いきなり嵐になったりはしないと思うし、本格的に2階を新しくするまで保てばいいかな。
「じゃ、いったん戻るか」
「ワフ」
時間はまだ10時前ぐらいだろうし、もう少し何かできるはず。
『戻って罠の確認ですか?』
「それは明日の部活にでもするよ。それより、用意しておきたいものがあって……」
ログハウスって漠然と考えてたけど、釘だったり蝶番だったり、L字型の金具でいいのかな? そういうの全然思い当たってなかったんだよな。
『なるほどです。ショウ君、もう大工のスキルは取ってます?』
「いや、まだだけど?」
『釘とかを作る前に取ったほうがいいんじゃないでしょうか? 石窯のこともありましたし』
「あ……」
そういやそうだった。このゲーム、何か作る時にそれを使えるスキルがあるかどうかで、出来上がりに差が出るんだった。
「てか、大工道具作る前に気づけよ、俺!」
『まあまあ、木工スキルがありましたし、次に作る前には忘れないようにすれば』
「そだね。てか、今もう取っとくよ」
立ち止まり、スキル一覧を開いて大工を検索……あった。ポチッとやって【大工:Lv1】を取得。
このことはナットにも教えといた方がいいかな。あいつも大工スキル取ったとか言ってたし。
「ワフ?」
「ごめんごめん。帰ろうか」
さて、頑張って釘やら何やら作らないとな。
………
……
…
『ショウ君、そろそろ11時です』
「おけ。これで終わりっと」
【細工スキルのレベルが上がりました!】
釘やら金具やら細かいのは細工スキルも影響してるみたいで、今日だけで2レベル上がって3レベルに。
最初はコツコツと釘を大中小の三種類作り、その他にもL字金具なんかの簡単そうなのを。
あの山小屋、作り直すときに裏口欲しいな……
道具をきちんと片付け、出来上がったものはバックパックに。
鍛治場を後にして洞窟の広間へと向かう。ルピはもう寝ちゃったかな?
【パルテーム公国が建国されました!】
「『え?』」
思わずミオンとハモってしまい、カメラに目をやる。
「ベル部長たちじゃないよな?」
『今日はライブでしたし、違うと思いますけど……』
そういやそうか。
本気でそんなことするならライブ前に相談あるよな。
「落ちて部室行くよ」
『はい』
ダッシュして洞窟に戻ると、ルピがベッドで熟睡中。
そっとバッグパックを置いて、起こさないように隣に……
「ワフ……」
おやすみ。
***
「お疲れ」
『お帰りなさい、ショウ君』
「あ、うん、ただいま」
なんかちょっと照れくさいんだけど……
ミオンは公式フォーラムでいろいろ調べてるのか、メモを取ったりしてる。
俺はというと……特にすることもないし、動画についたコメントチェックでもするかな? いや、多分、もうそろそろ……
「ああ、良かった。いたわね」
「ただいまだぞ、兄上」
「ああ、おかえり」
『お帰りなさい、セスちゃん、部長』
予想通り、ベル部長と
普段はみんなIROから直で落ちるけど、さすがにあの『建国宣言』は気になるよな。
「で、何か知ってます?」
「聞きたいのはこっちなんだけど?」
「兄上が建国宣言したわけではないのだろう?」
「するわけないっての」
とまあ、誰も状況を把握しておらず、集まった意味があったのかっていう……
『どうやら帝国の内戦で第二皇子側についていたパルテーム領が独立を宣言したようです』
うん。ミオンが一番まともな情報を伝えてくれた。
「第二皇子は王位継承を諦めたということかしら?」
「わからんのう。そもそも大きな戦が起きておらなんだようだが……」
セスも公式フォーラムを見ているっぽい。
まあ、とりあえず俺には関係なさそうなのと、
「ベル部長や『白銀の館』が困ることってありそうです?」
「なんとも言えないわね。これで第一皇子側がそれを認めて停戦って話になるのが一番困るけど……」
『どうしてでしょう?』
「ウォルースト王国が難民対策に開拓しておる先に南東側、所属不明な地域が含まれておるゆえの。せっかく開拓した場所をあっさり取られるという可能性もあろう」
「うわ……」
ウォルースト王国が頑張って開拓し終えたところで、出来上がりを美味しくいただきますってか。
『ギルドのみなさんは大丈夫ですか?』
「ええ、うちはみんなアミエラ領で活動してるし、離れるとしても王都まで素材や完成品を運ぶくらいね。
ただ、南東側は国の方針次第だけど、最悪放棄されるかもしれないわ……」
とのこと。南東側は国がもっとも開拓に力を入れていた場所だそうで、卸した品もほとんどはそっちに買われて行ってるらしい。
ただ、いきなり停戦したグラニア帝国とパルテーム公国だっけが、今度はタッグを組んでこっちに攻めてくる、とかなると洒落にならないよな……ん?
『どうしました?』
「いや、素朴な疑問なんだけど、その第一皇子と第二皇子って仲悪かったの?」
その問いにミオンだけでなく、セスもベル部長も固まる。
あれ? 俺なんか変なこと言ったかな? いや、言ったか……
「すいません。忘れてください」
「いやいや、その観点は重要だぞ、兄上!」
「そうよ。ありがちな展開よねって思ってたけど、そんな話は一言も書かれてないわ!」
だから、椅子の上に立つなっての。
ベル部長も公式ページを見てなんか盛り上がってるし。
『でも、実際に内戦までして、国民が逃げてしまってますけど……』
「だよな。住む人がいなくなると国の意味がないし。っていうか、内戦の隙をついて他国が攻め込んできたら、まずかったんじゃないです?」
リアルだって分裂した国を別の大国が後ろから〜なんて歴史にはたくさんあるわけで。
「もちろんそれも考慮してあったのではないか? 王国側、共和国側、どちらの国境都市も内戦には参加しておらんのであろう?」
「ええ、そうね。難民が逃げ込む先になってるわ」
なるほど。どっちも攻められても守る準備はできてたってことか……
ただ、推測に推測を重ねてるだけなんだよな。そもそも一回内戦しておいて「実は作戦でした」ですぐに仲良く元通りってなるかな?
「セス、子爵様ってそのあたりに詳しいんじゃないか? 俺たちが妙なことで想像を膨らませるよりも、知ってそうな人に聞いた方がいい気がするぞ」
「おお、そうよの! さっそく、明日にでも聞いてみようぞ!」
わかったから、椅子の上に立つな。そして跳ねるな……
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