第77話 初心者装備脱出?

「はぁ……」


「ただいま、兄上!」


 ライブを終えてバーチャル部室に戻ってきた二人。

 セス美姫が元気なのはいいとして、ベル部長はお疲れのご様子。


「お疲れっす」


『お疲れ様です』


 時間は午後4時前。

 1時過ぎから始めて、2時間ちょいのライブだったけど、いろいろと見るべき点が多く参考になった。


 ただ、古代遺跡のダンジョンはあっさり。第二階層の奥の扉が開かなくて進めずって状態。

 ダンジョン内部は、ところどころに無人島の鉱床と同じ、鉱石が掘れる場所もあって価値は高そう。

 道さえ整備できれば、初心者を抜けたあたりの人にちょうどいいぐらい?


「どうだ、兄上。参考になったか?」


「ああ、アーマーベア戦も見れたしな。戦い方は真似できそうにないが、弱点というか攻撃が通る場所はわかったよ」


 馬鹿正直に切りつけても、名前の通りアーマーと化した表皮に弾かれるっぽい。

 セスが攻撃を受け止め、ナットが大剣で殴りつけてよろめかせたところを、レオナ様が首筋を一閃。

 逃げ出そうとするそいつは、きっちりとポリーいいんちょの樹の精霊に転ばされるっていうね。

 ……ソロには無理な攻略方法でした。


『部長、大丈夫ですか?』


「ええ、大丈夫よ。と言いたいところだけど、レオナ様と組むのは疲れるのよ」


「そうなんです? なんか、思ってた以上に仲が良い感じでしたけど」


 ベル部長は少し有名になり始めたあたりから、レオナ様やアンシア姫なんかに呼ばれてたし、同じ独立系のよしみみたいなのはあったんだと思う。

 けど、それ以上に親しげに「ベル」って呼んでた気がしたんだよな。


「今日は組んだメンバーが全員うまく回ってたもの。ミスが多くなると途端に不機嫌になるわよ……」


 ああー……なんとなくわかる。

 というか『レオナ様とパーティー組むには相応の腕が必要』って言われてるし。


『そうなんですね。知りませんでした』


「ミオンはレオナ様のライブはあんまり見てなかったり?」


『はい。切り抜き動画を見て、アクションゲームがすごい上手な人っていうのは知ってました。でも、ライブでは黙々とプレイしている人だったので……』


 ミオンの趣味には合わなかった、と。

 ベル部長みたいに視聴者とやり取りしながら楽しくプレイが好きな感じだもんな。


「とはいえ、あの手のストイックなタイプは、しっかりと非を認めればそうも怒らぬであろう?」


「ええ、まあそうね。IROは対戦ゲームでもないし、もう少し気楽にしてても良かったのかしら」


 まあ、ベル部長からしてみれば、いろんな意味で大先輩だろうし、自然と緊張しちゃうのかもなあ。


「ところでセス。お前、ダッズさんと話はしたのか?」


「うむ、夜のライブ前に改めてということにしておいたのだ。

 我だけで決めて良いことかも測りかねるゆえ、ジンベエ殿にでも同席してもらおうかと思っておる」


 師匠か。多分、リアルでは一番年上だろうし、適任な気がする。


「はいはいー、そろそろいったんお開きにしましょー」


 パンパンと手を叩くヤタ先生。

 そろそろ、夕飯の支度しないとだよな。


「ん? どうしたの、ミオン」


『今日のお夕飯はなんですか?』


「え? いやまあ、普通にニラ玉、鶏ささみサラダ、中華スープかな?」


 その答えに嬉しそうなのはセス。ニラ玉好きだもんな。

 そして質問したミオンはというと、


『今度、食べさせてください……』


 うん、まあ、うち来てくれるんなら良いけど……


***


『ニラ玉美味しそうでした……』


「いや、特別なこと何もしてない普通のニラ玉なんだけど」


 夕飯も終わってIROへ。

 セスがサエズッターに乗せた夕飯の写真を見たらしいミオン。


 そのセスと部長は今日のライブでプレイヤーズギルド「白銀の館」を公表するらしい。

 もともとアミエラ領をメインにしてる人たちから広まってるそうだけど、正式発表って感じかな。


「ルピ、昨日の燻製でいい?」


「ワフッ!」


 軽く炙って温かいの出してやると美味しそうに食べ始めるルピ。

 さて、今日は初心者の革鎧を卒業するか。


『今日は鎧を新しくするんですよね?』


「うん。ランジボアの革もあるし、鉄板も用意できるしね」


 今日のセスのライブでナットの革鎧をいろんな角度から見せてもらったし、初心者の革鎧も参考にすれば作れるはず。


「これ脱いで見ながら作れば良いか」


 装備から初心者の革鎧を外して観察。っていうか、バラせば良いじゃん。

 裁縫スキルがあるおかげか、メンテナンスのためにバラすことはできるっぽい。


『分解するんですか?』


「うん。手入れのためにバラせるっぽいし、これで型をとればサイズをミスることはないかなって」


『なるほどです』


 そういや、店売りの鎧とかってサイズどうなってるんだろ?

 普通のゲームだとサイズ問題とかないよな……


「ワフ」


「ん、ルピ、ごちそうさまかな。じゃ、またバイコビット狩ってきてくれるか?」


「ワフン!」


 そう答えて密林の方へと駆けていく。

 ルピにレベルがあるとしたら、もうこの辺のモンスターじゃ経験値もなさそうだし、やっぱりさっさと西側を、あのアーマーベアをなんとかしないとな。


『鎧を新しくしたら、いよいよアーマーベアですね』


「そのつもりだけど、まだちょっと決め手に欠けるんだよな」


 どこを攻撃すればいいとかはわかったけど、そのための前段階がまだ思い浮かばない。

 前回のゴブリン戦は、最後にゴブリンリーダーが出てきた以外は想定内だったし、奥の手の麻痺ナイフも効いてくれた。


「あのアーマーベアに今の麻痺ナイフは効きそうにないんだよなあ」


 アーツの<投げナイフ><急所攻撃>で、うまく刃が通るところにヒットしたとして、麻痺の効果時間はかなり短そう。

 ゴブリンリーダーの時に約5分だったことを考えると1分ぐらい? その間に仕留めきれるかどうか……


『魔法は効きづらい相手なんでしょうか?』


「魔法か……。そういえば、せっかくゴブリンマジシャンから魔導書拾ったのに、石壁以外に使ってないな」


『元素魔法なら部長にアドバイスがもらえそうですし』


「明日の部活でちょっと聞いてみるか」


 今日のはベル部長が魔法打つ前にアーマーベア倒しちゃってたもんな。

 レオナ様がいて、初心者に近いポリーいいんちょもいたからか、裏方というかサポートに徹してた感じ。

 純魔ビルドだとどう対応してるのかはちょっと気になる。


『精霊魔法はどうですか?』


「うーん、光の精霊だし、閃光で目潰しとか?」


『……なんだか見境なしに暴れ始めそうな気がしますね』


 なんだよな。まあ、それで持久戦になれば?

 麻痺と同じであっさり立ち直られそうな気もするな。だいたいのゲームだとその手の状態異常は二度目、三度目は効きが悪くなるお約束あるし。


ポリーいいんちょの樹の精霊魔法はすごかったよな。あいつを転ばせてたし」


『そうですね。ショウ君も樹の精霊魔法が使えるようになるといいんですけど』


 樹の精霊を使えるように、か。

 何か方法はあるはずなんだろうけど……

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