第76話 ベルとレオナと……

<ショウ君、このライブ、最後まで見たいんですがいいですか?>


<え、あ、うん。俺も最後まで見たい>


 いきなりウィスパーされてビックリしたけど、ちゃんとウィスパーで返す。


 セス美姫、ナット、ポリーいいんちょだけだったら、挨拶だけしてIROへと思ってたけど、魔女ベルに雷帝レオナ様と揃ってるこの状況は見ていたい。

 それに、今から途中抜けするのは、俺たちの視聴を歓迎してくれてるレオナ様に悪い気がする……


『それで、どこへ行くつもりだったのかしら?』


『いや、特には決めておらなんだな。3人で手頃な場所と考えておったが』


『じゃ、古代遺跡へ行かないかい?』


 そう切り出したのはレオナ様。

 そういえば自力で発見して、そのまま突っ込んでったって話があったと思うんだけど、その時どうなったのかは知らないな……


 と、ポリーいいんちょがナットが背負ってる大剣をちょんちょんと突く。


『あー、すまんが、この娘は見ての通り新規組なんだ。いきなり古代遺跡はちょっと辛いかもしんねーんだが』


 どうやら著名Vとの遭遇から立ち直ったらしいナットが申し訳なさそうに伝える。

 なんだけど……


『大丈夫だよ。いざとなったら、ボクが守ってあげるからね』


『は、はい……』


 レオナ様にそっと手を取られて惚けてしまうポリーいいんちょ……

 ふと、視界のはしで動いたヤタ先生を見ると、


【キマシタワー】


 思わず吹き出しそうになるのをグッと堪える。

 隣のミオンは……よくわかってないのかキョトンとしてるな。


『レオナさん……』


『おっと、これ以上はベルが怒るからね』


 パチンとウインク一つ。

 ライブの時は修羅みたいなウォーマシンなんだけどなあ……


『はあ。じゃ、古代遺跡でいいかしら?』


『うむ!』


 ………

 ……

 …


 前線拠点から古代遺跡までは、歩くと3時間はあるそうだが、今はもう馬車で移動できるらしい。

 今はその乗合馬車の中で雑談中。


『古代遺跡方面の最前線は、昨日の夜に仮のものができたところよの』


『おかげで大助かりだよ。乗合馬車と認識されると移動が5分で済むからね』


 セスがそう話してくれ、レオナ様が答えてくれる。

 なるほど。ちょっと時間のかかるポータルみたいな扱いにしてくれるのか。


『ただ、まだ村とも言えぬ状態なのでな。寝泊まりログアウトすることはできぬ。もう二、三日あればといったところかの』


『人は足りてるのかしら?』


『プレイヤーの方は十分だな。レオナ殿とベル殿のおかげもあろう。

 加えて「白銀の館」でクエストを出せるようになったおかげで、王都でクエストを探していたプレイヤーも増えておる』


 有名V二人にクエスト完備、帝都とは反対側で内戦の余波も来ないってなりゃ、そうなるか。けど……


『NPCはどうなの?』


 プレイヤーはログアウトしていなくなることが前提。

 休日はともかく、平日は深夜から夕方までプレイヤーも減るはずで、そうなるとNPCは必須な気がする。


『帝国からの難民のうち、王国への亡命を希望する所帯持ちを選んで採用しておる。昨日、今日は問題なさそうではあるが、問題は明日以降よの』


『家族連れに悪人は少ないだろうってことか』


『なるほどね』


 なんだかいろいろと考えてるっぽいが、あのミーティングにいた人たちがうまく回してくれると信じよう。


『そういえばベル、アンシアもIRO始めたそうだけど?』


『ええ、知ってますよ……』


 ちょっと面白そうな感じで問いかけるレオナ様に、うんざりしたご様子のベル部長。


 氷姫アンシア。

 ゲーム実況系バーチャルアイドルの中でも、特にシミュレーションゲームを得意とし、特に対人戦ではそれはもう氷のような冷酷さをもって……

 ベル部長も前にシミュレーションゲームで対戦コラボして、ボコボコにされてたからなあ……


『まあまあ、アンシアもベルのことが好きだから』


『わかってます。でも、アンシアさんはなんというか……』


『あはは、あの子は好きな子をいじめちゃうタイプだからね』


 なるほど、そういう……って、ヤタ先生【キマシタワーx2】とかいいですから!


『では、IROでもウォーシムをするつもりということかのう?』


『まあ、ボクやベルがこっちにいるのを知ってて共和国に行ったからね。多分、そのつもりなんじゃないかな』


『ほほう……』


 そうニッコリとセスに笑いかけるレオナ様に対し、セスはとニヤリとして……完全に面白がってるな、これ。


『セスちゃん、ほどほどにね?』


 ポリーいいんちょがそう声をかけると、セスも表情を戻しておどけたように答える。


『ふむ、今はお互いそれどころではあるまい。帝国の内戦がなんらかの形で決着せねば、王国と共和国が戦うというようなことにはならんだろうしの』


『俺はセスちゃんがマジにならないことを祈るよ、ホント……』


 ナットがぽろっとそうこぼし、俺もそれに同意しそうになって、慌てて口をつぐむ。

 リアルのセスを知らないのが二人、いや、一応ミオンも入れて三人。余計なことは言わない方がいいだろう。


『さて、着いたようだね』


 一行が降り立ったのは、まだちょっとしたキャンプ地って感じの場所。

 寝泊まりできる施設は鋭意製作中って感じで、立てかけの家屋がちらほら。


『姐さん! お帰りなさい!』


『うん、ただいま。ちょっとベルたちと古代遺跡に行くけどどうする?』


『はっ! 人足を集めて参ります!』


 あれは確か雷帝レオナ親衛隊長のダッズさんだったかな。

 ドワーフってことは限定オープンには入れてなかったのか……


『えっと、どういうことかしら?』


『ああ、古代遺跡までの道を作っておきたくてね。ここから10分もかからないぐらいだし、そっちのギルドにとっても悪くないだろ?』


 とセスを見るレオナ様。

 乗合馬車を降りて、さくっと古代遺跡に行けるようにしておけば、訪れるプレイヤーも増えると。

 遺跡からのドロップ品はセスのギルドで扱えるし、消耗品も売れるしで……


『ふーむ、ありがたい話ではあるが、こちらが得をしすぎであろう。そちらにも何か利があって然るべきだと思うがのう』


『セスちゃんは優しいね。ま、ボクはそういう難しいことは苦手だから、後でダッズと話してよ』


 レオナ様が肩をすくめてそう答えたところに、戻ってきたダッズ氏。


『姐さん、準備整いました!』


 と、その後ろにずらっと並ぶ屈強な男たち。

 手には斧やら鍬やらなのは、先行するパーティーの後を道に整地していくって感じかな。


『うん。じゃ、行こうか』


<洞窟から海岸までの道作りの参考になりそうですね>


<あ、そうだね。しっかり見とかないと>


 やば、完全にただの視聴者として見ちゃってた……

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