第78話 いきなり辛い

 ミオンとぐだぐだと喋りながら革鎧、いや、複合鎧を製作中。

 ルピはいつものようにバイコビット2匹を狩って帰ってきて、おやつを食べてお昼寝モード。


『あの古代遺跡の鉱石が出る場所、ここの採掘場と良く似てましたね』


「そうなんだよな。でも、あっちは普通にモンスター湧いてたし、こっちも湧いたりするようになるのかな」


『それは……掘ってる最中に襲って来られると嫌ですね』


「そそ」


 インベをできるだけ空けて、装備も外して積載量を増やしてから掘りたいんだけど、そんな時に襲われるのはやばい。

 ルピに頼りっきりってわけにもいかないし。


『あそこの第二階層の奥の扉って、やっぱりレベル制限とかいうものでしょうか?』


「多分? 前にベル部長が行ってた塔も10階までしか行けなかったし、それと同じなんじゃないかな」


 今のレベル上限でも無理とかにしてあって、実態としては未実装ってパターンかもだけど。


「でもまあ、第一、第二階層だけでも鉄鉱石が取れるし、あのあたりの開発は一気に進みそうだよな」


『セスちゃんが喜んでました』


「王国は鉱山があまり見つかってなくて、足らない分は共和国から仕入れてるんだってさ。今って共和国と往来が難しいし、王国にとっては渡りに船だろうって」


『そういえば、セスちゃんが助けた商人さんが武具を取り扱ってましたね』


 古代遺跡っていうか、ダンジョンだけど、冒険者がモブ狩りしつつ鉱石を掘ってきてくれればって感じかな。

 そうなると一気に鉱山街に発展しそうな予感。


「よし、できた!」


【裁縫スキルのレベルが上がりました!】


『おめでとうございます』


「さんきゅ」


 これで裁縫スキルも5になって人並みになった感じかな。

 で、さっそく出来上がった鎧を鑑定。


【革と鉄の複合鎧】

『ランジボアと鉄板を組み合わせた複合鎧。防御力+25』


「おお! 防御力、一気に20上がった!」


 初心者の革鎧を参考にランジボアの革で作り直し、胸・腹・背中・肩の部分に厚みのある鉄板を装着した鎧。

 ナットが身につけてたやつを参考にしただけだけど、予想以上にちゃんと作れたっぽい。


『着てみてください!』


「おけ」


 鑑定結果はともかく、装着感を確かめないとな。


「んー、やっぱ重いけど、これくらいなら平気だな」


 STR結構上げたおかげかな。

 両肩をぐるぐると回してみるけど特に違和感はなし。左右に体を捻ってみたり、前屈なんかの体操をしてみたけど、どこかが干渉してって感じもしない。


「うん、大丈夫」


「ワフ?」


 俺が立ち上がって体操を始めたからか、起きてきたルピが「散歩に行くの?」って期待の眼差しを……


『ずっと作業してましたし、少しお散歩に行ってみるのはどうですか?』


「ん、そうするか。まだまだ時間あるし、西の森まで行ってみるよ」


『はい!』


「ワフッ!」


***


 せっかくなので採集も兼ねつつ西の森を散策中。


「ワフワフ」


「お?」


 ルピが何か見つけたらしく、前足で土をかいている。


『なんですか?』


「これは……」


【ルディッシュ】

『太い根を持つ野菜。

 料理:葉・根ともに食用可能。根は辛味があるが、熱すると消える』


「うん、これは間違いなく大根」


『やりましたね。どんな料理にします?』


「とりあえず大根おろし? 昨日のフラワートラウトにも合いそう。あとは大根の葉は炒め物とかにすると美味しいし」


 持ってきてたスコップで周りを掘って行くと、スーパーでよくみる大根とはちょっと違う、短く太い根っこが出てくる。


『なんだか普段見るのと違いますね』


「だね。ちょっと味見してみるかな」


『え?』


 ミオンが驚いてるけど、大根は別に生でも食べれるよ?

 浄水の魔法で軽く洗ってから、小さく一口かぷっと……


「んー……辛っ! うわっ! めっちゃ辛い!」


「ワフ……」


『ショウ君……』


 やべえ、呆れられてるけど、それどころじゃなく辛い。

 リアルの大根の辛さぐらいなら、しばらくすれば収まるけど、その倍は辛い気がする。


「はー、辛かった。でも、煮込めば普通に美味しくなる気がするな」


『そうなんですか?』


「だって、おでんとか大根美味しいし」


『それはそうですけど……』


 まあ、おでんには醤油も砂糖も必要だろうし、兎肉と煮込む感じかな……ん?

 ふと見ると、ルピがグッと四肢を踏ん張って木々の向こうを睨んでいる。


【気配感知スキルのレベルが上がりました!】


 あ、まずい、これ……


「グルアァァ!」


『きゃっ!』


 突然、茂みの向こうに現れたアーマーベア。

 ミオンが驚いて生声の悲鳴をあげる。


「おいおい、すぐそばにポップするとか、マジ勘弁なんだけど……」


「ウウゥー!」


 ルピはもう完全に戦闘態勢に入ってるし、距離的に逃げられそうにない。

 ここはもう勝負するしかないか……


 右手に斧を構え、左手はとっておきのために開けておく。

 それはもちろん、ベルトのナイフケースに刺してあるアレ。


「グアアッ!」


 右腕から繰り出された大きな振り下ろしを後ろに避ける。

 隙があるようなら、その腕に斧を振り下ろそうかと思ったけど、アーマーのあるところにしか攻撃できなくて思いとどまった。


「バウッ!」


 ルピの右前足が、アーマーベアの左後ろ足を薙ぐが、脛のアーマー部分に当たったのか、硬質な音を響かせるだけ。


「ルピ、狙うなら膝か太ももの内側にしとけ」


「ワフ」


 何度か動画を見返した感じだと、関節部分や外にあまり出ない側にはアーマーがないらしいし。


「ガアッ!」


 足にちょっかいを出されてヘイトが変わったのか、今度はルピに向かって両腕を振り下ろすアーマーベア。

 大振りなそれで、今のルピを捉えることができるはずもなく、スッと避けられて地面を叩く。


「ルピ、離れろ!」


「ワフ!」


「<火球>!」


 テニスボール大の火球がアーマーベアの右顔面に直撃して弾けた。


「ギャァァッ!」


 思わず悲鳴をあげて後ずさるアーマーベアに、ルピの追撃が入る。

 先程の場所より少し上、左後ろ足の膝に太く3本の傷が刻まれた。多分、裂傷——動くたびに少しずつダメージが入る——状態になってるはず。


「ルピ戻れ! ……<石礫>!」


 もう一度、顔面を狙って石礫を放つ。

 散弾となって飛んでくる小石に、思わず腕をあげて顔を隠すアーマーベア。

 チャンス!


「<ナイフ投げ><急所攻撃>!」


 しっかりと喉元に刺さったナイフには当然、サローンリザードの毒腺から抽出した麻痺毒が塗られている。

 せめて30秒効いてくれれば……


【アーマーベア:形態変化中】


 嘘っ!?

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