第86話 手っ取り早い方法

「よし、忘れ物はないよな」


「ワフン」


 バックパックにいろんな道具を詰めて背負う。

 カナヅチやノミ各種、ノコギリ、ツルハシ、お約束のバールのようなもの。


 部活の時のIROは飯と西の森に罠を仕掛け直して終わりにし、夜になって改めてあの廃屋の調査に向かうことに。


『ショウ君、急に乗り気になってませんか?』


「あー、部長に煽られたのもあるけど、あそこ調査し終わったら解体して、家を建てようかと思って」


『あそこにですか!?』


「うん。もともと誰か住んでたなら、住みやすい場所なんだろうし、きっちり調べて問題なかったらだけどね」


 そんな話をしながら歩いているうちに登り階段に到着。

 ゲームだからいいけど、これリアルの階段だったら大変だっただろうな……


「ふう。やっぱりいい場所だよ、ここ」


 西側の崖の向こうには海が見えて、景色もなかなか。

 北西の奥にやっぱり泉っぽいものが見えたので、まずはそっちへ。

 緩やかな下り斜面を進むと、この盆地の一番低い場所になる感じ。


『すごく綺麗な泉ですね』


「だね。それに思ったよりも大きい。ここの雨水とかも流れ込んでるわりに全然濁ってないし、やっぱりどこかに流れてるんだろうな」


 泉の奥の方は森の中に消えているので、落ち着いたらどうなってるか追いかけるとしよう。

 当面の目的は廃屋の調査。まずは外をぐるっと一回りするかな。


『気をつけてくださいね』


「うん。ルピ、敵がいそうなら吠えてくれよ?」


「ワフン」


 北側の崖沿いの森を左手に眺めつつ、ゆっくり山小屋に近づいていく。

 大きさは電脳部の部室、リアルの方の部室ぐらいかな。ルピと住むならちょうどいいサイズだと思う。


 今のところ不審な気配はまったくないが、家の周りが雑草だらけになっているのはいただけない。


「調査が終わったら、まずは草むしりからだな」


 手斧で気休め程度の草刈りをしつつ進むと、石造りの1階部分にたどり着いた。

 バックパックからカナヅチを取り出して、そのレンガを軽く叩いてみる。


『脆くなってないか確認ですか?』


「そそ。でも、全然大丈夫っぽい。苔が付いたりはしてるけど、しっかり上を支えてるし、これはそのままの方がいいか」


 中の調査が終わったら一つずつ確認して、やばそうなやつだけ石壁の魔法で作ったやつと入れ替えることにしよう。


 1階部分をぐるっと一周して、南側にある玄関階段の前に。

 石壁の魔法で作ったようなブロックを積んだ階段なので大丈夫かな。


『1階に入り口がないんですね』


「だね。でも、家の基礎にしては高いし、多分、中に降りる階段があるんじゃないかな」


 床下収納の大きいやつみたいな?

 この世界の一般的な建物がどうなってるのかとか、いきなり無人島スタートしてるからわからないんだけど。


「さて、じゃ、入りますか」


「ワフ」


 玄関扉はごく普通? 木の扉で右開き。捻って開けるような機構はないのか、取っ手がついてるだけの代物。

 取っ手と隣の柱に横木を通す仕組みがあるんだけど……閂そのものは無し。


『ショウ君、暗いとあれなので……』


「あ、そうだ」


 光の精霊にお願いして、明かりを準備。

 外から見えた窓は雨戸なのか、しっかりと閉められていたので、中は真っ暗のはず。


「よし」


 グッと取っ手に手をかけて、


「いや、一応やっとくか」


 コンコンとノックして……返事なし。

 ゴンゴンゴンと強めにノック……返事なし。

 改めて取っ手に手を掛けて引く……


「内鍵掛かってるか……」


『どうします?』


 こういう場合、ほぼ一択なんだけど、


「ワフン!」


「だよな!」


 ってことで、蹴破るに決定。

 あ、せっかく作った大工道具とかは危ないので、バックパックごと置いとこう。


『え? え?』


「せーの!」


 ガコンッ!!


 前蹴り一発であっさりと壊れてくれて、そのまま向こうへと倒れる扉。

 そして、そのせいで舞い上がるすごい埃……


「うわっ! 埃やばっ!」


「クゥ〜」


「ルピ! いったん離れるぞ!」


 二人して、慌ててジャンプして玄関を離れる。

 入り口からもうもうと溢れ出る埃が収まるのを待つことしばし……


『無茶苦茶です……』


「いや、だってなあ?」


「ワフ」


 二人して頷き合う。

 他に何か方法があればだけど、このためだけにわざわざ鍵開け的なスキル取るのもなんだかなっていう。


『それならまだ窓をこじ開けた方が、後のことを考えても良かったんじゃないですか?』


「あ……」


 バールのようなものまで持ってきてたし、別にそれ使えばよかったってオチ?

 思わずルピを見ると、ふいっと目を逸らされた。賢いなあ……


「えーっと、そろそろ落ち着いたし、中に入ろうかな」


『次は慎重にですよ?』


「りょっす……」


 外から覗く分には、本当に長い間誰も住んでなかった家かな。

 えーっと、慎重にだよな。まずは、光の精霊の明かりを室内へ。


「なんか、ほとんど何もない部屋だな……」


 見えるのは倒れたドア、嵌っていた閂、床に積もった埃、左手前に四角いテーブルと椅子、左手奥にベッドだったもの。

 そして、右手奥には予想通りというか下に降りる石の階段が見える。


「ワフ」


 ルピがそろりそろりと足を踏み入れ、俺もその後に続く。足元の床が抜けないか確認しつつ……


 床板が軋んで音を立てるが、とりあえずは大丈夫そう。けど、これは張り替えたほうがいいんだろうな。


「んー、意外となんもないな。ただの山小屋とかなのか?」


『とりあえず窓を開けませんか?』


「りょ」


 窓は全て木窓で、ガラスがはまってたりはせず。

 腕ぐらいの長さのかんぬきがかかっているので、それを外してから外に向けて……


 バキッ! ガランガラン……


 両開きの四角い窓の両方が、根元の蝶番ごとはずれて外へと落ちてしまった。


『ショウ君?』


「ごめん。ここまで脆くなってると思わなくて……」


 窓は東西の壁に一つずつ。

 壊しちゃった西側に続き、東側を慎重に開けると、気持ちいい風が吹き込んで、家の埃を吐き出してくれる。


「うーん、テーブルに椅子、あとベッドだけって、料理とかどうしてたんだろ?」


『それよりも、入り口の扉は内側から鍵が掛かってましたし、この家の持ち主はどうやって……』


「……」


 パターンとしては「白骨化して座ってる」とか「霊体になって浮いてる」とかだよな。

 目線を上にやると、片流れ屋根の裏側、斜めになってる部分が見えるだけ。ところどころ傷んでるので、やっぱり新しくした方が良さそうってぐらい。


 と、なると……


「やっぱり、階段降りてみるしかないか」


『気をつけてくださいね?』


「りょ。ルピ、行こうか」


「ワフ」


 この家の持ち主がスケルトンになってたりする可能性は高そう。

 けど、神聖魔法は取れてないし、銀とかアンデッドに効きそうな武器があるわけもなく。

 とりあえず、塩が効くか試すぐらいしかないよな……

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