第80話 お問い合わせ内容を精査中

 仕留めたレッドアーマーベアを担いで帰るのは不可能なので、さっさと解体。

 結果、肉、骨、皮を大量にゲットしたんだけど、驚いたのは中サイズの魔石。野球のボールぐらいのサイズがある……


「インベに収まらないな。ルピ、バックパック取ってくれるか? 多分、あのルディッシュが生えてたあたりに置きっぱだと思う」


「ワフ」


 そう答えると一足飛びに崖を登っていってくれる。

 ミオンが戻って来るまでは、何がどれだけ上がったか確認でも……


『戻りました。やっぱりワールドアナウンスされてました』


「ありがと。ちなみに『エリアボス単独討伐』ってやつかな?」


『です。フォーラムの皆さんはそもそも「エリアボス」について知らないみたいでしたが……』


「うん、俺も知らなかった」


 そもそもエリアとかに分かれてるゲームだったんだって感じだよ。この無人島だけが特殊って可能性もあるけど、さすがにそんな無茶苦茶なことはないと思うし。


「ワフン」


「お、ルピさんきゅ」


 崖上から覗き込んでるルピの隣にバックパックが見える。

 あいつ、大暴れしたし、ズタボロになってるかもと思ったけど良かった。


「ともかく、いったん洞窟に戻るよ。今って何時ぐらい?」


『10時過ぎです』


「戻って整理したら、今日は終わりにするかな」


 いろいろとレベルアップしたのは、明日の部活の時でいいか。


『あの、ショウ君』


「ん?」


『ベル部長から「ワールドアナウンスについて聞きたい」って』


「……りょ」


***


「お疲れっす」


『お帰りなさい。お疲れ様でした』


 待っていたのは、ミオンにベル部長、さらにはセス美姫も。


「ごめんなさいね。ライブが終わって、ちょうど上がろうとしたところでだったから」


「で、あのワールドアナウンスは兄上なのであろう?」


 だから、バーチャル部室でまで椅子の上に立つなよ……


「いいからちゃんと座れ。今から見せるから」


 セスがちゃんと座り直したところで、さっきの動画のアーカイブを取り出す。

 ミオンの声は別チャンネルで入ってるので、そっちはミュートしておくか。

 確かこの辺りからだから、20分弱ぐらいかな……


 スクリーンに映し出されるのは、何か異変に気づいたルピ。そして、大根……ルディッシュをかじっている俺。

 程なくしてアーマーベアがポップして戦闘が始まる。


 ………

 ……

 …


「うむうむ! さすが兄上よの!」


 レッドアーマーベアが海面に浮いたところで流れる多数のレベルアップ。

 続いて、ワールドアナウンスと特殊褒賞SPが流れたところで再生を止めた。

 得意げなセスと目を丸くしているベル部長。


「えっと、大体わかったけど、最後に海に潜った後はどうやって倒したのかしら?」


「あー、喉に麻痺ナイフが刺さってましたよね。あれってちゃんと刺さってなかったんで、<石礫>の魔法を撃って押し込みました」


『そうだったんですね。配信のカメラが海面しか映してくれなくて、ハラハラしてました』


「そういや映ってないな。配信のカメラって水中に入ってくれない?」


 AIがいい感じにカメラ位置を調整してくれるので、見てる方はプレイヤーの行動もその意図もだいたいわかるっていう優れもののはずなんだけど。


「仕様なのかしら? でも、それだとこの先、水中戦をミオンさんが見れなくて困るわね。運営に報告した方がいいかもしれないわ」


「案外、海面のコリジョン設定にミスがあって潜らなかったのかもしれんのう」


 セスが何か難しいことを言ってるが、要は地面みたいな扱いだったってことかな?


「バグなのか仕様なのか、運営に問い合わせてみたらどうかしら?」


「なるほど……」


 ああ、あとおかしいと言えば、


「最初にアーマーベアが近くにポップしたのって、ああいうもんなんです?」


「そこはなんとも言えないわね。私は純魔ビルドで気配感知を持ってないもの。セスちゃんはどうかしら?」


「いや、我も気配感知は取っておらんな。見てから盾で防げば良いと思っておるのでな」


 くっ、パーティー前提なビルドしやがって……


『そのことも運営さんに聞いてみるのはどうですか?』


「あー、そうするか。報告ってことは一回IROにログインしないと?」


「その必要はないわよ。運営のお問い合わせに投げればウェアアイディからプレイヤーがわかるもの」


 じゃ、さっそく投げておくかな。

 そういや、自分で公式ページを開いたのって登録の時以来?


「で、エリアボスってなんなのかしら?」


「いや、俺もわかんないんですって」


 えーっと、時間は9時40分から10時ぐらいでいいのかな。

 発生した内容……二つ別々に書く方がいいのか?


『ショウ君、簡単に状況をまとめたのでこれを』


「うわ、さんきゅ」


 ミオンが渡してくれたテキストをコピってペーストっと。


「ふーむ、形態変化はボスゆえ当然として、もっとダメージが入ってからかと思うのだがのう」


 セスが勝手に操作して動画を見直しているが、まあ好きにしてくれって感じ。

 ただ、ダメージの話はうなずけるところがある。


「俺の麻痺ナイフが絶妙な当たり方したせいとか?」


「その前のルピちゃんが与えた裂傷が大きいんじゃないかしら?」


「ふむ。未だ【狼?】のままなのであったな……」


 俺よりもルピが強かったってことなら納得せざるをえない。

 っと、これ返事を受け取るのはメッセかゲーム内でか。……なんでゲーム内?


「これでいいかな?」


『はい、大丈夫だと思いますよ』


 じゃ、送信っと。

 送った内容はいったんAIで精査されて、すぐに答えられるような質問の類なら5分もしないうちに返事が来ると書かれてた。


【お問い合わせ内容を精査中...】


 という表示が出ているのでしばらく放置。


「それで、この動画はいつアップされるのかしら?」


「え? えーっと……」


 思わずミオンを見る。

 編集に関してはほぼノータッチなので申し訳ない感じ……


『次の火曜はロープを編んだり、弓を直したりですし、木曜は鍛治と裁縫の話になるので、その次でしょうか?』


 昨日のライブでその辺り作ったものは説明したけど、工程は全然説明してないもんな。

 まあ、妥当な線だと思うんだけど、


「なんかまずいことが?」


「まずいというわけでもないけど、少し早めに公表した方がいいかもしれないわ」


 ベル部長曰く、ただのアーマーベアが、エリアボスのレッドアーマーベアに変わる可能性、いや、危険性は早めにプレイヤーに周知した方がいいとのこと。


「うーむ、我やベル殿がサエズッターで拡散するわけにもいかんしのう」


 だよなあ。コラボで繋がりがあるとはいえ、情報回すのが早すぎるってなるし。

 そもそも無人島の情報はミオンのチャンネルでって決まりを破ることになる。


『なるほどです。でも、今日はもう』


「ええ、明日、部活で話しましょ。ヤタ先生の意見も聞きたいわ」


 ということでお開きに。

 さっきのお問い合わせを見ると、


【お問い合わせ内容はGMチームへと転送されました】


 となっていた……

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