火曜日

第85話 事故物件?

「へー、あれってバグだったんだな」


「ああ、勝てて良かったけど、正直、生きた心地がしなかったよ」


 いつものメンツ、屋上で昼飯中。

 ナットも短編動画は見たらしいけど、後から追加された固定コメントまでは見てなかったらしく、どういう状況だったのかを説明中。


 いいんちょは昨日はIROしてなくて、例の短編も知らないようなので、ミオンの持ってきた端末で見てる最中だ。


「これ、伊勢君は怖くなかったの?」


「怖かったけど、逃げられそうになかったし。いずれ相手するつもりだったからなあ。途中でレッドアーマーベアになるのは完全に予想外だったけど」


「海に落とすのはいいけど、そこから自分も飛び込むなんて無茶苦茶よね?」


 それにコクコクと頷くミオン。


「いや、やれるときにやっとくよな?」


「だな。俺でも飛び込んでたと思うぜ」


 俺に同意してくれるナット。だよなあ。


「そいや、昨日は……セス美姫たちとエリアボス探しに行ったりしなかったのか?」


「あー、誘われたんだけどパスさせてもらった。フレとの約束が先にあって、家作る手伝いしてたんだよ」


「へー、ナットもひょっとして生産系のスキル取ったのか?」


「ああ、ショウのゲームプレイが楽しそうだったし、大工を取ってみたぜ。自分で家作れるようになるの楽しいな」


 くっ、俺より先に家づくりに着手するとは。

 俺の場合は伐採があって初めて、大工に着手できるからしょうがないんだけど。


「例の古代遺跡の手前の村でログイン・ログアウトできるようにって話があったからな。あのダッズさんって人と話して、俺らが家作ってあの人らが鍛治するってことにしたんだよ」


「へー、レオナ様の親衛隊と仲良くなったのか」


「俺らもそのうちプレイヤーズギルド作るつもりだから、有名どころとは仲良くしときたいしな」


 その答えに驚く俺とミオン。

 てっきり「白銀の館」のギルドメンバーになったんだと思ってたけど……


「セスのギルドには入らなかったのか?」


「おう、悪いな。ギルドの話が出た時に、自分たちで作るつもりでいたんだよ。セスちゃんの所とも連携していくってことにしてるから、そっちでは助かってるよ」


「そっかそっか」


 もともとその予定なんだったらしょうがない。

 ナットならフレの多さでプレイヤーズギルドを作っても不思議じゃないし、そっちを切ってまで入ってもらうのも申し訳ない。


 で、ちょいちょいとミオンに袖を引っ張られる。


「ああ、そっか。いいんちょはどうしたの?」


「私はセスちゃんところにお世話になるわよ。ユキさんにたまにでいいので、ギルドの運営を手伝って欲しいって言われてるし」


 ユキさんって誰? ってミオンを見ると、


「リーダーの……」


「ああ、生産組のまとめ役の人か」


 まあ「白銀の館」は女性も多いし安心かな。

 ナット、そこはしっかり誘えよって思わなくもないけど、それはそれで心配だったってことにしとくか……


***


 部室にはいつも通り一番乗りなので、ベル部長かヤタ先生待ち。

 短編動画の方は再生数のピークも過ぎたっぽいかな。特に変なコメントもないし。


『ショウ君、今日投稿する動画を確認してください』


「りょ」


 内容はロープを編んだり弓を直したり(一回壊したり)。ああ、ここにマイホームの設定の話も入るのか。

 建国宣言の話はちゃんとカットされてるのを確認。問題なしかな。


「ん、おっけー」


『はい。今日は……例の廃屋を調べますか?』


「そのつもりだけど、いまいち気が乗らないんだよな……」


『はい……』


 昨日のライブをアーカイブを引っ張り出して来て見直す。

 あの階段を上がったあたりから再生し、あの時に気づいてなかった何かがないかを確認中……


 地上への出口から見渡す先は崖に囲まれた盆地で、崖沿いに森が広がっている。

 よく見ると鳥が飛んでるし、結構いろいろと住んでるっぽいのか。


『あ、ここ、小さな泉でしょうか?』


「本当だ。気づいてなかったな。近くに寄ればもう少し大きいかも」


 北西の端、一段低くなっているところに見えるのは泉か池か湖か。

 綺麗な水があるなら、動物が住み着いてるのもわかる。


 そして、振り向いた先に見える火山。

 こちら側は急に斜度が上がっていて樹もまばら。

 で、


「これか……」


『かなり傷んでるように見えますね』


 一時停止して拡大してみると、石造りの1階部分に木造の2階が乗ってるような家。

 いまいち鮮明に映ってないせいか、なんかこう……ホラーっぽい。


「お疲れさま」


「どもっす」


『お疲れ様です』


 ベル部長が来てすぐVRHMDをかぶると、俺たちが見ている山小屋に目を留める。


「で、これは一体?」


「えーっと……」


 アーマベアを倒して、西側が平和になったので探索してたら洞窟があって、その奥が東側の古代遺跡と繋がってて、さらに北側にも行けて……みたいな感じでざっくり説明。


『北側の先で開かなかったのはこの扉です』


 ミオンが動画を少し巻き戻して、それを見せてくれる。っていうかそこは……


「ぷっ、くくく……」


 俺の『開けゴマ!』にウケるベル部長……


「はあ……。で、その扉の『解錠コード』ってのが分からなくて、階段を登ったら」


『ここです』


 ミオンがスキップして外に出たところから再生開始。

 例の山小屋を見つけたところで終わりにしたっていう感じなんだけど。


「普通に考えれば、あれを調べるべきよね。今まで先住者の痕跡なんかなかったわけだし、その『解錠コード』とやらもあそこにあるんじゃないかしら?」


「ですよね……」


「あら? ひょっとして怖いの?」


 ちょっと上から目線というか、からかうように問いかけてくるベル部長。


「正直、苦手っす」


『私も……』


「だらしないわねえ。現実ならともかくVRMMO、ゲームの中の話じゃない。どうせそのうちアンデッド系のモンスターだって出てくるわよ?」


 ゲーム。ゲームなんだよな……


「まあ、今日の夜にでも行くつもりなんで」


「そう。今日がライブじゃないなら、ショウ君が怖がってるのを見るのも悪くなかったわねえ」


 くっ……


「こんにちはー。ミオンさんの投稿動画はできてますかー」


『あ、はい』


 ヤタ先生が現れて、今日の動画の確認をしてくれる。

 アップしてからコメントの様子をしばらく見ないとだし、部活は飯と罠の仕掛け直しで終わりかな?


「いいですねー。アップしちゃってくださいー」


『はい』


 公開してしばらくするとみるみるうちに増えていく再生数……

 そして、コメント欄にマイホームについての感想が増えていく。


「それでー、この幽霊屋敷みたいなのはなんですかー?」


「ショウ君の新しい家候補だそうですよ」


 面白そうにそう答えるベル部長。

 立地としては悪くないんだけど、さすがに幽霊屋敷に住むつもりは……

 ああ、あれ解体して建て直すって線はありかもしれないな。

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