第69話 素朴な疑問

「じゃ、俺はこもって作業だし、ルピは遊んできていいよ」


「ワフッ!」


 元気に駆け出すルピを見送って、俺は洞窟を抜けて古代遺跡へと。


『先に採掘ですか?』


「うん。採掘して、炉でインゴット作ってる間に、鍛治をやれば並行してできるかなって」


 待ち時間の15分をうまく活用しないとなと。

 焼き物なんかも結構待ち時間があるし、その辺り三つ四つ並行してできれば、ぼーっとすることもなくいろいろとこなせるはず。


『そうなると石窯もあの部屋に置きたいですね』


「なんだよね。一回試してみるかなあ」


 換気さえまわってくれれば、中においた方が断然いい。雨の日も石窯使えるし。


「明日ライブだけど、ミオンは昼は習い事なんだよね?」


『はい、すいません』


 塩作りはその間にやるかな。ひたすら海水を煮詰めるっていう単調な作業になりそうだし。

 それにしても、


「いや、別に謝る事じゃないって。それに高校まで習い事続けてるってすごいと思うよ」


 昔ちょっとだけ書道教室に行ったことあるけど、半年も続かなかったしな、俺。

 それにしても、ミオンってなんの習い事してるんだろ。やっぱりピアノとかそういう?


「……なんの習い事してるか聞いていい?」


 聞いて良いのかかなり葛藤したけど、どうしても好奇心には勝てずについ聞いてしまった。


『えっと、ボイストレーニングです』


「ああー」


 普段、声が小さいの気にしてるからってことなのかな?

 別にそこまで気にすることもないような……。いやでも、生の声をたまに聞かせてくれるけど、すごくいい声だったもんなあ。


『あの、変でしょうか?』


「え、いや。ミオンの声ってすごく良い声だから、なるほどって納得してただけ」


 外見からは想像できない、ちょっと低音というかハスキーっていうんだっけ? なんか息が届きそうな甘いセクシー……これ言うと怒られそうだしやめよう。


『良い声、ですか?』


「うん」


『……ショウ君、ありがとう』


 しっかりした声量の生声で言われて背筋がゾクゾクッとする。これはやばい。すごい破壊力……

 と、とにかくゲームに意識を戻さないと!


「あー、せっかくだし、精霊魔法の練習もするかな」


 光苔でうっすらと照らされている採掘場だけど、明るい方がやりやすいだろうし、何より使わないとレベル上がらない。

 インベから精霊石を取り出して、前と同じような明かりをお願いすると、淡い光の玉がすうっと昇っていく。


「へえ、結構天井高かったんだな」


『少し降りてきてましたけど、元の廊下の天井ぐらいまでありそうですね』


 合成音声に戻してくれたようで一安心。

 それはそれとして……


「なんか、上の方にも採掘ポイントあるんだけど、どうやって掘るんだろ?」


『はしごとか脚立とかでしょうか?』


「うーん、なんか勢い余って落ちる未来しか見えない……」


 あんまり高いところ好きじゃないんだよな。高所恐怖症ってほどでもないけど、やっぱり地面に足がついてるのが一番。


「まあいいや。とりあえず掘らないと」


 普通に手の届く範囲の採掘ポイントで今は十分。

 多分、これからもそんな上を掘る必要なんてないと思う……


 ………

 ……

 …


「ワフ」


「おかえり、ルピ。バイコビット狩ってきたのか。えらいぞー」


 鉄鉱石を持てるギリギリまで掘ってきて、古代魔導炉にまず一回目を放り込もうとしたところに帰ってきたルピ。

 しっかりとバイコビット2匹を咥えてくるあたり、俺が養われてる可能性が……


 さくっと解体し、少し厚めのスライスを一枚、ルピのおやつにあげると、それを咥えて広間の方へと戻っていった。

 まあ、今からガンガンやるし、あっちの方が静かで良いよな。


「さて、まずは鉄鉱石をインゴットに……」


 50個の鉄鉱石を放り込んで扉を閉める。出来上がる鉄インゴットは10個。

 まだ前回の残りもあるけど、置く場所はいくらでもあるので、作れるときに作っておきたい。


『今日の鍛治は大工道具の続きですか?』


「かな。前は大きいノミだったから、今日は中と小を作るつもり。ミオンは何か作った方がいいと思うものある?」


 俺としては、もう少し鍛治のスキルレベルが上がったら、ノコギリを作ってみようかなと思ってる。他の大工道具に比べて、明らかに難易度高そうなので……

 あとはカンナとか? でもあれは刃よりも本体の方が難しい気がするし、そっちは木工と細工かな。


『作るというよりも、直せるものがあるんじゃないでしょうか。拾ったナイフとかカナヅチとかですけど』


「あ、忘れてた」


 一度にできるだけ多く採掘したいから、インベの中身また広間にぶちまけたんだよな。取ってこよ。


 広場に戻ってくると、どうやらルピはちゃんとランチプレートに兎肉を置いてから食べたらしい。可愛すぎかな?

 で、姿が見えないということは、


「また遊びに行っちゃったかな?」


『遊びたい盛りみたいですね』


「うーん、遊んでやりたいけど、ずっとってわけにもなんだよな」


 置いてあったお皿の水が少し減ってたので足しておきつつ、放り出してあったカナヅチやナイフを回収。

 ナイフは錆びてたり、刃こぼれしてたりと、なかなか直しがいがある感じ。というか、よくこれでゴブリンリーダーに刺さったなっていう……


「まだまだ使えるし、直すのもいい経験値になりそう」


『はい。それにダメだったら、炉の方に入れてもいいのでは?』


「そっか。リサイクルもありなんだよな」


『ですです』


 そういえば、結局スルーしちゃってたけど、ゴブリンがカナヅチやらナイフを持ってたのは、やっぱりどこかから拾ったから?

 だとすると、そういうものを置いてあった場所がどこかにあるはずなんだよな。古代遺跡奥の開かない扉の先とか?


『どうしました?』


「あ、うん。ゴブリンがカナヅチ持ってたのってなんでかなって。

 どこかで拾った? 盗んだ? でも、あいつらってあの古代遺跡には入れなかったはずなんだよな……」


『ゴブリンもアーマーベアに追われて、こっち側に来たかもですよ?』


「なるほど……」


 向こうにはアーマーベアだけじゃなくて、ランジボアもいたし、雑魚ゴブリンじゃ相手にならないか。

 やっぱ、あっちの奥にまだ何か残されてる可能性は高いんだよな。ゲーム的にも……


『でも、それよりも気になることがあるんです』


「え? 何?」


『ゴブリンって文字を読めたんでしょうか。魔導書持って魔法使ってましたし……』


 やっぱり、人の言葉を読める頭の良いゴブリンが、ゴブリンマジシャンに選ばれて、英才教育を受けるのかな……

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