第68話 勉強も忘れないように

「ばわっす」


「良き夜よの」


 バーチャル部室に入ったのは8時前。

 晩飯の時に美姫に話はして、ナットといいんちょを合流させていいかは聞いた。


「うむ。あの二人なら我も気の置けない相手ゆえ大歓迎なのだ」


 とのこと。


「ところで二人のキャラ名は何なのだ?」


「え? ナットはいつも通りナットだけど、いいんちょは……聞いてないな」


 その答えに大きくため息をつかれてしまう。

 いや、いいんちょに似た真面目な感じのエルフっていう外見は見たし、なんならスキル構成とかも聞いたんだよ。

 でも、なぜかキャラ名を聞いてなかったっていう……


「兄上のそういうところは、父上とそっくりよのう」


「残念なものを見る目をするな……。ともかく、いいんちょにはミオンから連絡行ってるはずだし、お前がオッケーならナットにメッセ入れとくぞ」


 という顛末。


『ショウ君。鹿島さんから返事があって、柏原君と一緒に行くそうです』


「さんきゅ。ベル部長はもうIRO行ってる感じ」


『はい。セスちゃんと他の方々にお任せするので、自分は別件にって』


 まあ、魔女ベルは学校内の人には隠したがってたし、万一を考えるとその場にいない方がいいのかな。でも、別件ってなんだろ?


「で、兄上、配信する必要はあるか?」


「あー、そうだな。挨拶ぐらいはしとく?」


『はい。お二人の姿を見てみたいです』


「うむ、心得た。では、行ってくるとしようかの」


 と美姫のアバターが消えるのと入れ違いに、ヤタ先生が現れる。


「こんばんはー」


『こんばんは』


「ばわっす。あ……ってまあいいか」


 ナットといいんちょにヤタ先生……熊野先生がライブ見るかもって伝わってないよな。

 セス美姫からこの部屋限定配信への招待が飛んできた。


「どうしましたー?」


「あ、まあ、ちょっとセスの配信見ようって話で」


 ポチッと開くと映るのはもちろんセス。


『あーあー、兄上、見えておるか?』


「見えてるぞー」


『見えてますよー』


『うむうむ。では、待ち合わせの王都広場まで行こうかの』


 その様子にヤタ先生も納得した模様。ここから何が起きるのかは知らないと思うけど。

 スタスタと歩いて行くセスだが、結構、あちこちから視線が飛んでるのがわかる。

 広場の近くはスタート地点に近いのもあって初心者プレイヤーが多いし、セスの装備は目立つよなあ。


『む、あれのようだの』


 もう見つけたのか早足になったセスが向かった先には、美人エルフになんか怒られてる風の金髪イケメン。


『もし。兄上の親友ナット殿と見受けるが?』


『お? セスちゃんだよな? 良かった! ほら、大丈夫だったじゃん!』


『はあ……』


 大きなため息をついて首を振るいいんちょ。相変わらずって感じで安心する。

 多分、待ち合わせなのにセスがどんな姿なのかをナットが全然わかってなくて、それをいいんちょが怒ってたんだろう。


『久しぶりね、セスちゃん。えっと、ここではポリーだけど』


『うむうむ、いいんちょ殿、いや、ポリー殿だな。よろしくお願いする』


 その答えに苦笑いするいいんちょ。

 ポリーって名前だったんだ。覚えとこう。


『さて、まずはパーティーを組んでおこうかの』


 と二人をパーティーに誘うセス。

 へえ、そんな手順なんだ。俺は使うことないけど……


「おーい、ナット、聞こえるか?」


『お、ショウ? ああ、セスちゃんが配信して見てるのか』


『ポリーさん、こんばんは』


『あ、い……ミオンさんもいるのね。……大丈夫?』


 大丈夫ってどういう意味だよ! とか言うと、怒涛の反撃が来るのでグッと我慢……


『大丈夫ですよ』


「まあ、ちょっと挨拶したかっただけだし、俺らは無人島行くから」


 あとはセスがうまいことやるだろうし、さっさと退散かなと思ってたら、


「二人ともちゃんと楽しんでますかー?」


『え……』


『先生?』


「はいー。遊ぶときはしっかり遊びましょうねー。勉強も忘れないようにー」


『うっす……』


『は、はい!』


 ニコニコしてるヤタ先生。

 黙ってるのかと思ってたけど、単に一番いいタイミングを狙ってただけだよな、これ。

 まあ、二人が可哀想だし、さっさと解放してやろう。


「じゃ、セス、あとは任せた」


『うむ、任された!』


『では、失礼します』


 ライブを閉じてほっと一息。

 ちらっとヤタ先生を見ると、すごく満足そうで……良かったっすね。


***


「はあ……」


 ルピが食べた後の食器を浄水の魔法で洗う。

 綺麗に食べてくれるし、ゲームなんだから洗う必要なんてあるのかと言われると微妙だけど。


『どうしました?』


「これ、明日また俺が怒られるやつじゃない?」


『大丈夫ですよ。明日は土曜日で学校お休みじゃないですか』


 あ、そうだった。


『二人とも本当にびっくりしてましたね。でも、先生が来ても「まあいいか」ってしたのもショウ君ですよ?』


「はい……」


 でも、あそこでヤタ先生に黙ってて欲しいとも言えないしなあ。

 ……電脳部の顧問がヤタ先生だって話はしてたし、油断してた二人が悪いってことで。


『今日は鍛治の続きですか?』


「かな。その前にちょっと川の様子見てくるよ」


『はい』


「ルピ、行くぞー」


「ワフッ!」


 洞窟入口の東側、崖伝いに少し下った所にある小川だけど、この前までは雨のせいで濁ってたんだよな。

 そろそろ戻ってくれてると、明日のライブでも来れそうなんだけど……


「お、綺麗な川に戻ってる」


『これでまたフラワートラウトが食べられますね』


「そうそう、それライブの時にやろうかなって」


『いいですね!』


 前に設置した囲い罠が一部崩れているので手直し。とルピが「泳いじゃダメ?」って顔をしている……


「川下の方ならいいよ。流されるなよ?」


「ワフン!」


 その言葉に突撃していく。

 なんか綺麗好きだよなあ、ルピ。


「そういや、ルピって【狼?】から変わらないんだけど、どうすりゃ良いんだろ? 鑑定スキルが上がればわかるのかな?」


『前提として何かを知ってないとダメとかでしょうか?』


「ああ、なるほど……」


 なんかそれはすごくありそうな気がしてきた。


『それと関連するかわからないんですけど、前に植物学とかが取れない話があったじゃないですか。その理由……聞きますか?』


「あ、うん、聞きたい」


 俺がネタバレ嫌いなのに気を遣ってくれててありがたいんだけど、さすがにこれはもうノーヒントじゃわかんないし……


『すでにスキルを持っている人に聞くか、その学問の本が必要だそうです』


「あー、そういう。先生か教科書がないと取れないんだ」


 納得っちゃ納得なんだけど……取れる未来が見えない!

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