土曜日
第70話 ついついやってしまうこと
「んー、完全に一人なのって初日ぶりかな?」
「ワフッ!」
「ああ、ルピはいつも一緒だよな」
あぐらの中で自己主張するルピ。顔をわしゃっと揉んでやると嬉しそうに尻尾を振る。
さて、今日の夜はライブだけど、ダラダラとした配信の予定。急ぐ準備も特に……塩かな。飯テロしたいし。
「ん、良い天気。夜も大丈夫そう」
さくっとルピとご飯を済ませて南の海岸の方へ。
前に払った枝はやっぱり復活してて、ちょっとめんどくさい。
「時間が余ったら、やっぱり根っこから抜いてみるか……」
昨日はログアウトまでずっと鍛治に専念。
カナヅチとナイフの修理も無事できたし、ノコギリもチャレンジしてなんとかなった。既製品みたいな細かい刃は無理だったけど……
それ以外にも木工や石工、細工のための小刀とか彫刻刀っぽいもの。あとはスコップとかカマとかクワとか土木・農耕に必要そうなものとか。
ミオンと二人、思いつく範囲で手当たり次第作ってたら、日付変わりそうになってたっていう……
おかげで鍛治スキルのレベルが5になったんだけど、こんな早くて良いのかな? 細々といろんなものを作った方がスキルレベル上がりやすいとか?
【斧スキルがレベルアップしました!】
【伐採スキルがレベルアップしました!】
「え、斧レベルも上がるんだ……」
振り方とかのコツはわかってきたからそういうこと?
まあスキルレベル5までは基礎って話だから間違ってもないのかな……
そんなことを考えつつ、落とした枝を回収しつつ前進。この後の製塩に薪として役立ってもらう予定。
「ワフッ!」
ルピが海が見えてくると走り出す。元気だし可愛い。
さて、最初は苦労したかまど作りだけど、今回は元素魔法の<石壁>があるから楽ちん。
興味深そうに眺めるルピを傍にかまどを作り終え、その上にどんと載せるのは土鍋。
昨日、鉄鍋作ってそれで煮詰めるのが良いかなと思ったんだけど、なんか錆びる気がしたので保留。せめて油が手に入ればなんだよな。
「さて、沸かしてみるか」
海水で満たしてかまどに火を入れる。
基本的には煮詰めるだけだけど、途中でちょくちょく塩以外——カルシウムとか——が出てくるのを
というわけで空いてる時間は、
「よし、ルピ、行くぞ! それっ!」
「ワフッ!」
投擲スキル上げになるので、ルピと取ってこい遊びを。
そういえば、斧スキルもレベル5になれば<斧投げ>とかできるのかな? 斧ってか手斧?
投げるとくるくる縦回転して、木にさくっとみたいなイメージ。ちょっと憧れるんだよな……
………
……
…
「お、出てきた!」
素材加工スキルとIROのシステムのおかげか、10分に一度、海水を足して煮詰め続けること2時間ちょい。
おおよそ10リットル分の海水が煮詰まって、塩がもこもこと現れ始める。
「そろそろ良いかな」
完全に水分は飛ばさず、ある程度のところで、小さな穴をいくつも開けた大きな葉っぱへと移す。
穴からしたたり落ちる水分は『にがり』ってやつ。豆腐とかに使うアレだけど、今のところは使い道なし。まあ、小瓶に入れてインベ行き。
「意外と苦労せずにできちゃったな。ヤタ先生の言ってた素材加工スキルのおかげ?」
残った塩はこのまま天日で乾かすことに。
量的には300グラムぐらいになるはず。IROの海の塩分濃度がリアルと同じならだけど。
「ワフ」
「ん、そうだな。ずっと同じことしてると飽きるし、ちょっと岩場の方を見に行こうか」
前に気になってた海藻類。昆布とかワカメに近いものがあれば良いんだけど、そうなるとやっぱり水泳とか潜水のスキル必要だよな。
スキル一覧とにらめっこ……の前に検索して発見。どっちもSP1だし取っていいか。
覚悟を決めて両方取得した後で「ルピって潜れないのでは?」って気がついた……
「まあいいや。とりあえず東側の岩場を探ってみるか」
「ワフ」
海藻もだけど、カニとかエビとかいないかな……
………
……
…
「ふう、いったん帰ろうか」
「ワフン」
結論から言うと昆布っぽいものは見つからず。けど、岩海苔っぽい【ビリジール】っていう海藻があったので採集。
エビっぽいやつを見かけたんだけど、岩の隙間に入り込まれちゃったので捕まえられず……
潜水もとったし、漁具的なのも作っとくべきだったかなあ。ヤスとか。
海岸まで戻ってきて、天日干ししていた塩を確認すると、
【素材加工スキルのレベルが上がりました!】
完成したっぽい。やっぱり素材加工のスキルは関係してたんだな。
上がって6になったし、5以上あるなら変な不純物とかも混じってないはず。
小指の先に少しだけ取ってぺろっと……しょっぱっ!
「よしよし、あとはこれを壺にでも入れとけばOK。しばらくは大丈夫だけど、月に一度ぐらいは作らないとかな?」
「ワフ」
……
ルピが返事してくれたんだけど、なんかミオンに話しかけるのが癖になってるな。
***
ライブもあるので、ちょっと早めの夕食。
美姫も早めにIROに行きたいということなので、今後も土曜はちょい早めかな。
今日の夕飯はオムライスにシーザーサラダ(惣菜品)とコーンスープ(インスタント)の組み合わせ。
ケチャップライスは良いとして、オム部分をふわっと作るのが難しい……
「ふむ、今日のライブはまったりなのだな。では、後日確認するとしよう」
「それでいいよ。で、お前、ギルドの方はうまく回ってるのか?」
「我は名前を貸しただけゆえな。実務は周りの皆がやってくれておる」
そう言ってオムライスをパクッと一口の美姫。
そりゃ、そうなるよなあとは思うものの、釈然としないものが……
「で、ナットといいんちょもギルドメンバーに?」
「いや、紹介はしたが、入るか入らんかは本人次第なのでな。ちなみにポリー殿はあっさり光の精霊を使えたぞ」
ポリーって誰だっけ? っていいんちょだったよな。うんうん。
「そりゃ良かった。俺の時は精霊石を使うだけだったんだけど、何か特別なことってあったか?」
「いや、どうやら最初に精霊石にMPを与えた者に従うようだの。そのために精霊魔法スキルが必要なのだろう」
オムライスを食べ終えて、コーンスープに口をつける。
「なるほど。最初に見たのを親と思うみたいなあれか」
「インプリンティングというのだぞ、兄上」
「……わかったから、お前はもっとお行儀良く食べろ」
スプーンを人に向けるな……
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