第79話 一寸先は……
「グウゥゥゥ……」
マジかよ……
【レッドアーマーベア】
『アーマーベアの突然変異種。もしくは生命の危機を感じた個体が稀に変異するとも言われる』
表皮のアーマー部分。もともとは濃い灰色だった部分が赤黒く変色し、熱を帯びているかのように周りの空気を揺らめかす。
「ガアアァッ!」
「やばっ!」
突進してきたアーマーベア……レッドアーマーベアをかわすと、奴はそのまま後ろにあったパプの樹に突っ込んでそれを薙ぎ倒す。
『ショウ君、逃げた方が!』
ミオンの声が聞こえてくるんだけど、ちょっともう……
完全にバーサーク状態のレッドアーマーベアは、もうこちらに向き直り、確実に俺をロックオンしている。
裂傷状態は続いてるけど、怒りでそれを忘れてるっぽい。
喉元には麻痺ナイフが刺さったままなんだけど、筋肉か何かで奥まで届き切らなかったか……
「今からは無理そう。ルピ、俺がやられたら逃げ……」
「バウッ!」
食い気味に拒否されるのは嬉しいんだけど困る。
ミオンの話だとルピもちゃんとリスポーンするらしいけど、やられるところは見たくないし……
「グルァアアァ……」
ゆらりと近寄ってくる奴からの圧がすごい。
これは、目を離した瞬間にどちらかの腕が襲いかかって来るな……
「グガァッ!」
右腕の横振りが来て、後ろに下がろうとしたところで木の根が足に、
「やばっ!」
ギィィィン!
胸部の鉄板が奴の爪を防ごうとして悲鳴を上げ、同時に強烈な衝撃が俺の体を吹き飛ばした。
吹き飛ばされた俺は、さらに後ろにあった樹に思い切り叩きつけられ、HPの5割を一気に失う。
「くっ、ゲームバランスおかしいだろ!」
ポーチの笹ポに手を伸ばして一気にあおるとHPは徐々に回復し始める。
こういう時に即効性がないのは辛い……
「ウゥゥ……、バウッ!」
ルピが俺の回復時間を稼ごうと、必死になってタゲを取ってくれているが、重い腕を狂ったように振り回されては避けるのが精一杯……
「ルピ! 戻れ!」
その声に反応し、距離を取ってからこちらに向かって駆け出すルピ。
今なら行けるはず!
「光の精霊!」
その呼びかけに、首にかけてあった精霊石から小さな光の玉が奴の目の前まで進むと……フラッシュのようにカッっと眩い光を放つ。
「ギャアアアアッ!」
薄目にしていても眩しいそれを直視した奴が両手で顔を覆う。
「ルピ、ついてこい!」
「ワフ!」
今のうちに距離を取れば、
『逃げ切れそうですね!』
「いや、倒す」
『え?』
ミオンが驚いてるが説明してる暇はない。
今日この瞬間が一番チャンスがあるはず……
「ルピ、吠えてくれ」
「バウッ! バウバウッ!!」
その声に反応し、まだちゃんとは見えてないままに突進してくるレッドアーマーベア。
熊って時速40kmで走るっていうけど、マジだな、これ。
「<石壁>!」
四つ足で走ってくる奴の進路に腰ほどの高さの石壁を作る。
それにまともにぶつかってくれれば……
ドゴッ!
『そんな……』
「やっぱり粉砕するよな! ルピ、行くぞ!」
頭からぶつかったにも関わらず、少し頭を振ってまた動き始める。
もうこちらが見えてるのか、まっすぐ追いかけてくるし、打てる手はもうあと一つ。
「ルピ、西だ!」
先導してくれるルピに進路を伝え、森の中をひたすら走る。
だんだんと加速してきた奴の足音が大きくなってきて、間に合うかどうか微妙な線。
「ワフ!」
「よっし!」
立ち止まり、振り向く。
そして、目の前にもう一度同じ高さの、
「<石壁>!」
「ガアアァァ!」
同じ手を喰らうつもりはないとばかりに、石壁を飛び越えて襲い掛かろうとする奴を、
「くっ!」
ルピを抱え、左へと倒れ込むように避ける!
………
ザッパーン!
俺たちの後ろには何もない。地面も。
その先は3mほどの崖となっていて、下には当然海が広がっている。
「ワフ!」
「ルピ、ちょっと待っててくれ」
鎧を脱ぎ、インベントリからロープを出して、ルピに預ける。
『え、ショウ君何を?』
「トドメ刺してくる」
熊は普通に泳げるって親父に聞いた記憶がある。離島とかにいる熊は本土から泳いで渡ったりした奴なんだとか。
「水深は大丈夫そうだな。せーのっ!」
さすがに頭から飛び込むのは怖いので足から着水。その勢いのまま、潜って水中に目を凝らす。
海藻目当てで取った水泳と潜水のスキル、こんなとこで役に立つとは思わなかったけど……いた!
自重のせいでより深い場所でもがくレッドアーマーベア。
必死になって浮上しようと犬かき……熊かきしてるが、そうさせるつもりはない。
ん? あれは……うまく当たるか?
「<石礫>!」
奴の喉元に集中して打ち出した石礫。
それが刺さっていたナイフを深く押し込むと……麻痺が効いたのか、気管を潰したのか、奴の動きがゆっくりとなって、そのまま停止した。
「ぷはっ!」
「ワフッ!」
『ショウ君! 大丈夫ですか!?』
「うん、大丈夫。ルピ、ロープ寄越して」
「ワフン」
放り投げてもらったロープを持って待つことしばし。レッドアーマーベアがぷかりと海面に浮いた。
せっかく倒したのに流されちゃったらもったいなすぎるし、ちゃんと回収しないと……
【キャラクターレベルが上がりました!】
【キャラクターレベルが上がりました!】
【キャラクターレベルが上がりました!】
【元素魔法スキルのレベルが上がりました!】
【元素魔法スキルのレベルが上がりました!】
【短剣スキルのレベルが上がりました!】
【精霊魔法スキルのレベルが上がりました!】
【水泳スキルのレベルが上がりました!】
【潜水スキルのレベルが上がりました!】
【エリアボスを討伐しました】
【セーフゾーンが追加されました】
【島南部エリアを占有しました】
【エリアボスが単独で討伐されました!】
【エリアボス単独討伐:10SPを獲得しました】
「うわぁ……」
『ショウ君! 海のモンスターが出るかもです!』
「あっ、やべ!」
ロープをレッドアーマーベアに巻き付けて、少し南に見える岩棚まで泳ぐ、泳ぐ、泳ぐ。
こんなところで、クラゲみたいなモンスターにやられたら、オチとしてしょうもなさすぎる……
【水泳スキルのレベルが上がりました!】
「ふう……」
「ワフ、ワフ」
なんとか岩棚の上に引き上げて腰を下ろすと、ルピが崖を伝って降りてきた。
なるほど。そういうふうに伝っていけば、ここと行き来できるのか。
「ありがとな、ルピ。やっとリベンジできたな」
「ワフ〜」
嬉しそうに顔を舐めてくれるのはいいんだけど、しょっぱくないのかな?
『ショウ君、無茶しすぎです……』
「あー、ごめん。今、倒せないと次はもう警戒されて無理かなって気がして」
火球にしても、麻痺ナイフにしても、光の精霊の閃光にしても、やるときは一発勝負だと思ってた。ただ、もうちょい先のはずだったんだけどなあ。
「で、やっぱりワールドアナウンスされちゃった?」
『あっ、多分そうだと思いますけど、フォーラム見てきますね!』
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